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WEB SNIPER Cinema Review!!
『少女ムシェット』のロベール・ブレッソン監督がドストエフスキーの短編を実写化!!
画家を目指しているナイーブな青年ジャック(ギョーム・デ・フォレ)は、ある夜、セーヌ川に架かる橋の上で苦悩に沈む美しい女性マルト(イザベル・ヴェンガルテン)と出会い、語り合う。結婚を誓った男との再会を願うマルト、マルトに恋をしてしまったジャック。二人のドラマの始まりだった――。ドストエフスキーの小説が、19世紀ペテルブルクから1970年代のパリへと舞台を移して蘇る。

2012年10月27日(土)渋谷・ユーロスペースにて公開
2012年12月22日(土)より、大阪、梅田ガーデンシネマにて公開
2013年1月19日(土)より、京都、京都シネマにて公開
以降、神戸アートビレッジセンター、名古屋シネマテーク、ほか全国順次公開
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当然、主人公は捨てられる。この話は主人公の恋が実を結ぶのか、どうなのか?!というハラハラよりも、当然、捨てられる主人公、そのぶざまさにむけて盛り上がっていく、そこに全ての魅力があるのだ!
原作は、ドストエフスキー『白夜』。この短編のなんと独りよがりで、世知にうとく、間抜けで、滑稽なくせに人恋しげなことか!! 文中に繰り返される、「しかし諸君!」「だが読者諸君よ!」という呼びかけはまさに、ドストエフスキー魂の叫び! そしてこの話の主人公ときたら、女の子と1度もまともに話したことのない、どころか同性の友達もいない26歳の男なのだ。それが捨てられる! 無惨にも! 電車男のようなハッピーエンドなど望むべくもない(当然だ!)! 嗚呼、そこへとむかう暗い興奮こそ、この作品の全て、あなたや私が心から望んでいるものなのだ!

ブレッソンは、舞台を19世紀ペテルブルグから、20世紀のパリに置き換え、本作を見事なボンクラ喜劇に仕上げた。それが今回、公開から30年以上の月日を経て35mmニュープリント・フィルムで上映されている。ブレッソンは映画化にあたり、原作から滑稽さを受け継ぎ、そこに新たにテープレコーダーというアイテムを加えた。滑稽さと、テクノロジー、これこそ映画ではないか!

主人公は孤独な男、ジャック。眉毛がほとんど繋がった彼が、画面に登場した途端「コリャ駄目だ!」と思わずにいられない。ボンクラ野郎のオーラには洋の東西を問わない、共通したものがあるらしい。そんな彼の日常は、店で美女を見つけては追跡し、道で美女とすれ違っては追跡し、最後は家に帰りその女たちと自分の恋愛寸劇をテープに吹き込むというもの。BGMもないままにひたすら美女のあとを付け回すシーンは、まるで『シルビアのいる街で』状態なのだが、グザヴィエ・ラフィットに比べて本作主演の、なんとイケてないことか!
ところがそんなムッツリスケベの彼に、ある日出会いが訪れる。ポンヌフの橋を通りかかったとき、いつも通りいい女いないかなーときょろきょろしていた彼が見つけたのは、なんと身を投げようとしている美女だったのだ! 慌てて駆けつけるジャック。彼女の名はマルト。聞けば、かつて家に下宿していた男が「結婚できる身分になるまで1年待ってほしい」と去っていった、その約束の1年がもうすぐ過ぎ去っていくことに絶望しているというのだ。
そこから2人は夜ごと、語り合うようになる。だがしかし嗚呼! ボンクラにありがち! 彼はマルトが愛する人とヨリを戻すための、相談相手の位置に納まってしまうのだ! 主人公の内心はといえば、もちろんマルトを好きになってしまい、部屋では一人マルト、マルトマルト......、とテープレコーダーに吹き込む始末。もちろんドストエフスキー×ブレッソンによる主人公への虐待はやまず、ついにはマルトから「愛する男へのラブレター」を託され、「愛する男」のもとまでそれを届けるしごとまで請け負ってしまう。
道中のバスで、マルトへの思いのたけを吹き込んだテープを、やおら再生する主人公。当然、周りの席のご婦人方はドン引き......。これこそ、露仏の世紀をこえたボンクラ・コラボレーションが炸裂する瞬間だ! そしてこの、吐き出せない思いをテープレコーダーに吹き込んで公衆の面前で再生するという行為が、映画という機械芸術と相似形になっていることを見逃してはならない! 

(C)Gian Vittorio Baldi

BGMはなく、歩く時の靴底のきしむ音、男が倒れた時の、腕が床に触れる音、本作の全ての音は映っているものと等価の存在を主張し、それが不自然であるがゆえに、観る者に映画であるということを意識させる。音楽が流れる時も、画面にはかならずその主体、演奏者かラジオが登場し、そのことがかえって音楽が聴こえてくることの特別さをあらわにする。そして、夜の街に魔法のような浮遊感を与えているのだ。
船の上で奏でられるラティーノたちによる、コンガとギター三重奏の調べ。また1971年という製作時期を感じさせる、縦笛も交えた白人バンドのアシッドフォーキーな演奏。本作の音楽はどれもはかなく不思議で、すばらしい。

作中、2人が映画館に向かうシーンがあるのだが、ここではアメリカのアクション映画を模したような、ギャングものがかかっている。この『インセプション』の夢の中の夢とでもいうような映画の中の映画世界では、さらにフィクションは度合いを深め、登場人物たちの演技はほとんどゴッコ遊びのような様相を呈してくる。リアリズムを志向するアメリカ映画に対して、フランス映画の特にヌーベルバーグにおいて顕著なゴッコ精神は、「アンプロフェッショナリズム」を「憧れ」へと転身させる手品として
『勝手にしやがれ』の昔から機能してきた。それがもう一度、ヌーベルバーグの父たるブレッソンによってここで繰り返されているのだ。ゴッコ感あふれる間抜けな画面、しかしその奥から迫ってくる底知れない感動には、フランス映画による、自らの歴史への承認の興奮が隠されている。

そして、ついにマルトに告白し、愛を受け入れられた我らがジャックの、早速パイオツをもんでいるその手元。『スリ』で動きを純粋に楽しみとしてとらえていた「純粋映画監督」ブレッソンの手腕が、ここでも胸モミとして発揮されているのを、諸君は見逃してはならない! だが諸君、もちろん我々にとって重要なのは、ハッピーエンドではなく(もちろんそんなものはないのだが)、そのあと一人家に帰る主人公の姿ではないか。
ブレッソンは『少女ムシェット』で世界から見捨てられた少女を主人公に据え、カメラだけは見捨てないという映画の使命を、その映画史に残る最後のカットで示してみせた。そしてこの『白夜』しかり、やはり彼のカメラは、見捨てられた者をこそ最後まで追っていくのだ。そして、それこそがまたドストエフスキーが生涯を通して追ってきたもの、孤独、独りよがり、間抜け、ボンクラ、映画や文学の尽きせぬ源泉、つまり芸術なのである。

文=ターHELL穴トミヤ

懊悩のエロティシズムが横溢する大人の恋の映画――




『白夜』
2012年10月27日(土)渋谷・ユーロスペースにて公開
2012年12月22日(土)より、大阪、梅田ガーデンシネマにて公開
2013年1月19日(土)より、京都、京都シネマにて公開
以降、神戸アートビレッジセンター、名古屋シネマテーク、ほか全国順次公開

(C)Gian Vittorio Baldi

監督・脚本=ロベール・ブレッソン
原作 = 原作:ドストエフスキー (『やさしい女・白夜』講談社文芸文庫刊)
出演= イザベル・ヴェンガルテン、ギヨーム・デ・フォレほか

配給=エタンチェ
宣伝=酒井 慧

1971年|フランス・イタリア共同製作|フランス語|35mm|イーストマンカラー|1:1.66|モノラル|83分|全9巻|2,257m|日本語字幕:寺尾次郎

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映画『白夜』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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