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天才ギタリスト ジミ・ヘンドリックス、彼はいかにして伝説となったのか――
60年代のロック・シーンに彗星のように登場し、ロックの歴史に名を刻んだ伝説の男、ジミ・ヘンドリックス。無名だった彼はいかにして才能を見出され、ロックスターとして駆け上がっていったのか。1966年と67年の2年間にスポットを当て、知られざる濃密な人間ドラマを描き出していく伝記映画。4月11日、ヒューマントラストシネマ渋谷、有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
ジミヘンを、ヘコませるにはどうしたらいいのか!? それはギターを持ち去っちゃえばいいの! みたいな技を浮気された彼女役のイモージェン・プーツがかましていたのがおもしろかった。60年代伝説のギタリスト、ジミ・ヘンドリックス。サイケといえばジミヘン。27歳で死んだと言えばジミヘン。ギター燃やしたと言えばジミヘン。エレキでアメリカ国歌と言えばジミヘン。しかし、そのすべてがこの映画には出て来ない。ジミ・ヘンドリックスこと当時ジミー・ジェイムスがNYの片隅でキース・リチャーズの元カノに見出されて、ロンドンに渡り、元アニマルズのメンバー、チャス・チャンドラーのマネージングのもと、業界のウワサになっていく。そしてついにアメリカに凱旋し、これから伝説が始まる......というその直前で映画は終わるのだ。この先はみんなもう知ってんだからいいだろ、というのが渋い~!いじわるいじわる、パープル・いけズ~!
最初ガラガラのパブで演奏しているその髪型が、時代なのかおかっぱで相当ダサいのがいい。当時の芸名ジミー・ジェイムスというのもダサいし、でも周囲から「それダサいから変えろよ」と言われたりするのを受け入れるままに、彼はジミヘンになっていく。NYからロンドンに行くのも成り行きだし、親父と不仲と言いつつジョニー・キャッシュほど劇的にこじれてないし、苦労しているとはいえレイ・チャールズほどハンディキャップ背負っているわけでもない。ヒマな日は古本屋でSFの本を買って、フームとか読んでる。なんか、60年代のロックスターの映画だけあって熱狂と混乱、大歓声に孤独のどん底みたいな激しい展開を予想したんだけど、本作のジミ・ヘンドリックスは結構、普通の奴なのだ。
とくにトラブルへの対処の仕方がおもしろくて、たとえば道で女の子と2人で軍服をきて歩いていると、警官に囲まれる。いちゃもんをつけられ、その服を脱げと言われ、これがほんとにいやなシーンで、クソムカついていると、ジミヘンは素直に服を脱いでしまう。彼女は「なんで脱いだの?」とか怒ってるんだけど、「物事はやりすぎちゃいけない。ほどほどってところがあるんだ」とかつまんないことを言って、闘うことを避ける。逆に黒人解放運動の活動家の家に招待されても、今度は「俺は観客が白人か黒人かなんて、どうでもいい」と、これもシリアスに受け止めない。彼の前で元カノと新しい女が「ふざけんじゃないわよ!」とか修羅場に突入しても、「オーウ」とか言って、その流し方がまたなんともいえない。アウトキャストのアンドレ3000が演じる本作のジミヘンは、1日8時間練習したというギターアクションもすごいが、このガツガツしてないイージーなノリがかなりハマっていたと思う。
だからある日のパブで、彼女にむかって「なんで俺を無視するんだ」とかいって殴りかかるシーンが印象深い。女に手を出す駄目な奴じゃんという、本作のジミヘンは負の部分もまたいかにも不幸な家庭出者にありそうな、普通さで描かれているのだ。
映画には、時代を反映して、エリック・クラプトンやキース・リチャーズ、ポール・マッカートニーなんかも登場してくる。中でも元カノがNYで黒人に夢中になってるらしいと知ったキース・リチャーズが、「お父さん!娘さんをなんとかしてくださいよ!」とか泣きついてるのがダメすぎてバカウケなのだった。ジミを見出したリンダ・キース(イモージェン・プーツ)はグルーピーだけど、T-ボーン・ウォーカーやハウリン・ウルフ、ロバート・ジョンソンなんかを聴いていて、確かな耳を持ったロックンロール、ブルースの愛好家だった。一方ジミはボブ・ディランが好きだったり、またクラプトンを尊敬していたりして、つまりイギリスの白人がアメリカの黒人に憧れ、アメリカの黒人がイギリスの白人に憧れている、この映画にはおもしろいねじれがある。彼が無造作にギターをかき鳴らすと、そこからとろけるようなブルースや激しいロックが流れ出し、物語は映像と音がずれた独特のつなぎ方で、若干酩酊したようなサイケデリックさを感じさせながら進んでいく。
そういえば、ジミヘンが新しい女とよろしくはじめようとすると、ベットサイドのラジオからゴキゲンな曲が流れてくる。それが「レディオ・キャロライン」という放送局なのもうれしかった。これは映画化(『パイレーツ・ロック』、最高の映画だ!)もされた伝説的な海賊ラジオ局で、当時イギリスでロックを流していたのはここだけだったのだ。
イギリスでの名声を決定づけるべく、ビートルズ・トリビュート・イベントへと盛り上がっていくジミヘン。一方普通の男としてのジミヘンは、他の女とよろしくやりつつも、彼を見出したリンダ・キースとの間に、微妙な恋愛感情を持っていた。最後モンタレーに向かう彼が、リンダに一緒に来ないかと誘う。ここで「愛してる」と言わせたい女と、それを言わずにすませたい男の、「男女あるある」が出現する。ジミヘンはミュージシャンならではの技を繰り出すのだが、最強のグルーピーであるリンダ・キースにはそれが通じない。そしてついに「・・・」状態になっている彼を眺めていて、あろうことか『ソーシャル・ネットワーク』で最後、友達認証を待ち続けていたマーク・ザッカーバーグの姿を思い出した。女を前にすれば、ジミ・ヘンドリックスも、マーク・ザッカーバーグも、みな「・・・」状態になる。男は誰しもこういうボンクラ的瞬間を抱きしめて、生きていくのだ。
文=ターHELL穴トミヤ
1966年、ニューヨークで見出された一人の名もない男が、
伝説と呼ばれるまでの知られざる2年の軌跡。
『JIMI:栄光への軌跡』
4月11日、ヒューマントラストシネマ渋谷、有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
関連リンク
映画『JIMI:栄光への軌跡』公式サイト
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