WEB SNIPER Cinema Review!!
中田永一による恋愛小説の傑作を初の映画化!!
役者への夢に破れ、吉祥寺でバイト暮らしをしている朝日奈の前に、ひとりの女性があらわれた。けれど彼女は人妻で子持ち……。彼は思い悩むが、その恋の結末には大きなどんでん返しがまっていた。『百瀬、こっちを向いて。』の中田永一による原作小説を映画化した、全編吉祥寺ロケの青春恋愛劇!!11月19日(土)、吉祥寺バウスシアター、ユーロスペース他全国順次ロードショー
以前、テレビで東京で住んでみたい街ランキングというのを見たことがある。確か3位は目黒か恵比寿で2位が下北沢、そして堂々1位を飾っていたのが吉祥寺だった。
「あー、いいよね吉祥寺。おしゃれなカフェや飲み屋もいっぱいあるし、映画館もライブハウスもあるし、それに井の頭公園あるから緑が多くて落ち着くんだよね……」なんて人には無条件に観てほしいのがこの映画だ。
かくいう私も、学生時代はよく井の頭公園をふらつき、夕方になると公園の入り口のところにある“いせや”で焼き鳥を食べながらクダを巻いていたクチだから、100%吉祥寺ロケを敢行したという本作はたまらないものがある。パルコ、サンロード、バウスシアターにミートショップサトウの行列ができるメンチカツ。そんなものが画面に出てくるとついニヤニヤしてしまう。
しかしまあ、もしあなたが吉祥寺に行ったことがないとしても、十分楽しめるんじゃないだろうか。なんといっても主人公は『仮面ライダーW』や『イケメン★パラダイス』に出ていた注目のイケメン俳優・桐山漣。スリムでシャイで草食系の彼が、実生活でも最近結婚したばかりの星野真里演じる子持ち人妻に恋をするってんだから、なんというかもう身悶え必至である。
ストーリーはこんな具合だ。
主人公は、吉祥寺のアパートに住む25歳の朝日奈くん。小劇場で役者をしていたけれど今はしがないフリーターの彼はカフェの店員・山田真野 に恋をして、彼女の働くカフェに通いつめている。
ある日、そのカフェで若いカップルの痴話ゲンカに巻き込まれたことから2人は急接近。彼女は人妻でかわいい子供もいると知った朝日奈くんだったが、それでも恋心は抑えられない。夫とうまくいっていない真野からのメールを待ち、ようやく手をつなぐかつながないかというくらいの超プラトニックなデートを重ねる(なんと最後までキス一つしない!)。
そう、これだけ聞くといかにも今どきの中央線系というか、定価1000円くらいのサブカル恋愛コミックによくありそうな話だ。
しかし「ああ、これはこういうしみじみムードを味わう映画なのだな」と思ってぼんやり観ていると、いい意味で期待を裏切られてしまう。
まず面白いのは、この手の映画は自然体であることが必須なのにもかかわらず、登場人物の演技がなんとなく芝居じみているところだ。
朝日奈くんは小劇場の役者というアクティブな経歴を持つイケメンなのに、たまに昔のバイトの先輩と飲んだり献血に行ったりするほかはほとんど交友関係が見られず、真野に対してもずっと敬語。ちょっと台本が見えるような喋り方が面白い。
星野真里だけがイキイキと魅力的に画面になじんでいるので、最初は他の役者がヘタなのかとも思う。でも、話が進むにつれてその“芝居じみた感じ”の正体がわかってくる。
そして、この映画のキモはラストのどんでん返し!
これを言ってしまうと完全なるネタバレになるので黙っておくが、しみじみした胸キュンムードは一気に壊れ、ドロドロした話に早変わり。小さな伏線が次々脳裏に浮かび「ああ、そうだったのか」と膝を打つ。
間違ってここのところでトイレに行っちゃったりなんかすると、わけわかんなくなるので注意してほしいところだ。
小綺麗でオシャレだけど、トンガリすぎてなくて安心できる。草食系で文科系で、どこか学生っぽさが抜けない甘さがある。朝日奈くんは吉祥寺という街によく似てる。
だからやっぱり、吉祥寺の街が好きな人に観てもらいたい。
バウスシアターでも公開するようなので、東京に住んでいる人はぜひそちらで。そして帰りはまだ陽の高い井の頭公園をぶらぶら散歩し、ハーモニカ横町で一杯やれば完璧な休日が出来上がるだろう。
文=遠藤遊佐
恋して、迷って……どうしてぼくは、この街にいるんだろう?
出会うのが遅すぎた二人の切ない恋愛映画
FLV形式 6.16MB 2分22秒
『吉祥寺の朝日奈くん』
11月19日(土)、吉祥寺バウスシアター、ユーロスペース他全国順次ロードショー
関連リンク
映画『吉祥寺の朝日奈くん』公式サイト
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