WEB SNIPER Cinema Review!!
世界を席巻するロンドンの下町を舞台にしたゾンビコメディ!!
テリー(ラスムス・ハーディカー)とアンディ(ハリー・トレッダウェイ)の兄弟は、祖父のレイ(アラン・フォード)が入居する老人ホーム「ボウ・ベル」が不況のあおりを受けて閉鎖されることを知る。二人はホームと祖父たちを救うべく銀行強盗をして資金を稼ごうと企てるが、なぜか町中にゾンビが出現。老人ホームにもゾンビが迫って......。1月12日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
ボンクラ兄弟(ちなみに片方は『コントロール』で、ジョイ・ディヴィジョンのドラム役もやっている。ボンクラとして完璧なキャリア設計だ!)には、「15歳で入隊しナチス兵を殺しまくった」ことが自慢のじいさんがいるのだが(アラン・フォード)、彼は偏屈で、周囲(主に49年前のボンド・ガール、オナー・ブラックマンとか)に不機嫌さをぶつけながら老人ホームで寂しい日々を送っている。そんなホームも、2週間後には不況のため取り壊されてしまう運命だ。
なんとか、じじいの居場所を確保できないか!? そこで兄弟が考えたのが、銀行強盗をして、老人ホームを買い取るというアイディアだった! とくれば大惨事の予感しかしないが、もちろん結果はドツボ。さてそこからどうやって抜け出すか、ここからがクライムサスペンスの腕の見せ所だぜ!となるべきところ、監督もボンクラだったのか、そこでいきなりゾンビが襲来。ぜんぶノーカウントにというちゃぶ台返しで、突然ゾンビ映画になってしまうというのが本作『ロンドンゾンビ紀行』なのだ。
いくら娯楽作とはいえ、本作を観る上ではロンドンに対して深い見識が必要。幸いみなさんが読んでいるのは国際派ターHELL穴トミヤのレビューなのでその点かいつまんで説明すると、まず第一に「ロンドンには赤い2階建てのバスが走っていて名物になっている」ということ(知らなかったでしょー!)、そして第二に「イギリスにはフーリガンという暴力的なサッカーファンがいて、いつも殴り合っている」ということ(知らなかったでしょー!)。この2つさえおさえておけばもう完璧! ブワッハッハッ! ジョージ! ビールを、もうワンパイントくれ! なにしろ、開始3分以内に屁が、そして5分以内に顔面食い破りシーンが飛び出す本作だから、どんなに飽きやすいバカでも本作なら大丈夫だ。
ゾンビ襲来のあと、主人公たちは町をサバイバルし、祖父を救出するため老人ホームへと向かう。町中にあふれるゾンビエキストラはのべ800人以上! 肝心のゾンビメイクも、「発生後日が経っていない設定なので、腐り加減は控えめにしつつ、しかし一目でゾンビと分かるメイクを施した」と細部のツメまで抜かりない。銃器を手に、ゾンビの頭を吹っ飛ばしまくる後半のゴア描写は盛大で、このとき一緒に逃げる人質の女の子がまたかわいい。ファッションが今風なのが印象的で、イギリスの野外フェスとかに行ったらこんな娘がたくさんいるに違いない! 「キャー! 汁がはねちゃった!」みたいな乙女感もありつつ、スコップでゾンビをぶっ殺していた。
一方、老人ホームでは老人なりにゾンビ襲来に対処しているのだが、「吸血鬼だ! ニンニクとか、十字架で殺すんだ......」と、ホラー知識が古すぎるので全滅は時間の問題......。ここで本作一番の見所、ゾンビから、ゾンビと同じスピードでしか歩けないじじいが逃げるチェイスシーンが誕生するので見逃さないように注意してほしい。果たしてボンクラ兄弟はじいちゃんを救えるのか!と映画は続いていく。
ちなみにこの老人ホームには1人、なんでも語呂合わせで駄洒落にする奴がいる。こいつのコックニーギャグはさすがに訳しきれなかったのか、字幕を読んでも全く意味不明だった。国際派のターHELL穴トミヤとしては諸君に、コイツが喋るたび、とりあえず大声で笑うことを推薦する! 知識はあとからついてくるはずだ、一緒にがんばろう!
本作、話のスケールは小さいが、作りは決して安くない。ゾンビへの弾着は最高だし、壊滅した街の描写もリアルで、中でも一瞬映る燃えながら走っていく電車(モノレール?)はポイントが高い。「やっぱり『宇宙戦争』しかり、『生きてるものはいないのか』しかり、社会の機能が停止した感じをだすには、燃えながら走る電車が一番」と座席で一人納得していた。さらに街のそこかしこで火の手があがり、となりにはオリンピック・スタジアムがあり、実は本作、ロンドン・オリンピック直後に公開され大ヒットしたという、変わりゆくロンドンへのカウンター映画でもある。
「イーストロンドンに快適な高層住宅が誕生!」みたいな看板と、地獄っぽい都市開発場面から始まるところからも分かる通り、この映画にとって「開発」は諸悪の根源。不況、オリンピック、再開発、本当は次々と寄ってくるよそ者たちこそがゾンビで、コックニーの下町っ子としては全員撃ち殺したい。そんなフラストレーションが、『ロンドンゾンビ紀行』の地元ヒットを生み出したに違いない。日本では、多摩丘陵を開発すると化け狸に襲われるが、ロンドンではイーストエンドを再開発するとゾンビに襲われる。これは、イギリスの『平成狸合戦ぽんぽこ』なのだ!
ところでこの監督、劇場公開作品は今回が初だが、以前に英国の名門ホラーレーベル「ハマーフィルム」とmyspaceTVが製作・配給した、その名も『ビヨンド・ザ・レイヴ』という作品を撮っている。「霊柩車にウーハーを積んでいる若者がアンダーグラウンドレイヴに行くとゾンビに襲われる」というアホな内容なのだが、今ではこれの日本語字幕付きmyspace限定公開ページがゾンビになってしまってるんだよ!(予告編しか観れない)。これもついでにDVDで復活してくれ!
文=ターHELL穴トミヤ
ゾンビVSロンドン下町人情野郎! 勝つのはどっちだ!?
『ロンドンゾンビ紀行』
1月12日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
関連リンク
映画『ロンドンゾンビ紀行』公式サイト
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