耳かきをすると、自分の心の声が聞こえてくる。震災後を生きる若者の揺れる心と、耳かき店の実態を描く！　映画『耳をかく女』公開!!

震災をきっかけに恋人と別れた絵菜（桜木梨奈）は原因不明の難聴に悩まされ、やっと掴んだ就職先まで失ってしまう。補聴器を手放せない彼女はなかなか就職できずに落ち込んでいたが、友人の誘いで耳かき店で働き始めたことから、自分自身の変化を感じ始める――。震災後を生きる人々を独自の切り口で描いたヒューマンドラマ。

11月24日より新宿ｋ'ｓcinemaにて連日20時50分からレイトショー

ふむふむ『耳をかく女』か。昔から「耳がかゆくなるといい知らせがある」なんてことを言うし、これはきっとラッキーな女性の話なんだろうな......と思って観たらそうではなく、耳かき、つまり耳掃除のほうでした。
そう、本作のヒロインは、ひょんなことから"耳かき店"で働くことになった女性。耳かき店というのは数年前に話題になった、浴衣姿で客を膝枕して耳掃除をしてあげるというアレですね。エロい！
しかし、この作品の素晴らしいのはエロさではなく、耳掃除をしてもらっているときのような不思議な心地よさ。私は下衆な人間なので「今に卑猥な事件が起こるに違いない！」と思いながら観てたんですが、気づけば"耳かき店"なんて特殊な場所で働きながらも、ピュアで透明感溢れるヒロインにすっかり癒されておりました。


本作のキーワードは「耳」。至るところに「耳」が出てきます。
地震の中、同棲中の恋人に部屋に置き去りにされてしまった絵菜（新人の桜木梨奈ちゃん、最高！）は、震災の影響で就職内定も取り消され、先の見えない就職活動を続ける毎日。しかし、震災以来原因不明の突発性難聴に悩まされるようになっていた彼女は、補聴器が手放せずなかなか仕事が決まらず、友人の紹介で耳かき店で働くようになる。
そして、そこに現われるのが写真家を目指しながらもなかなかうまくいかない会社員・吉伸。彼は面接を受けにきた絵菜の美しい耳に惹かれ、街で偶然見かけた彼女を追って耳かき店に入っていく――。　

「耳かき店」で働く「耳」が不自由な女、そんな彼女の「耳」の美しさに惚れる男。いやあ、まさしく耳だらけ！
でもこれ、単なる耳フェチの話じゃあないんですね。絵菜の難聴はたぶん聞きたくないことが多すぎるせい。でも、耳かき店で個性的な客たちを相手にするうちに奇妙な安堵感を覚えるようになっていく。吉伸が絵菜の耳に惹かれた本当の理由も、話が進むにつれて明らかになってきます。
吉伸とのピュアピュアなラブストーリーも良かったけれど、私が個人的にグッときたのは耳かき店に入店して接客していくくだり。特に店長役の宇野祥平（『婚前特急』や『苦役列車』に出てるいいキャラ）は要チェックです。
「君は大学で何してきたの？　勉強にしては成績は普通だねえ」と嫌味を言う就職活動の面接官と、「大学って楽しかった？　俺中卒だからキャンパスライフって憧れるんだよねえ」とへらへらしてる店長の対比は痛快。いやあ、私だったら世の女の子は全員耳かき店に勤めさせますね。
途中でところどころ客や耳かき嬢のインタビューが入るのも、等身大の「耳かき店」がわかってなかなか面白いです。

そして、本作を観るうえでもう一つ忘れてならないのは、東日本大震災の存在。
絵菜が遭遇した地震というのはもちろん東日本大震災であり、就職がチャラになってしまったのも、耳がおかしくなるほどのストレスも元はと言えば震災のせい。
いわば本作は、震災で急にいろんなものを失って揺れ動く若者達の再生の物語でもあるわけです。
ラストシーンで「震災で就職内定を取り消されたとき、私、ただ生きてるだけ、何も考えずただ生きてるだけだって気づいたんです......」と言う絵菜。街で原発反対のプラカードを持ちツイッターを気にしながらデモに興じる若者達。どちらも不安で、傷ついている。
この手のテーマを重くならないように物語に溶け込ませているあたり、センスがいいなと感じました。


監督・脚本・編集は、40歳の若さで急逝した孤高のフォークシンガー・加地等を追ったドキュメント『加地等がいた―僕の歌を聴いとくれ―』で話題を呼び、続く『私の悲しみ』では14人の男女が紡ぎだす8つのドラマを繊細に描き出した堀内博志。
本作でも、誰もが持っているだろう孤独や悲しみが、時に面白く時にリアルに迫ってきます。
危うくて、繊細で、でも心地いい1本。
震災以降不安でどうしようもないとか、震災云々は関係ないけどなんか落ちつかないという人は、誰かの膝枕で耳かきしてもらうといいんじゃないでしょうか。大きな耳垢がとれて、自分の心の声が聞こえるようになるかもしれないですよ。

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震災後を生きる人々の孤独、フェティシズム、そして愛とエロス――




『耳をかく女』
11月24日より新宿ｋ'ｓcinemaにて連日20時50分からレイトショー

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映画『耳をかく女』公式サイト

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