WEB SNIPER Cinema Review!!
世界滅亡を夢見る若者たちの友情、愛と憎しみが爆発!!
『マッドマックス2』に登場する悪の首領、ヒューマンガスをヒーローと崇める2人の若者二人・ウッドローとエイデン。働く気もない彼らは映画に描かれた滅亡後の世界を夢見つつ、戦闘用カスタムカーとそこに搭載する火炎放射器づくりに明け暮れていた。そんなある日、ウッドローはミリーという女と恋に落ちる。が......彼女の裏切りを知ったウッドローは、怒りと絶望の余りに正気を失い、火炎放射器を手に狂気の世界へと突き進んでいくことに。新鋭エヴァン・グローデルが自らの体験を元にストーリーを製作し、監督・脚本・編集・主演までを務めた話題作!!シアターN渋谷にて、絶賛公開中!! 他、全国順次追撃ロードショー!
男はフィクションがないと生きていけない。ロックンロール、司馬遼太郎、チョイ悪親父。それが、この映画では「マッドマックス2」「火炎放射器」「カスタムカー」だ。フィクションを媒介として、男は仲良しサークルを作る。そこに女は「なにそれ楽しそうね」と言って近づいてきて、本当は興味ないくせに「うわーすごい! おもしろーい!」とか言って、挙げ句メチャクチャにして帰って行くんだよ! 女ってのはいつもそうなんだよ! バンドも劇団も友人関係もそうやって解散、崩壊、消滅するんだよ! いつだってそうなんだよ! ばかやろ! ばかやろ!(机をたたきながら)。
西海岸に住んでる奴が、友達同士でつるんで作製した自主映画。予算はわずか1万7000ドル。撮影は自作した特殊カメラで、本編中には自作した火炎放射器も出てくる! 事前情報からもう男子マインドをびんびん刺激される本作だが、映画自体はいたってシリアスなつくり。さらに、全編から天然炭酸泉のようにそこはかとないボンクラ感が湧き上がってきて、しかしそこはさすが西海岸。ボンクラといっても、今まで観てきたほかのボンクラとはまたひと味違っていた。
たとえばこいつら、DIY精神でものすごい工作能力が高いのだ。助手席でウィスキーを飲むことができる車の改造もバッチリだし、火炎放射器も実際に作ってしまう。ここら辺はさすがシリコンバレーの生みの親、西海岸の伝統なのだろうか。
友達の描いている自作マンガは、「僕の考えた最凶悪役ストーリー」みたいな感じで、『ナポレオン・ダイナマイト(邦題 バス男)』の主人公と全く変わらない。しかし本人は決してモテなそうではなくて、気後れせずに言いたいことを言うし、ギターも弾いちゃうし、なんか絵を描きながらマリファナ吸ってるし、さらには初対面の女の子にも屈託なく話しかけて、きっかけさえあれば彼女だってごく自然にできちゃう。でも一方では『マッドマックス2』の世界に憧れていて、この能力の高さと社会性の低さ、さわやかさとボンクラさの同居している感じが西海岸なのだ。
主人公と友人はフラットハウスに住み、映画のしょっぱなから「世界が滅びたらどうするよ!?」などと話しあっている。『マッドマックス2』の最凶の悪役、ロード・ヒューマンガスに憧れている彼らは、火炎放射器や、狂ったマッスルカー(その名もメデューサ号)の製作に情熱を燃やし、「まだみんなが途方に暮れてるときに、炎を吐きまくる、超悪魔な車で俺たちが登場しちまう......」「相棒、お前はヒューマンガスだ! 世界中の奴らが屈服しちまうぜー!」と盛り上がっているのだが、その後バーで出会った女の子に、自分たちが破滅させられてしまう。それが本作のあらすじだ。
しかしこの映画、女に浮気されたことのあるヤツが観たらたまらないよ! とくに、浮気が発覚してから、実際は自分がそこにいなかったのにも拘わらず、その最中を眺めている自分を想像して、さらに吐く感じ。それだよ! まさにそれ! そのゲロシーンに、友達が「イエー! フォー! イエー!」って興奮しながら、完成したメデューサ号を吹かしまくり、炎を吐きまくるカットがインサートされる瞬間。その深紅の炎でフレームの中のものすべて浮かび上がる、あのシーンこそが本作の絶頂だ。
自慢の特殊カメラで撮影された本作は、「奥行き」ではなく、画面の任意の「部分」にピントが合う。その結果、謎の見た目を獲得していて、この発想自体が映画内で火炎放射器を作っている2人組と、地続きのボンクラ感を感じさせる。バイクを買うシーンでは、どうもこのカメラのレンズに汚れ(泥)がついたまま撮影してしまったらしい。撮り直しがきかないのでごまかすためか、さらに汚しエフェクト、古いフィルム風エフェクトみたいのを編集で足していて、ばればれだから......と思いつつも、それも含めてほほえましかった。
しかし夜、街中をメデューサ号で疾走する固定カメラの映像などは、湿った漆黒の悪を感じさせる、カー・ムービーとして完璧な撮影だ。さらによかったのは彼女と4人、ダブルデートでビーチに行くシーン。西海岸の強い太陽光線のもと、コントラストの強い絵はがきのような画面が広がり、観客に「失われた過去」としての郷愁を強烈に印象づける。
音楽はSantogold、Lykke Liにホームパーティーシーンではダブステップなんかもかかり、さすが西海岸、センスがいい。印象的だったのは、暗い男がボソボソと「俺は黒人の友達が1人もいない...... 云々」みたいなラップをする曲(why?の『good Friday』)。たしかにこの映画には1人も黒人が出てこないし、それなりに淀んでいそうな西海岸ボンクラ白人社会のよどみが、この1曲に凝縮されているようで興味深かった。
劇中曲の大部分はこれまた友達が作りためていたオリジナルスコアで占められていて、作曲者が語る「これが世に出るとは夢にも思わなかった。本作に使われなかったら、ハードディスクの中で埋もれたままだっただろう」というようなコメントも寂しげでいい。実に彼が、この曲をあてどもなく作っていた期間は10年。この映画は、西海岸ボンクラ白人の夢のカケラを結集した、梁山泊のような映画なのだ。
現実の世界では、自分の彼女に失礼な態度を取るヤツに殴りかかると、自分がぶちのめされてしまったりする。現実の世界では、彼女に向かってつい不安のあまり、惨めなことを口走ってしまったりする。そして何より、現実の世界では、時間は絶対に後戻りしてくれない。一度起きてしまったことは二度と取り消せず、なかったことにはできないのだ。
ボーっと観てるとかなり混乱してしまうのだが、この映画は後半、時間が分岐するから注意して観てほしい。『ベルフラワー』は映画だから、あり得たかもしれない、あってほしかった時間や、妄想の中でしか存在しない時間軸も同時に存在している。本作は監督が実生活で彼女にフラれた、そのショックから作られた。だからこそ、その時ひとが心の底から求めるフィクション。この映画にはその切なる願いが感じられる。
フィクションこそが、すべてを可能にする。フィクションは、裏切らない。ロード・ヒューマンガスよ永遠なれ! 全世界の男たちよ!! これでいいのだ!!!
文=ターHELL穴トミヤ
火炎放射の炎で描く狂熱の青春映画、誕生。
FLV形式 7.43MB 2分04秒
『ベルフラワー』
シアターN渋谷にて、絶賛公開中!! 他、全国順次追撃ロードショー!
関連リンク
映画『ベルフラワー』公式サイト
関連記事
本物志向じゃなくて本物! 尺八がかかるシーンで日米同盟を確信! 米軍の機密部隊、ネイビーシールズ全面協力の映画が登場 映画『ネイビーシールズ』公開中!!