WEB SNIPER Cinema Review!!
新鋭・加藤綾佳監督による、若手の登竜門『MOOSIC LAB』準グランプリ作!
かわいいことだけが取り柄のOLキリコ(森川葵)は「かわいい食べ物」を過剰摂取しては嘔吐する過食症の女の子。職場の男達にはちやほやされ、女の子には嫌われているが、女の子の価値は可愛いことがすべてと信じて日々を送るキリコに怖いものはない――。女心をポップかつ毒気を混じりにえぐった異色の恋愛ムービー。2月14日(土)~新宿シネマカリテほか全国順次公開
ついに、全国に飛び出せー!なんと!インディー映画から登場したガールズ<3ムービー☆が、話題沸騰につき! 全国ロードショーになってしまったのだー! へっへーん! 監督はなんと若干26歳の加藤綾佳。主演は『渇き。』『チョコリエッタ』の森川葵(かっカワイイッ!)! ひたすらカワイくて、それを自覚しているOLが、カワイさを武器にブイブイいわせちゃう。カワイイものダイスキ☆彡なおんなのこだけじゃなくて、おんなのこのこともっと知りたいおとこのこも必見の、ガールズムービーが登場なんだゾ~!
しかしその内実は、生々しく恐ろしいものなのである。カワイさを生存本能まで高めているキリコ(森川葵)が、取引先となった職人気質の男(木口健太)の家に押しかける。「僕は君の周りにいるような男とは違ってだまされないんだよ」とにべもなく拒絶する彼が、しかしカワイイを潤滑油として、相手のふところにぬるっと入ってくる主人公の見事なまでの技に巻き込まれ、気づけばラーメンを奢らされ、家まで車で送らされている。そして別れ際に憎まれ口をたたく「他の男たちとは違って小手先の技は通じない」はずのその顔が、実はすでにニヤけているのを発見したときの戦慄!彼は捕食されてしまったのだ! 本作は2014年に公開されるやカルト的な人気を博した、スカーレット・ヨハンソンが宇宙人と化し男を次々と食っていくホラー、『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』ならぬ『カワイイ・ザ・スキン 種の捕食』なのかもしれない!? そんな戦慄をはさみつつ始まっていく。
キリコはその性格の邪悪さから同性の友だちが1人もおらず、社内での評判も最低。しかしアフターファイブになれば、男達にチヤホヤされ、取引先の人間が男ならば、これもまたカワイさで自分のペースにもっていく。男は私が好き。そんな彼女のアイデンティティはしかし、彼氏(みたいな男)である年上バーテンダーとの関係のもつれをきかっけに崩壊する。一方、職人男は意外なやさしさを彼女にみせ......と映画は続いていく。
カワイイのシュガーコーティングをまとって登場した本作は、後半その核となる苦い部分を露呈させる。すべての虚飾を投げ捨てた主人公の真の姿、それはただの重い女だった!というのがすばらしい。はぁ~?カワイイ?一皮むきゃ、女は、みんな、重いのよ!という加藤綾佳監督の宣言を感じ、これこそ女の女による女のための映画なのだとの思いを強くした。ラムネを口に放り込んだつもりでいると、胃袋にはいつのまにか「ゲェー、過呼吸が出現!嘔吐が出現!泣かれたぁ~!」と森川葵のエキセントリックシーンを詰め込まれている。そうして世のおとこのこたちは、おんなのこの重さを受け入れていくのではないか。しかし、キリコが重くなった途端「うわ~号泣とか見たくない」と心が離れていき、「好きでもないのにカワイイとか簡単にいわないで!」の絶叫にいたり、「あー早く終わってくれないかなこの時間」と座席で貝になってしまった。これもまた私の偽らざる反応なのである。男女間の溝はいぜんとして深いと言わざるを得ない。
どころか、落ち込んだところで突然出現して、セックスしていく男。バーテンダーと、職人風の男のあいだに挟まれて出てくる彼のことが、私は忘れられない。愛されるかどうかを確認したいだけのおんなのこと、ヤリたいだけのおとこのこの惑星大接近☆彡。ここに愛はないが重くもないセックスが出現するのだ。渋谷のスイーツカフェに向かおうと歩いていたら側溝からとつぜん汚臭が匂ってきた、というようなこのエピソーが本作に厚みを与えている。私は彼になりたい......、弱っているカワイイおんなのこに近づき、1回だけセックスしてフェードアウトしていく男に......!
そもそも、カワイイとはなんなのか。たしかに森川葵が登場してきただけで、「あ、カワイイ......」となり、また彼女の着ている肩に軽く装飾のついた、けれどフォーマルな服がこれまたカワイイ。しかし、自分の家に勝手に上がってきた彼女に職人の男が「もう、帰ってください」と言って、笑いながら当然のように「やだ」と応えられる。このギョッとする感じで、本作はカワイイを立体化させているのだ。その無理を受け入れてしまうときに、カワイイが権力としての姿を現わす。この「やだ」の言い方が森川葵はすばらしかった。しかしその「カワイイ 種の捕食」エンタテインメントを主人公に押し付けず、後半捨て去っていくところに加藤綾佳監督の矜持と良心を感じる。本作は女をモンスターから、一人の人間へと引き戻していくのである。私はそれに耐えきれず後半、貝になってしまったが、それは私が悪い!!全部私が悪いんです(私のばかばかばか!)!!! 本作は男と女で楽しむ場所、見る視点がまったく異なることまちがいないはず。ぜひ観賞後に、男女間で活発な意見交換をかわしたい。そうして悩んでいるおんなのこをみつけたら、そのこと私は1回だけセックスして去っていきたいのである。
もうひとつ、本作では「心のスイーツカフェ」という設定で用意された、カワイイエレクトロポップバンド「ふえのたす」の演奏シーンが印象に残った。コンペティションの規定に従い、この映画は定期的にミュージックビデオタイムに突入する。これが不自然でいい。園子温監督の『TOKYO TRIBE』にもみられた、日本映画の野暮ったさ回帰。ボリウット化ともいうべき反・映画感に、新日本映画の生命力を感じた。
文=ターHELL穴トミヤ
「可愛い」という名の毒を描いた唯一無二の恋愛映画、ここに誕生!
『おんなのこきらい』
2月14日(土)~新宿シネマカリテほか全国順次公開
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