WEB SNIPER Cinema Review!!
9カ国11の国際映画祭に正式招待
パン職人を目指していたが職場のパン屋を辞めてしまったクロ(城戸愛莉)、恋人とけんか別れをしたカメラマンの英斗(斉藤悠)、演出している舞台の公演が危ぶまれている舞台演出家の豪(中泉英雄)。まったく別の人生を歩む3人が出会い、東京を飛び出して、海辺にある廃業した旅館で共同生活を始める――。小津安二郎作品の研究をしてきた下手大輔監督の長編デビュー作となる大人の青春群像劇。全国順次公開中!!
始まった瞬間、観に来なければよかったと思う映画がある。パン屋の奥から主人が出てきて、「クロ!」と呼ぶ、店の奥にもどり、また出てくる、そしてまた戻り......、という動作にあわせてカメラが左右に振られるのを眺めながら「家でTENGA でシゴいてればよかったー!」と後悔しそうになった小生であったが、後半悪くない! 悪くないです!
主人公はパン屋でバイトをしている少女クロ(城戸愛莉)。いかにもやる気ゼロ、労働を軽視したその姿勢は題名にたがわぬヌーヴェルバーグ具合で、若いからにはこうじゃなくっちゃと盛り上がるいっぽう、これは世界中の映画で何千回と模倣され、さらに自主映画で何万回と模倣された、今や「家TENGA ー!」なモチーフでもある。けどこの登場人物たちがやがて、都会を出て海辺の街にでかけて行く。そうするとそこには、心地好さがあったのである。
クロは冒頭のパン屋の店長とケンカをして、店をやめ、町をぶらぶらしている。すると演出家の豪(中泉英雄)にナンパされ、一緒に海辺の無人旅館へと行くことになる。そこに向かう途中、車が故障してしまったカメラマンの英斗(斉藤悠)も同乗し、3人の奇妙な小旅行が始まる。
この3人のバラバラでいて、つながっているようなゆるい一体感。これは3人ともが人生において次の段階への途上にあるところからうまれていて、だから各々の視線は自分の未来を眺めていて交わらない。
スカした男とスカした女が出てきて、誰が置いたのか、どうやって片付けるのか分からない入り江のソファの上に座る。ぜったいムカつく構図No.1なのに、観ていて不思議と「ああ、いいなあ」と思うのはなぜなのか。それはやっぱり、途上っていいよね、わくわくするよね、学生時代だけが途上だなんて、そんなのつまらないよね、という気持ちがあるからで、しかもその中に若くて生意気だけどなんか一緒にいてくれる女の子も混じっていたら、これはもうこんなに観ていて気持ちのいい状態もないわけです。
監督は「小津安二郎」の研究家でもある下手大輔。初の長編である本作は、もちろんジャン=リュック・ゴダールの同名作品を意識しつつも、それだけではない。彼のインタビューを総合すると、フランソワ・トリュフォーを意識しつつ、ウディ・アレンも意識していて、バスター・キートンも念頭にあるが、ジム・ジャームッシュも通過していて、構造的にはエドワード・ヤンの影響を受け、その実ルイ・マルもちりばめてある......。もう、なんでもかんでもすぎて、この監督自身がウディ・アレン映画にでてくるキャラクターにみえてくるじゃないの! とくればこの先「これは支離滅裂、とんでもでもねえ切り貼りだぜ!」みたいな映画が完成、大金をつぎ込んだプロデューサーはパニックになり、いっぽうの監督は大得意で取材うけまくり、どうなるどうなる! なぜか最後はキューバで大ヒットしてハッピーエンド、みたいな展開になるしかないのだが、本作はその危機を見事に回避した。下手監督には「この画、あの映画にもあった!と思ったらない、というが最良のオマージュ」という哲学があり、なるほどこの映画には~風のシーンはあっても、~そのままなシーンはない。それがオリジナルたらしめているのだ。
海辺にたどりついた3人は、付かずはなれずブラブラしながら、崖を崩れないように支えてみたり、登山をしたり、思いつきで行動をかさねていく。
クロは手打ちパン、演出家は手書き原稿、写真家はいまどきフィルムカメラで、3人が乗る車までレトロ趣味(光岡自動車)な本作にあって、任天堂Wiiが出てくるシーンはなかなかいい。TVの前に陣取りWiiのテニスゲームで遊んでいる2人が、コントローラーを握ったまま屋上に出て行く。架空のボールを浮き上がらせるものが、電子回路から人間関係へと変わり、ここでもやはり今への抵抗があるけれど、最初から花札をしていたわけじゃない。映画がWiiを出して、それを解体していく痛快さが感じられた。
やがて3人の関係は、女子高生(我妻三輪子)の出現によって変化する。新しい人間によって、視線のすれ違っている3人が対象化されひとつにまとまるのだが、この女子高生をどう出すか。ここでこの監督はいきなり女子高生を自転車ごと海へと落としちゃう。そして退場させる時もまた唐突に、飛行機に乗せて帰してしまう。映画に必要な人物を出すために、こんなに乱暴なやり方でいいのだという自由さ! これこそが、本作でもっともヌーヴェルヴァーグしてる場面なのでした。
こんな映画を、ボーダー柄を着た女の子といっしょに観に行けなければ、私はもう自転車ごと海に落ちてもかまわない! とこう考えているのである。
文=ターHELL穴トミヤ
小津安二郎作品の研究をしてきた下手大輔監督の長編デビュー作
『はなればなれに』
全国順次公開中!!
関連リンク
『はなればなれに』公式サイト
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