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(C)2013 SYNECDOCHE - LE PACTE - DOR FILM - FRANCE 3 CINÉMA - LES FILMS ALEPH

WEB SNIPER Cinema Review!!
アウシュヴィッツ強制収容所解放から70年 全人類が共有すべき世紀の映像遺産!
第二次大戦中、アドルフ・アイヒマンが世界を欺くために選んだ"模範収容所"テレージョン・シュタット。その真実を同収容所の生還者でユダヤ人評議会長老であるベンヤミン・マーメルシュタインの証言で明らかにした本作。ホロコーストに関する偉大な歴史的解明のひとつとして、この映画が貴方に突きつけるものとは。

ホロコーストの"記憶"を"記録"した傑作ドキュメンタリー3本!
「SHOAH ショア」「ソビブル、1943年10月14日午後4時」「不正義の果て」
2月14日(土)より3週間限定、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開

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上映時間9時間26分のユダヤ人大量虐殺についてのドキュメンタリー、『SHOAH ショア』を製作したクロード・ランズマン監督。本作はその一環として撮影されながらカットされ、長らく死蔵されていた証言を元に作られた、2013年の作品だ。上映時間は3時間38分。様々な人間のインタビューで構成されていた『SHOAH ショア』に対し、本作で直接インタビューされているのはユダヤ人評議会長老のベンヤミン・ムルメルシュタイン、1人だけ。いったい彼はどういういう人間なのか?

ナチス・ドイツがまだ国として存在していた間、ガス室でユダヤ人が次から次へと殺害されていることを世界は知らなかった。ナチス・ドイツがそれを恥だと認識し、秘密にしていてたからだ。代わりに彼らは、外の世界に向かって「ユダヤ人たちは自主的に国外へ出て行くのだし、強制収容所にいるユダヤ人たちは、楽しく健康的に暮らしている」と宣伝する。
その建前に使われた「楽しく健康的に暮らしている、模範的ゲットー」が、チェコのテレージエンシュタット強制収容所だった。ナチスはこの強制収容所で映画を撮影し、そこでの暮らしぶりを世界に喧伝した。さらに国際赤十字社を招待してみせた。ここを管理していたユダヤ人のトップこそが、本作のベンヤミン・ムルメルシュタインなのだ。彼はゲットーのユダヤ人自治を装うため、すべての強制収容所にナチスが用意した自治組織、「ユダヤ人評議会」の長老だった。そしてその長老に選ばれたユダヤ人の中で唯一、生き残った人間でもある。彼の上官はナチス親衛隊、あのアドルフ・アイヒマンだった。

インタビュー自体は、1975年のローマで行なわれている。なぜローマなのか。それは彼が亡命しているからで、イスラエルには、彼をユダヤ人自身の手で絞首刑に処すべきであるという声もあるという。収容所を管理し、生き残った彼は、ナチスに協力した裏切り者なのか?というのがこのドキュメンタリーのひとつの出発点になっている。

非常に太り、老いてはいるが、喋りだすとその精力的な勢い、比喩の豊富さ、論理の明晰さに驚かされる。ベンヤミン・ムルメルシュタインは元々、神話の専門家であり、ユダヤ教のラビだったという。ところが、戦争が始まり、何度か亡命のチャンスがありながらオーストリアにとどまり、最終的にはチェコの収容所に送られた。彼の前に2人の前任者がおり、彼らは2人とも頭の後ろを撃たれ銃殺されている。うち1人は、まず目の前で妻子を射殺された後、銃殺された。そこに自由意志はほとんど残されていなかったことがよくわかる。

自分だけがなぜ生き残ったか。彼がそこで「アラビアンナイト」を持ち出すのがおもしろい。彼は「模範的ゲットー」というウソについて、ナチスに向かってその展望を次々と語ってみせた。それは王の処刑を逃れるために千夜、先の展開が気になる話をし続けた「アラビアンナイト」の話者と同じだというわけだ。たしかに欺瞞ではあったが、それを失えば待っているのは即座の死だった。彼は収容所のユダヤ人を救ったのだと主張する。

ベンヤミン・ムルメルシュタインの証言の間に、新たに撮り足された収容所跡地でのドキュメンタリーも挿入される。そこで収容者がこっそりスケッチして、地面に埋めた(その後、彼はガス室に送られて殺害された)絵。死者を効率的に焼くための火葬場、死者を運ぶためではなく生活のために使われる霊柩車、そこには一般のユダヤ人からみた収容所の姿がある。ランズマン監督自身が、「ドイツ帝国の名誉を穢した罪」で絞首刑に処された、ある若者の裁判記録を読み上げる。その絞首刑の場を支配していたSS隊員の名前が、ムルメルシュタインの口からは、彼のためにイスを運ばされた間抜けなSS隊員として出てくる。一般のユダヤ人収容者からすれば、彼がナチス協力者に見えてしまうのも無理からぬことかもしれない。しかしそれがいかに錯覚にすぎないか、ムルメルシュタインは説明し続ける。

彼が語るアイヒマンの姿は印象的だ。勤勉で、規則と命令をなんでも守った官僚的人間という世間のイメージと違い、なにか投げやりな無関心さが感じられる。たとえば工事を命令して、納期に遅れれば殺すという。全財産を巻き上げ、偽のビザを渡してあとのことは他のナチスに丸投げする。それはどうせ最後は皆殺しにするのだから、いつ殺すのも変わらないという無関心だろうか。それとも、自分の目に見えないものは、想像しないという無関心だろうか。この無関心さに、いちばんムカムカした。

生き残るためにナチスの関心を引き続けた男は、戦後30年経っても弁明をし続ける。本作の原題は『最後の不正義』、でもこれを最後にするにはどうしたらいいのか。それは無関心をなくすことなのだと結論したくなるが、実際のところ分からない。パレスチナに無関心、ボコ・ハラムに無関心、シングルマザーに無関心、ホームレスに無関心、無関心を克服するのは難しい。それにじゃあたとえばISILにどこまで関わっていくべきなのか。異教徒を奴隷にしたり、殺害したりしているISILの支配地域の中にも今、現代のムルメルシュタインが出現しているかもしれない。だからってナチスを叩いたアメリカの様に、日本はISILを叩きに行くべきなのか......。どうしたらいいのか......。

文=ターHELL穴トミヤ

ホロコーストの真実を追究したクロード・ランズマン監督最新作


『不正義の果て』
ホロコーストの"記憶"を"記録"した傑作ドキュメンタリー3本!
「SHOAH ショア」「ソビブル、1943年10月14日午後4時」「不正義の果て」
2月14日(土)より3週間限定、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開

(C)2013 SYNECDOCHE - LE PACTE - DOR FILM - FRANCE 3 CINÉMA - LES FILMS ALEPH
原題=LE DERNIER DES INJUSTE
監督=クロード・ランズマン

配給=マーメイドフィルム

2013年│フランス、オーストラリア│カラー│218分│デジタル

関連リンク

映画『不正義の果て』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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