WEB SNIPER Cinema Review!!
『MAY -メイ-』のラッキー・マッキー監督×ホラー作家ジャック・ケッチャムの暴力映画!!
弁護士のクリス(ショーン・ブリジャース)は、ある日、趣味のハンティングで1人の野生の女(ポリアンナ・マッキントッシュ)を捕まえる。クリスは女の手足を拘束して自宅の倉庫に監禁、飼育を始める。クリスのやり方に合わせ、妻と3人の子供も家畜の世話をするように女と接していく中、彼らは徐々にサディスティックな異常性を露にしていく。しかし、捕えられた野生の女の正体は、食人一家の最後の生き残りだった!!東京:シアターN渋谷にて公開中
名古屋:11月10日(土)~23(金)シネマスコーレにて公開
ジャック・ケッチャムと言えば、読んでいて胸くその悪くなる暴力描写で有名なアメリカのノワール作家。そんな彼の「洞窟にすんでいる、人を襲って喰う家族」シリーズの第3弾が本作、『ザ・ウーマン』だ。本作は書籍と映画が同時に発表され、映画脚本にケッチャムが、書籍には共著として、本作の監督がクレジットされているという、シリーズ初の共同製作ストーリーになっている。
主人公は、法律事務所につとめながら、2人の娘と1人の息子、そして妻を養っている家庭人。ところがなんかその顔が気に食わないな、まるでアメリカの学園映画に出てくるジョックスのようだな、上機嫌なんだけどそれがなんか人を不快にさせるな、と思っていると、映画がすすむにつれ、やっぱりこいつもジョッグスだった! 言ってみれば家庭内ジョックスだった! その上機嫌さは自分の権力を疑わない者からにじみ出る、ジョックスハイだった!ということが明らかになってくる。観客は映画の鑑賞中ずっと、エスカレートする一方の主人公の陽気な絶対権力者ぶりに、不愉快にさせられていくのだ。
不穏ながらも日常を保っていた一家の生活は、親父がある日、森で水浴びをしている野獣女を発見したところから狂いはじめる。野獣女を発見して動じるどころか、「よし、捕まえて地下室に閉じ込めよう!」と思いつくところがさすがサイコ野郎なのだが、対するこの女のほうも普通のキャラクターではない。シリーズ過去作をすでに読んでいる人ならおなじみ、人間を襲って食う野獣一家の末裔なのだ。ここにきて映画は、「サイコパスvs人喰い野獣女」という、エイリアンvsプレデターみたいな状況に突入する。
とはいえ、シリーズ第1作、第2作(それぞれ『オフシーズン』と『襲撃者の夜』)では人間に対して圧倒的優位にあった人喰い野獣家族出身の彼女も、今作では鎖で縛り付けられていて、かなりの劣勢を強いられる。映画の中で残虐行為にはしるのは、もっぱらこの父親の役割だ。
野獣女への「教育」は、至近距離で発砲していうことを聞かせ、高圧ホースで洗浄し、エサのように食事を与え、という感じですすんでいくのだが、やがてそれに付きあわされる家族に、亀裂が生じはじめる。息子はこの父親にひきずられ、むしろ虐待を楽しみはじめるのだが、妻(『メイ』で主演していたアンジェラ・ベティス)と長女は、疑問を感じその虐待行為に耐えられなっていくのだ。本作では、ケッチャムの今までのシリーズ作品で前面に出ていた「人喰い野獣族の野蛮さ」が後退し、代わりに「ゆがんだ家父長制と男性性」についての話になっていくあたり、映画としての奥深さを増していた。
しかし最高なのは、なんといってもポリヤンナ・マッキントッシュ演じる、この野獣ヒト喰い女のビジュアル! 前半までは、まさに泥だらけのアマゾネスにすぎないのだが、身体を洗われ服を着せられたとたん、めちゃくちゃイケてる野生的(というか野生そのものなんだけど)な女の子になるのだ。しかもこの服が50'sアメリカンスタイルというか、ハイ・ウエスト・スカートに、精神病院の制服みたいなのを合わせた、カポーティーの小説にでも出てきそうな負けん気・文系女子コーディネート。服を着た彼女が鎖に繋がれたまま、親父を睨み返す時の眼光の鋭さはまさにワイルドアニマルで、目の回りを化粧で黒ずませなくても、オーラで周りが黒ずんで見える。彼女こそはナチュラルボーン・ゴスガールなのだ!
黒髪で野生なこんな女の子がある日突然、家にやってきたらどんなにすばらしいだろう。まさにライフ・チェンジ・エクスペリエンス!と興奮したのだが、この家の息子ときたら、父親に引きずられ、自らもサイコパス道におちてしまって......。代わりに彼女を人生のロックスターとして受け入れる栄光は、長女へと譲り渡されることになる。
ところでこの映画、内容に見合わず劇中でかかる曲がいつも、グランジや、オルタナ、パワーポップみたいな、それこそハイスクール映画っぽい感じだったのが面白い。それもあって、「限られた社会空間の中で、自分の権力の絶対性を確信している」父親にジョックスを連想してしまうのだが、監督のラッキー・マッキーは『メイ』('02)でもブリーダーズとか、オルタナロックみたいな曲ばかりかけていたから、そういう趣味なのだろう。
音楽を入り口に、ぜひ思春期の女の子たちにこそ、本作を観てもらいたい。沢山の若い女の子が本作に影響され、世の中に「ザ・ウーマン」みたいなゴスガールが大量に現われたらどんなにすばらしいだろう。結果として人が何人か喰い殺されても、私は全く構わないと思う。
文=ターHELL穴トミヤ
捕らえ、監禁し、飼育しようとした女は、「人食い女」だった!?
『ザ・ウーマン』
東京:シアターN渋谷にて公開中
名古屋:11月10日(土)~23(金)シネマスコーレにて公開
『ザ・ウーマン』原作本発売中!!』
関連リンク
映画『ザ・ウーマン』公式サイト
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