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(C)映画『EDEN』フィルムパートナーズ

WEB SNIPER Cinema Review!!
『カフェ・ソウル』の武正晴監督が紡ぎ出す、感涙のエンターテインメントショウ!!
故・原田芳雄が生前に企画を温めていた、船戸与一による短編小説「夏の渦」の映画化作品。新宿二丁目のショーパブ「EDEN」を舞台に、ゲイやニューハーフたちが織り成す人間模様をマイノリティに対する温かな視線で描き出す。

新宿K's Cinema、オーディトリウム渋谷、名古屋シネマスコーレにて現在公開中
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(C)映画『EDEN』フィルムパートナーズ

免許の更新に行くと「飲酒運転が招いた悲劇......」「スピード超過さえしなければ......」など、教訓的なドラマを見せられます。本作はそれをちょうど反転させた感じの教育映画になっていて、観るものにセクシャルマイノリティたちへの理解を啓蒙する! だから警察は悪者で、性転換した死体を前に「うわ、ヒデーな親からもらった身体を」とか言ってるんですが、いまどきそんな奴いないだろと突っ込みたくもなってくる。でもそこは啓蒙映画だから仕方がない! 中国映画に出てくる日本鬼子みたいなものでしょう! しかし、もう1人でてくる歳上刑事の方は、「みなさん、がんばりましょう!」とか適当なことばっか言ってて、味があってよかったですね。

原作は船戸与一の短編小説『夏の渦』。監督は『パッチギ!』などのチーフを努め、自身の作品としては『花嫁は18歳』『カフェ・ソウル』などを撮ってきた武正晴。本作、映画化にあたってはひとつ逸話があって、この原作をそもそも映画にしたいと言い出したのは、昨年亡くなった原田芳雄だった。その話を聞いていたのが、自身の会社シネカノンが倒産状態にあった李鳳宇だったんですね。この『EDEN』はそんな李鳳宇のプロデューサー復帰第1作でもある。 

映画は2丁目のゲイバー(その名も「EDEN」)から始まります。そこにデブだったり、チビだったり、美人だったり、6人のオネエたちが働いている。その中のリーダーをなんと山田太郎が演じていて、このオネエ演技がハマってるというのが本作、最も意外なところでした。ただの女言葉というのでなく、しゃべってないときの表情の作り方、笑顔なんかがなんともうまい。
そして、このゲイバーのオーナーに高岡早紀というのが、過去を感じさせる美女という感じでまたまた渋いキャスティングです。

(C)映画『EDEN』フィルムパートナーズ

ある日、この「EDEN」に客として飲みに来ていたノリピーが、山本太郎の家に泊まったうえ急性心不全で死んでしまう。彼女は性転換手術で身体も女なんですが、司法解剖が終わった遺体は、家族に引き取りを拒否され、なんと「EDEN」に運びこまれてきてしまいます。化粧を落とされ、性別不詳になったノリピー。6人は彼女に再び化粧をほどこして、自分たちで無理矢理にでも家族の元へ送り届けることを決意する...。 

とストーリーはすすんでいくんですが、ここに高岡早紀へのストーカー犯を懲らしめるエピソードなんかが絡まってくる。このとっちめるシーンがけっこうよくて、6人のオネエがまず全員、最もキメ服な勝負ドレスで花園神社に集合するんですね。そして横一列になって出陣していくシーンは『キューティー・バニー』(フレッド・ウルフ監督)みたいな、あれは元プレイメイトが、女を捨てた女たちにおしゃれを教えるっていう映画でしたけど、変身して見違えた女たちが道一杯に広がって歩いていく「ヒーロー出陣!」的な高揚感があった。
考えてみるに、ここでただの6人の男が乗り込んでいくと、暴力の気配が立ちこめてヤクザの出入りみたいになってしまう。ところが、女装するとこれがうまくソフィスティケートされるわけですよ! これは日常生活でも大いに活用すべきで、たとえば友達の借金の取り立てにいくときは女装して行くと。そうすると、こちらの思い詰めた気持ちが相手に伝わって、黙ったままでも金を出してくれる。部下に解雇を伝えるときも、これは上司が断然女装する。そうすることで、面談が別のより大きな体験へと昇華され、心理的なショックが軽減される! さらに税務署の差し押さえなんかも、職員が女装して行けば、よけいな摩擦がぐっと減る。どれもこれも社会コストが削減につながって、日本の赤字なんてすぐになくなっちゃう! もう次期選挙に「女装して生活が第一」として出馬しても良いんじゃないか。この映画にはそういう重要なヒントが隠されている。

(C)映画『EDEN』フィルムパートナーズ

ちなみにこのストーカーは中年の予備校教師で、オネエたちが乗り込んだときは授業のまっただ中。その流れで、オネエの人権講座が始まるという、まさに啓蒙映画としては完璧な場面へと突入していきます。一方のストーカー男はといえば、満座の子供たちの前で土下座をすることになる。その心中やいかに!なんですが、そのあとこの男が一心不乱に授業を再開するんですね。これがよかった。あの日常業務をこなすことでアイデンティティを保つ感じ、あれこそ日本人あるある! 私も同じ行動にはしるに違いない、と妙なシンパシーに襲われました。

ゲイ差別発言や、風営法でバー潰しの石原慎太郎ディスなども絡めつつ、この映画、最後は怒濤の母娘もの展開に突入していきます。ノリピーの母親を演じているのが、藤田弓子なんですがこの演技がすばらしい! むき出しの母親感に、思わずティアーがフォーリンしてしまう。そしてたたみかけるような、今度は山本太郎による母娘もの波状攻撃に、「やっぱり最後は母ちゃんだね」と思いつつ、傑作ゲイディスコ「モダンガール」(シーナ・イーストン)を聴きながら映画は終わっていきました。

(C)映画『EDEN』フィルムパートナーズ

しかし、終わってからパンフを読むとなんと性転換済みのオカマ、ノリピーを演じていたのは女優(入口夕布)なんですね。ずっと実際に豊胸手術を受けた男優が演じているのだと思ってましたが、死体を観てもオカマにしか見えない! みごとな演技というか、やはり本作のキャスティングは絶妙です。

文=ターHELL穴トミヤ

この世の中はもっと豊かで、人生は棄てたもんじゃないわよ――
船戸与一の傑作小説を完全映画化!!





『EDEN』
新宿K's Cinema、オーディトリウム渋谷、名古屋シネマスコーレにて現在公開中
(C)映画『EDEN』フィルムパートナーズ

監督=武正晴
原作= 船戸与一「夏の渦」(『新宿・夏の死』 文春文庫より)
出演= 山本太郎、中村ゆり、高橋和也、齋賀正和、池原 猛、小野賢章、大橋一三、入口夕布、高岡早紀、浜田 晃、藤田弓子

配給協力=Spring has come
配給=SUMOMO

日本|HD|DolbySR|16:9|101分

関連リンク

映画『EDEN』公式サイト
http://sumomo.co.jp/eden/
facebook
www.facebook.com/2012eden
twitter
https://twitter.com/Movie_EDEN

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
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