WEB SNIPER Cinema Review!!
『台湾人生』(2008年)の酒井充子監督、最新ドキュメンタリー!
日本統治下で日本語教育などを受けて育ち、「日本語世代」と呼ばれる台湾の老人たち。第二次大戦後、統治国が日本から中国に移る中、歴史に人生を翻弄されてきた彼らは今、何を思うのか。第二次世界大戦、二二八事件、白色テロの時代を生き、晩年期を迎えた6人がその人生を語る。ポレポレ東中野、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開中
台湾というのは、不思議な国だ。そもそも日本政府は公式には国として認めていないし、中国語を喋るけど中国じゃない。中国に虎視眈々と狙われているけど、アメリカ製やフランス製の兵器で武装してる。中華圏だけど民主化されていて、昔日本が占領してた国だけど、親日国らしい。しかし、旅行先としてはどうにも影が薄かった。
ところがその台湾が最近にわかに流行っている。昨年の日本から台湾への旅行者は144万人、なんと史上最高を記録した。ローコスト・キャリアが就航し、燃料費込み往復3万円で行けるなら、この週末に良いかも!? 行っちゃう台湾!?という気分もブンブンきてるのだろう! 民主化されている台湾は、サブカルチャーも盛んで、雰囲気のいい喫茶店や、かっこいいバンドも沢山あるらしい! 日本人はまさに台湾に気づきはじめたのだ!
というところで本作なんですが、日本統治下で生まれ育った台湾人(というか当時は日本人)。80代、90台代になった彼らへのインタビューをまとめた、ドキュメンタリーなんですね。ということは、説教でしょこれは。説教されちゃうんだ、戦争責任! 平和教育! と思って観に行きましたが、むしろ観ていて国ってなんだろうと思えてくる。そして個人というものがいかに、歴史に、国に翻弄されるか。しみじみと伝わってくるドキュメンタリーになっていたんスね。
登場するのは5人。彼らは現在それぞれ、横浜、台湾、インドネシアなどに住んでいて、そのバラバラぶりの原因はもちろん戦争です。そして誰もが日本語を話す。彼らは日本統治下の台湾で、日本政府による教育を受けた世代でした。台湾で生まれ、日本文化の中で育ったとして、そのひとは何人なのか? 最初に登場する85歳のおばあちゃん、画面の下には彼女の名前が3つ表示されます。ツオウ族名、日本名、中国名。彼女の父親は優秀で、ツオウ族をまとめるリーダーだった。清が日本に負け、台湾が割譲されると、彼の父親は日本が設立した師範学校へ通いだす。やがて警察官や教員の職を得るんですが、今度は日本が負けて、蒋介石率いる中国国民党軍がやってくる。
ある日の父親は「私はこうもりだ。日本人になったり、中国人になったり」と語っていたそうです。なにかウディ・アレンがユダヤ人を戯画化してつくった作品『カメレオンマン』を思い出しますが、それを、本当に木から逆さにぶら下がって言っていたというからおもしろい。お茶目な人だったんでしょう、彼はピアノも上手で、幼いころ彼女はお父さんの演奏で合唱していた。まさにそこには幸せな家族があった! カメラは昔住んでいた家に訪ねていくんですが、その一軒家の「日本の実家」ぶりにも驚きます。家の中から撮影してれば、山口県ですとか紹介されても分からない。しかしそんな幸せな家族は、国民党軍によって父親が無実の罪で投獄され、殺されてしまったところから暗転していきます。
そこから家計を支えるための、彼女の歌手としての人生が始まる。そのときの写真がマジ美人! まあそれはいいんですが、そうして転々としつつもなんか淡々としてるんですね。そして「私は幸せですよ」という。その理由は「悔しい気持ちも、幸せな気持ちもすべて味わってきたから」という、その幸せの定義にエディット・ピアフを思い出しました。そんな彼女が最後に歌う「知床旅情」はすんごい染みてきます。
国民党軍の政治は相当ヒドかったみたいで、本作に出てくる人はみんな中国、蒋介石を嫌っている。その反動もあるのか、日本の印象はかなり良い。ある人なんかは、あと少しで本土の(日本のこと)兵学校に入学できたのに、そこで日本が敗戦した。私は日本人になりそこなったと泣いています。
台湾独立運動に関わったとして、国民党軍統治下で8年間投獄されたというおじさんは、現在は旅行会社の会長をやっている。国民党軍、中国人に占領されながらなんとか民主化を果たし、しかし再び中国に接近しようとする新しい世代を許せない、その彼の複雑な思い。話が続きながら酒も入り、語りはさらにヒートアップ! なんか観ていて、「飲み屋でとなりのおじさんの話につきあってたら、いつの間にか説教されてた」みたいな気分になったんですが、監督はなんで酒を与えたのか! もうこの世代のおっさんの赤くなっている顔が、問答無用にイヤ! 酒を分解する時の、いやなにおいがばんばんしてきそう!となりつつも、場面変わって公園のベンチに1人座っている姿を見ると、酔っていた時の面影は遠く、やはり台湾という国の流転に翻弄された一人の人間の歴史を感じざるを得ない。
出てくる人たちがみんな言っていたのは「運命だから」というセリフです。そう納得するしかないよなあ、とも思うし、その感想がまさに日本の教育を受けた人的だなあとも思う。日本っぽくもあり、中国っぽくもあり、そしてそのどれでもない台湾というアイデンティティーが、5人の人生と生活を通して浮かび上がってくる。
しかし時代を生き抜いていまや老年となった彼らをみてみると、どんな世界状況を経ようとも、やっぱり家族、そして人と繋がりを築いてきた人が一番幸せそうですね。やっぱり愛です! 愛する人と、結婚なんです! お願いします!
文=ターHELL穴トミヤ
かつて日本人だった人たちが語る それぞれの人生――
『台湾アイデンティティー』
ポレポレ東中野、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開中
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映画『台湾アイデンティティー』公式サイト
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