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(C)2012「父をめぐる旅」製作委員会 

WEB SNIPER Cinema Review!!
反逆の画家・中村正義の生涯を娘が辿るドキュメンタリー
戦後の日本画壇において革新的な問題作を数々発表、従来の因習に反発しながら生きた異端の画家・中村正義。その生涯を、彼の娘である倫子が追いかけるドキュメンタリー。彼女の旅が浮かび上がらせる、孤高の芸術家の姿とは......。

2013年1月5日(土)より東京都写真美術館ホール
1月12日(土)より川崎市アートセンター
ほか全国順次ロードショー

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(C)2012「父をめぐる旅」製作委員会 

本作で扱われている「中村正義」という画家、僕は知らなかったのだが、戦後日本画壇にさっそうと現われた「反骨」の日本画家だった。そのデビューは華々しく、なんと日展に入選したのがわずか22歳のとき。そして36歳で史上最年少の日展審査員に選ばれるんだけど、そこで日展という組織の封建的、閉鎖的な体質に直面してしまう。若き中村は翌年に日展を脱退、これがスキャンダルとなり世間は大騒ぎに! 画壇のボスににらまれた彼は、日本中のデパートで個展ができなくなり、もちろん将来勲章がもらえる望みもゼロ。そのまま極貧不遇のまま死去なのか~!と思いきや、時代は60年代でむしろ「反骨最高!」という追い風の中、この頃から本人の画風も大きく変化。日本画の伝統的な技法を大きく超えたモダンな作品を次々と発表し、「中村ちゃん、やめてよかったじゃん」とその活動範囲は大きく広がっていく。ところが、封建主義的なるもの、権威主義的なるもの、つまるところ「日展」への恨み忘れがたく、ついに中村は自らが事務局長となって、日展と同日、同会場(東京都美術館)にて開催する「東京展」の構想をブチ上げる......。

と映画は続いていくんですが、基本的な進み方としては中村正義の娘さんがナレーターとなって、生前ゆかりのあった人たちを訪ねていくという、物静かなスタイルなんですね。そこで出てくるのは老人ばっかで、あいたいするのが実の娘さんなので、老人がおばさんをほめまくる展開になる。それがなんか観ていてロータリークラブの集まりみたいな居心地の悪さに襲われるんだよ!  本作には一瞬、その娘さんの娘、いわば中村正義からすればお孫さんにあたる人も登場するんですが、この瞬間はアガりましたね。声も若いし! 清楚なヤングギャール! この娘がナレーターやればよかったんじゃないかなー、距離感も近すぎない感じで、「えー、グランパまじすごいんだけどー」とか言って、いやそんなしゃべり方かどうかは、分からないですが......。

(C)2012「父をめぐる旅」製作委員会 

本作には、年代を追って中村正義の作品が出てきます。その中でも舞妓の絵というのが繰り返しでてきて、この変遷なんかはおもしろい。まずは、いかにも日本画という感じのもので、舞妓というのはそもそも日展の伝統的な題材なんですね。ところが次はそれを下着姿(長襦袢)にして出品してくる。日展における、セックスレボリューションがここで爆発! そして次の作品ではなんと、舞妓の前がはだけちゃう! ついに裸です! ここらへんやはり、中村は日展作家としては異例に若いからチンポがまだ立つ、というのもおおいに関係していたのではないでしょうか。ところがこれがお堅い日展から、出展拒否されちゃう! 涙をのんでまた着衣のオーソドックスな舞妓を描くんですがこの作品、目の部分が真っ赤になって宇宙人みたいになってます。怒りに震えてることが、もうガンガン伝わってくる。
そんな舞妓も、日展を脱退してからは、どんどん自由になる。着衣どころか日本画という枠も突き抜けて、舞妓も異様にカラフルかつポップになっちゃったり、シルクスクリーンでウォーホール風になっちゃったり、さらには4次元舞妓になっちゃったり、かと思えば異様に暗いタッチできたり、もう大喜利状態。中村はこのモチーフに、一生こだわっていったんですね。
同じ題材を、手法、アプローチを変えて繰り返していくのは、レイモンド・クノーの『文体練習』を思い出すし、ピカソの晩年の連作『ラス・メニーナス』(オリジナルはディエゴ・ベラスケス作)の模写っぽくもある。ピカソの模写なんかだと、犬がちゃんと写しとってあったり、かと思えば4次元になっちゃってたり、赤塚不二夫が適当に描いたみたいのになったり、なめてんのか!というほどのメチャクチャさを通じて、そこには自由さが込められていた。ひるがえって中村正義の『舞妓』は、なにしろ繰り返しのスパンが長いのでもう毎年の書き初めというか、その時々の人生の状態・気分を記録したという感じでしょうか。旧弊な日展から奪い取って、裸にしたり、ポップアートにしたり、「舞妓」は中村が添い遂げた「日本画」の象徴だった気がします。
後半には、小林正樹監督の激モンド映画『怪談』のために彼が描いた、巨大な源平合戦の絵が出てきます。映画用に照明を考えて描いたとか、製作技法の話も面白かったですが、映画ではアップでしか見れなかったこの絵が、そもそもあんなに巨大で豪華絢爛な一枚絵だったというのにもおどろきました。

(C)2012「父をめぐる旅」製作委員会 

奇しくもいま映画館では、現代美術家、会田誠のドキュメンタリー『駄作の中にだけ俺がいる』もやっています。こちらに出てくる会田誠は、もはや反逆にすら反逆しているという、やる気ゼロ無風地帯の21世紀感が漂っていてバカウケだし、絵も現代風で観る分にはおもしろいんだけど、もちろんみんなはこっちの『父をめぐる旅 異才の日本画家・中村正義の生涯』を観なきゃだめだ! 美術館で例えるなら、『駄作の中にだけ俺がいる』はポップで楽しげな特設展、こちらはその奥の常設展。まずは膝の上に手を置いて、『父をめぐる旅 異才の日本画家・中村正義の生涯』を観てからやっと、『駄作の中にだけ俺がいる』を観てもいい。WEBスナイパー読者のみんなは、まず本作を観てその感想をメールで送ってくること! ターHELL穴トミヤのやくそくです。

文=ターHELL穴トミヤ

創るとは、対立すること―異端と呼ばれた日本画家―




『父をめぐる旅 異才の日本画家・中村正義の生涯』
2013年1月5日(土)より東京都写真美術館ホール
1月12日(土)より川崎市アートセンター
ほか全国順次ロードショー

(C)2012「父をめぐる旅」製作委員会 

プロデューサー・共同監督=武重邦夫・近藤正典
出演=中村倫子、田島征三、朝倉摂、高畑郁子

協力美術館:愛知県美術館/岡崎市美術館/神奈川県立近代美術館/東京国立近代美術館/徳島県立近代美術館/豊橋市美術博物館/名古屋市美術館/練馬区立美術館/山種美術館ほか

製作:「父をめぐる旅」製作委員会、シネマネストJAPAN
配給・宣伝=太秦

2012|日本|カラー|HD|120分|ドキュメンタリー

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映画『父をめぐる旅 異才の日本画家・中村正義の生涯』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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