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聾唖者の寄宿学校に入学したセルゲイ。そこには犯罪や売春などを行なう悪の組織=族(トライブ)によるヒエラルキーが形成されており、彼は入学早々、洗礼を受ける。組織に加わり、徐々に頭角を現わしていくセルゲイだったが、リーダーの愛人で売春もしている少女アナに恋をしてしまい――。台詞も音楽も一切なく、字幕も吹き替えも存在しないこの映画は、全編手話のみで構成された前代未聞の異色作。ウクライナの新鋭監督ミロスラヴ・スラボシュピツキーの長篇デビュー作でもある本作の魅力について、映画レビューでお馴染みのターHELL穴トミヤさん&編集部の対談にて紹介します!!

4月18日[土]よりユーロスペース、新宿シネマカリテほかにて公開 全国順次ロードショー
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ターHELL穴トミヤ(以下「タ」) というわけで『ザ・トライブ』です。

編集部(以下「編」) 普段はターHELLさんにレビューを書いていただくのですが、私も試写に足を運びました。大変面白かったです。

タ そこで2人でこの映画について語り尽くしてしまおうと。

編 はい。この『ザ・トライブ』、ウクライナ映画なんですね。ウクライナについて基礎知識というか、ウクライナの作家や映画は何かご存じですか。

タ 全然思いつかないです(笑)。ウクライナと言えば......となった時、発想がカルチャー方向にいかないですよね。ソ連が崩壊したとき独立したとこだよなとか、新聞の社会面、政治面に出てくる国っていう。

編 チェルノブイリはウクライナだったよなとか。

タ 核兵器もたくさんあったらしいとか(笑)。ただちょっと調べてみると、ウクライナが舞台の映画って結構あるんですよね。たとえば『ユニバーサル・ソルジャー:リジェネレーション』とか。これはテロリストたちが原発を爆破すると脅してくる映画なんですけど、その舞台がウクライナになってる。

編 原発狙いのテロ......。

タ あと『ロード・オブ・ウォー』って凄く面白かったんですけど、主人公の武器商人をニコラス・ケイジがやってて。これも一族の出自がウクライナってことになってる。だからそういう、武器商人が暗躍するとか、テロリストが核施設を占拠しにくる話を作るときに、ウクライナにしておけば「良くわかんないけど、あり得そう」ってみんなが納得してくれる。そういう立ち位置の国なんじゃないですか(笑)。

編 ひどい話です。

タ あとは何かありますかね。

編 調べてみたところ、ウクライナの有名人としては棒高跳びのブブカさん。女優のミラ・ジョヴォヴィッチさんはキエフ生まれ。ただ生まれがキエフというだけで、両親もウクライナ人ではないそうです。

タ ウクライナといえば美人っていうのはありますよね。

編 美人の検事総長、話題になりましたね。でもそれくらいで、普通の日本人が抱いているウクライナのイメージはかなり貧困だと思います。

タ 「ソ連の一部だったよね」で、話が九割五部くらい終わってしまう。

編 そうなるとウクライナというより東欧。我々が東欧に対して持っているイメージが近いんでしょうね。

タ ヨーロッパがあって、ロシアがあって、その間の一帯っていう感じ。色でいうとやっぱり灰色(笑)。鉄のカーテンがぶら下がった、その真下みたいな。カーテン重いです、みたいな。

編 カーテンの向こう側じゃなくて真下(笑)。

タ そういうイメージ(笑)。でも歴史を調べてみると、実際かなり暗いんですね。

編 というわけでウクライナの基礎知識について、一度おさらいをしましょう。

■ウクライナ、その凄惨な歴史

編 まずウクライナの地理です。ロシアのすぐ隣。そして西側には、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、ルーマニア、モルドバ、北側にはベラルーシ、南側が黒海の沿岸になってまして、黒海の北部にクリミア半島があります。

タ もうロシアにくっついちゃってる、一番影響を受けてしまうところですね。

編 そうですね。ロシアの西側に隣接しているのがウクライナ。で、黒海をはさんでトルコが位置していると。歴史的にクリミア半島が重要な場所とされていて、現状でも現在進行形でウクライナとロシアがですね......。

タ 戦争状態になっていますね。

編 クリミアは俺のもんだとお互いに言い合っている。

タ 第三次世界大戦はもう始まっている説すらも。

編 本当ですね。もう1年くらいになりますか。

タ というハンパじゃない場所。

編 内戦じゃないですからね。

タ 代理戦争。

編 現在から少し遡って、近代はやはり帝政ロシアの支配下です。1921年、第一次大戦が終わった後くらいと、その後の1932年と二度の飢饉がありました。この二度目の飢饉はホロドモールと呼ばれ、欧米ではジェノサイドと認定されているようです。これでなんと、推定で400万人から1450万人の死者が出てる。

タ しっ、死んでますね~。

編 第二次世界大戦時も、ウクライナは大変な損害を受けています。まずドイツに蹂躙されて、その後ソ連が取り返すという、独ソ両軍の過酷な戦地となりまして、その結果、約800万人~1400万人が死に、ウクライナの中では5人に1人が戦死。700の市や町、約20800の村が全滅。

タ もう、ウクライナ大丈夫かっていう。可哀想すぎるだろと。

編 心配になるくらいですよね。その後、ソ連とは別に国連加盟国として議席をもってたりするんですが、ソビエトに飲み込まれます。

タ 冷戦時代ですね。

編 はい。東西冷戦時代の後半、1986年の4月26日、チェルノブイリ原発事故発生。

タ チェルノブイリって、ウクライナの地名なんですよね。

編 この事故発生から約1週間で11万6千人、最終的には十数万人が強制移住を強いられたらしいです。

タ 60年くらいの間に、飢饉に襲われて、ナチスとソ連に襲われて、あげく原発が爆発って、踏んだり蹴ったりすぎですね。

編 そして1991年ソビエト崩壊に伴ってようやく独立がかないました。

タ よかったねと。

編 本当によかったねと。そうは言いつつ今も戦争中ですけどね。

タ つくづく、幸が薄い。この映画が作られたのは、最近ですよね。

編 ごく最近で2013年に完成ですが、まさに、ついこの間のクリミア半島にロシアが攻め入った前後に撮られているということです。撮影中は封鎖されて通れない道もあったということがパンフレットに書かれてました。

タ 撮影中にロシア軍が侵攻してたんですかね。

編 そういうことですね。

タ じゃあ侵攻されてる中で撮影されて、完成した頃には......。

編 クリミア半島はロシアになっていた。

タ 凄すぎる。そんな状況で撮られた映画なんですね。

編 はい。数字的なデータも押さえておきましょうか。IMFの統計によるとウクライナのGDPは52位、欧州最貧国のひとつ。

タ やっぱ最貧国なんですね。

編 土地の面積はフランス、スペインより広い。

タ これは意外ですね。

編 そうなんですよね。91年のソ連崩壊に伴ってウクライナは独立したんですけど、この独立の時点で持ってた面積が、ウクライナ建国史上最も広い面積になったそうです。

タ そうなんですか。それも、なんか切ない...。

編 そして気になる人口は約4500万人。

タ 少ないですね。

編 少ないんですね。スペインよりも広いにも拘わらず、スペインと同じくらい。都市部と東西に人口が集中してるようです。この映画は首都キエフの近郊が舞台になっていますね。

タ ウクライナの一番人口が密集したとこ、一番都会な場所で撮られたと。

編 間違ってもヨーロッパの田舎の景色ではないですね。とまあ、そんなウクライナの基本的な......。

タ 決して豊かな国ではないということと、暗い歴史歩んでそうだなと思ったら想像を超えて暗かったという(笑)。

編 はい。本当に凄惨な歴史を歩んできた国だということですね。というところを押さえたところで、この映画の詳細について入っていきたいと思います。

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■障害を題材とした作品のある傾向

編 実はこの『ザ・トライブ』、ウクライナ映画ということよりも......。

タ まず目に付くのが何かって言うと、全編手話の映画なんですよね。しかも、吹き替えなしで、字幕もなし。

編 さらに音楽もなし。

タ つまり、本当に手話しかない。これは随分、挑戦的だなっていう。

編 そうですよね。

タ 初めてこの映画知ったときの反応を思い出すと、全編手話? スゲーっつって、しかも字幕なし? 吹き替えなし? 攻めるー!つって、でフランス映画かな?ロシア映画かな?カナダ辺りかな?とか思ってたら「ウクライナ」って、何ソレー!?みたいな。もう素性が不明すぎる。内容が全く予想できなくて興奮しました。

編 (笑)。

タ でもどう考えても芸術映画だろうと。映画に何ができるんだろうっていうのを、たぶん探ろうとしてるんだろうなっていう。

編 通常の映画の作り方からはずれたところにあることは間違いないですよね。

タ でも、ウクライナっていうところで、もう全然分からない。たとえば、ポーランドとかっていうならね。

編 アンジェイ・ワイダにキェシロフスキ。

タ ポランスキーとかもう有名じゃないですか。で、ロシアにもそれこそ『戦艦ポチョムキン』からタルコフスキーから今やってる『神々のたそがれ』まで、芸術映画の歴史がありますよね。だけどウクライナって......、でも東欧だしヤバいんだろうなっていうザックリした期待感(笑)。

編 手話を日常的に用いている人たちは端的に言えば聾唖者ということですが、この映画のキャストは全員がリアルな聴覚障害者。

タ そうですね。だから使われてる手話は本物。普段のまま演じてる。

編 プロフェッショナルな役者は一人もいないということです。

タ そこもまた珍しいですよね。

編 そうですね。実はウクライナには聾唖者だけの劇団が存在するらしいんですけど、彼らはキャスティングされなかった。あくまでソーシャルネットワークなどを使ってキャストを集めたということです。

タ 素人を使う監督というと、フランスのロベール・ブレッソンとか。あと素人子役をほんとにいじめて泣かして撮影してた、イランのアッバス・キアロスタミ監督とか。

編 でも我々が普段目にする演技とは違って手話の演技なので、その素人感みたいな感覚も正直あんまり......。

タ 手話のリアル感とかは、わからないですよね。

編 だから彼らがズブの素人だなんて、画面を観ていてまったく思わなかったです。

ヌ それこそ是枝監督の『誰も知らない』で子供が子供のまま出てるみたいな感じで、地元のあんちゃんたちが、ホントに地元のあんちゃんのまま出てるなっていう。でも素人がカメラの前に立ったら不自然になるのが普通だから、この映画の自然さは逆にすごいですよね。

編 そういう印象を受けましたよね。そして手話に限らず、題材として障害を扱った作品って実はかなりあるんですよね。Wikipediaの障害を扱った作品というページを見ると膨大にあります。

タ ジャンルも多岐にわたって、もちろん小説、漫画、ドラマ、映画、演劇はありますけど他にも狂言とか。

編 世界的に有名なところでは『フォレスト・ガンプ』とか。膨大なタイトルをザーッと見てるだけでも障害を扱う作品の傾向みたいなものが見てとれますよね。

タ そうですね。今度5月に公開する『奇跡のひと マリーとマグリット』っていう映画の予告編をこないだ偶然観ましたけど、これは三重苦で生まれた女性と彼女を教育したシスターを描いた実話がベースのヒューマンドラマで。

編 ヘレン・ケラーみたいですね。

タ ヘレン・ケラーみたいな人が他にもいたっていう。いや予告しか観てないんで実はぜんぜん違うかもしれないけど、障害があっても、普通の人と同じ暮らしができるんだっていう、感動ものっぽい予告になっていて。これがひとつの王道パターンですよね。

編 やっぱり障害者に対する配慮みたいなところもあるんでしょうね。

タ 普通はその配慮がどうしても感動、ヒューマン、文部省推薦っていう方向に振れるんですけど、この映画が面白かったのは、そこから思いっきり外れてるんですよね。たしかに、ヒューマンドラマであることは間違いない。感動はまあ、ある意味感動っていうか(笑)。

編 ある意味ね(笑)。

タ で、教育的ということでいえば、ストリートの教育映画ではある。で、文部省推薦? ありえないと。

編 文部省は推薦してないけど......。

タ なんとウクライナ大使館が公認してるんですよね、これが一番びっくりしましたけどね(笑)。ウクライナ政府はやっぱり凄いハード・コアなんですね。障害者映画の譜系としては、かなり毛色が違いますよね。

編 障害者への配慮ばかりでは、面白い作品はつくれないということなんでしょうか。

タ っていうか、配慮のベクトルが違いますよね。普通の映画って、障害者とそうじゃない人が出てきて、でもみんな一緒で、変わらず暮らしていけるんだっていう方向に配慮しますけど、この映画には、聴覚障害者しか出てこない。だから映画の中で対比がない、耳が聞こえないことがそもそも意識されないんですよね。手話しか出てこないから、観てるとそっちにチューニングがあっていって、聴覚障害って概念が消えちゃう。

編 そうなんですよね。全編手話で描かれてるので、何を言ってるのかわからないんじゃないかって不安が観る前はあったんですが、観ていくと、だんだんそれが薄れてくる。何を言ってるかわかってくるし、何言ってるかわかってくると、手話映画だってことを忘れてどんどん映画の中に没頭していっちゃう。

タ あとよくあるのが、障害者は、普通の人よりももっと凄いんだっていう。例えば『タッチ・ザ・サウンド』って、これはドキュメンタリーなんですけど、聴覚障害者のパーカッショニストが主人公。で耳が聞こえないのにパーカッショニスト?って観ると、もうむちゃくちゃすごい。天才の技を見せられる。とてもいい映画でしたけど、これは聴覚障害者がむしろ耳の聴こえる人間よりずっと濃密に音と接しているっていう、逆転の感動がある。

編 なるほど。

タ あと最近、香港映画で『ドラッグ・ウォー 毒戦』っていうのにシャブ工場を経営する兄弟みたいのが出てきて、やっぱり耳が聴こえない。で、ペコペコしてるし、観客は知らず知らずのうちにあなどって観てるんですけど、警官隊がいざ突入してくるとこの兄弟が最凶だったっていう。これも、実は普通の奴より強いっていう逆転の興奮だった。ちなみに、このシャブ工場にも危機を点滅で伝える装置がついてたんで、『トライブ』のチャイムの代わりに点滅するランプを見て、「あ、同じだ」と思いましたけど。

編 あのランプは印象的でした。

タ でもこの映画は、別にみんな、耳が聞こえる人間より優れてるところもない。っていうか最悪の奴ばっかって言う(笑)。耳が聴こえなくてもこんな最悪の人間になれます、普通の犯罪者も聴覚障害の犯罪者も変わりませんよって、負の平等感がさすがウクライナというか。

編 そうなんですよね。聾唖者のキャストじゃなくても描くことができちゃうというか。

タ 観ていると、ただウクライナの現状を映しとったノワール映画みているような気分になってくる。

編 それが錯覚なのか事実なのかわかりませんけど、少なくともそういうふうに思えるくらいのリアリティに満ちてるんですよね。

タ はい。

編 ではそれがいったいどんな物語なのかというのを、あらすじから追っていきましょう。

■寄宿舎を舞台とした、あまりに暗い青春

タ まず、主人公が登場して、寄宿舎に転校してくるんですね。で、転校してくるとやっぱりまずはじめに、いじめに遭わないか?とか、どうやってとけ込めばいいのかっていう問題が勃発するんですけど。

編 寄宿舎の中には既存のコミュニティが形成されてますからね。そこへやってきたのが転入生の主人公。

タ けっこうすぐに不良チームに見込まれて、あ、そのグループ入るんだみたいな。

編 冒頭に式典のような映像があって、その中には不良グループじゃない、可愛らしい幼女も出てきます。

タ 先生に花束とかあげて。あれは入学式か卒業式のシーンなんですかね。なんか良い子たちがいて、普通の学校なんですけど。

編 ところが。

タ 主人公は校舎の裏に呼び出されて、なんか壁は落書きだらけだし、そこにボスとその手下みたいのが待ってる(笑)。

編 荷物を全部チェックされて。

タ 服とかも脱がされて、麻薬やってないか針跡のチェックみたいのされて。手話なんで詳しくは分からないけど、なんか面談されてるのは分かる。夜になると、寄宿舎なんで部屋に戻るんですけど。今度は自分のベッドから追い出されちゃう。

編 まるで囚人の初夜みたいな感じでした。

タ あー新入りは最下層なんだなーって思いましたね。でもそっから主人公の不良成り上がり伝説が始まっていく。

編 周囲に認められる過程も面白かったですよね。通過儀礼的に周りのやつらに囲まれて暴力を受けるシーンがあって。

タ なんか闘いの儀式みたいのがあるんですね。

編 決闘みたいな。

タ 本気じゃないんだけど、スパーリングとか腕試しみたいな。この主人公が、そもそもは凄い朴訥なん感じで、あんまり喋るタイプじゃない。

編 最初の登場シーンも人がよさそうなんですよね。

タ 視線は基本足元で、マインドはシューゲイザーですね。

編 間違ってもオラオラ系じゃない。不良グループで上手くやっていける子には見えない。

タ 校舎の裏で面談されてる時も、カツアゲされてるようにしか見えない。だけど、闘ってみたら強かったという(笑)。3人くらい相手にするんだけど、なんか凄いエグい技を出してて。相手がぶっ倒れて、周囲がヤバいヤバいって止めにはいってる。

編 本当に痛そうでした。悪いコミュニティでのし上がるための手段が暴力というのが、大変わかりやすい。

タ これが入り口になって、組織の一員になっていくんですね。

編 コミュニティの中でそれなりの地位を与えられるようになる。

タ そうすると寄宿舎でも、いいベッドに寝られるようになるっていう(笑)。地位につれ部屋が変わってくみたいな感じがありました。それからこの寄宿舎には、夜になると課外活動みたいのがあるんですね。

編 同じ階に女子生徒もいるんですが、その女の子たちに、夜な夜な売春婦として客をとらせにいく。

タ えっ!?ってなるんですよね(笑)。出かける時に、制服みたいにジャージに着替えて、行くぞって言って。なんか謎の大人が出てきて、そいつが車を運転して。

編 女の子は車の中でホットパンツに着替えて。

タ なんかシステムが完成してるんですよ。援助交際とかじゃなくて、管理売春。ここらへんから、この映画の舞台が学校だっていうの忘れはじめますね。

編 これ一応スクールムービーですよね、寄宿舎だし(笑)。

タ スクールムービーだったんだ(笑)。売春してる女の子がトイレで話してると、そこに間違って普通の生徒が入ってきちゃうシーンがあるんですけど。そこでハッと、ここ学校だったんだって我にかえる。それぐらい犯罪が気合い入りすぎてて、登場人物が学生だっていうのを忘れますね。彼らは夜な夜なトラックターミナルみたいなところ行って客をとるんですけど、その売春婦と客引きを一緒にやってるんですよね。

編 これがどう見ても組織的犯行といいますか。

タ なんか明らかに上に組織がありそうな感じなんですけど、それはよくわからない。

編 少なくとも、寄宿舎のガキだけでは回らないシステムの存在があそこで示されました。

タ そこもなんかウクライナなのかなっていう。そんなこんなで、主人公もその仕事に関わるようになっていく。でうまくいくかと思いきや、だんだん売春してる女の子の一人を好きになってしまうんですね、そこで葛藤が生まれて、どうするどうなるって進んでいく。ダークだけど実は青春映画なんですね。

編 暗い青春映画ですね。

タ でもウクライナの暗い青春ってここまで暗くなるのかと。放課後に管理売春なのかっていう......(笑)。

編 (笑)。そんなあらすじになってるんですが、これでおおよそこの映画の概要はわかっていただけたと思います。では見所を追っていきましょう。

■言葉のない画面から伝わるもの

編 ターHELLさんが考えるこの映画の見所は。

タ そうですね、まず観る前に一番期待してたのは、「手話」っていうところなんですけど、これは始まってすぐ忘れちゃう。理由はさっきも話しましたけど、何を話してるか大体わかるんですね。そうなると、普通の映画で口の動きに注目しないのと同じで、手話を意識しなくなってくる。

編 そうですね。

タ 僕が面白かったのはカメラの動きですね。予告編でも使われてましたけど、凄く印象的な場面がいくつかあって、まず凄い長回しなんですよ。カットしないんです。そしてカメラの動きも含めて、役者がフレームインするタイミングとか、演技のテンポが、完全に設計されてるのがおもしろい。それこそ、ピタゴラスイッチみたいに、カメラと役者がかみ合って動いてる。

編 ワンシーンが非常に長いだけじゃない。

タ カメラが動きまくるんですよね。寄宿舎の細長い廊下があるんですけど。いろんな部屋を出たり入ったりして、それをカットしないままドア入って、また出て、ドア入ってって撮っていく。ドアの向こうに何があるかわからなくて、ある部屋では突き飛ばされて中に入ると、いきなり裸の女の子が2人いる。

編 女の子の部屋だった。

タ そう。しかも可愛いんですけど、その女の子が凄い怒りだして、出てけ、出てけって慌てて出る、そういうシーン。そこで入るときに、カメラがクルっと回って入るのがいい。カメラの存在をすごい感じるんです。この映画ってセリフがないけど、サイレント映画じゃない。その違いは環境音もありますけど、サイレント映画ってセリフが文字で定期的に入ってくるじゃないですか。

編 はい。

タ だからそこがリズムの区切りになるんだけど、この映画はセリフがないから、途切れない。リズムがサイレント映画とは全然違う。敢えてそれを強調したくて長回しを多用したのかなっていう気もしましたね。

編 なるほど。

タ 一番トリッキーな動きしてるのは、車で出かけて行くシーンで。女の子がまずバンの中で着替えてる。画面の両側に女の子がいて、ガールズトークをしながら売春用の制服っていうか、エロい服とかになっていく。

編 化粧道具を貸し借りしたりして。

タ そう、女子トークとかもしながら。

編 その時カメラは前から後ろを向いているので、車がどこへ向かってるか分からないんですよね。

タ そうなんですよ。で、止まって、バンの後ろのドアがバシッと開いて、2人が車から出ていくと、カメラがクルッと回って、そうすると今度はフロントガラス越しに、歩いていく女の子たちと客引きを追っていく。彼らの歩くスピードに合わせて車がゆっくり走るんですね、そこにカメラも乗っている。その一連のカメラも演技みたいな動きが、気持ちいい。ついでに言いたいんですけど、この映画って、ガラス越しに撮影されるシーンが何回かでてくるんですよね。

編 はい。

タ これは日常生活の聞こえないシチュエーションを連想させるために、監督わざとやってるのかなって思ったんですけど。たとえばなんかファミレスの外から、中に誰か知ってる人が話してるのを見つける。声は聞こえないけど、もめてるのか、楽しげなのか、もっと踏み込んで、恋人同士なのか、仕事の話なのかって結構、反射的に分かるじゃないですか。それって多分、表情とか身振り手振りで会話を感じとるモードになってる。たとえばこの映画が始まってすぐ、学校に向かうシーンで主人公が建物に着くと、カメラだけ中に入らない。

編 ありましたね。

タ 凄い動いてきたカメラがぴたっと止まって、ドアのガラス越しにセレモニーをずっとみてる。ここは観客を最初にそのモードに引き込もうとしたのかなっていう。
編 冒頭だけにその可能性は高そうですね。

タ 声以外で言葉を受け取る映画のイントロに、ガラス越しはピッタリかなと。それにしてもよく磨かれてるガラスでしたね、あれ。汚れとかないかなって思わず探したんですけど、なかった(笑)。それで長回しに話を戻すと、さっき言ってた決闘のシーンもかなり長いワンカットで、ここも観てるだけでビンビン来ました。

編 あれは素晴らしかったです。あの決闘のシーンは後ろに大勢の生徒たちが待ち構えていて。

タ カメラが結構な距離を移動して、右に流れながらだんだん人が増えていくんですよね。最初数人だったのが、バラバラと集まってきて、カメラが進むにつれどんどん増えていく。なんだなんだと思っていると、最後廃墟みたいなのがフレームインしてきて、そこにメッチャ人が待ち構えてて。

編 ギャラリーとしているんですね。

タ 劇場みたいになってて、始まるぞっていう。なんかストリート感があって興奮した。『ワイルド・スタイル』も今リバイバル上映してますけど、あれも街にガキがたくさん集まって、何か始まっていくみたいな興奮があるじゃないですか。そういう街の、公園の、それも汚いところなんですよ。公園の外れみたいな。だけどそこに磁場が発生して、そこで何かが始まるぞっていう興奮があった。この映画『ザ・トライブ』っていう題名ですけど、あの場面がまさに「トライブ」が映ってる瞬間でしたね。

編 「トライブ」っていうのは、族、一族という意味合いですね。彼らはひと言も喋らないけど、でも手話で凄い勢いで喋ってるんですよね。

タ すげーザワザワしてる。これはザワザワしてるな、ヤバいっていう(笑)。

編 目で追いきれないくらいのギャラリーが、みんながみんな手話でザワザワしていて。あれはゾワッときますよね。

タ あれはなんなんですかね。人が大勢いて会話でザワザワしてたら当然なんですけど。でもその時に、声だけじゃなくて、身体の存在、動き、気配とかで、誰でもたぶん五感でザワザワを感じてると思うんですよ。

編 そうですね。

タ 声の会話を濾過して、その雰囲気のザワザワ感だけがあそこに映ってる。

編 とても印象的なシーンですよね。

タ で、やっぱコンクリ感......僕の東欧のイメージって、公園、団地、落書き、この3つなんですけど、まとめて言うと朽ちたコンクリ感。ここではそれが全部揃っていて。それで同じようによかったのが、スーパーのシーン。

編 はい。

タ 夜のスーパーが出てくるんですけど、画面に映った瞬間に、治安悪いっていうのが分かるんですよ。

編 (笑)。

タ 壁が落書きで埋め尽くされてるから、「地球の歩き方」で言ったらもう、絶対行っちゃいけない場所みたいな。で案の定、そのスーパーから出てきた人が歩いてると、主人公たちの一団に後ろから殴られる。買ったもの全部奪われるんですよね。

編 まさに強奪でしたね。

タ そのスーパーを出たあとの小道の、街灯の感じとか、フェンスが遠くにある感じとか、ああ、もう怖くていいなって。で主人公たちは奪ったもので宴会するんです。公園で収穫を山分けして、遊具とかあって、仲良し同士で散っていくみたいな。まさに青春のシーンなんだけど夜なんですよね。酒も、アメリカの青春映画ならまず未成年だからIDを偽装して、親から金を盗んでとか、イギリスなら万引きするとか、展開があると思うんですけど。ウクライナだとスーパーから出てきた人間を後ろから襲うっていう(笑)。

編 あんなに怖い雰囲気だったのに、急遽青春シーンが始まって(笑)。

タ しかも、主人公が気になるあの子どうしてるかなって探しにいったら、フェラしてる(笑)。キスしててショックとかってレベルじゃない。で、強い酒を一気飲みっていう、ノワールすぎる青春でしたね。

編 ウォッカ系の酒をボトルごとあおってましたね。

タ 80度くらいありそうな。でもそこで、仲間うち同士ちょっと距離が縮まってる感じもある。そういう青春がちゃんとあって、しかもウクライナ・バージョンになってるのがよかったですね。だから、カメラアクションと、朽ちたコンクリと、そこに描かれた落書きが僕の考える見どころでしょうか。五十嵐さんはどうですか?

編 黒幕っぽい輩がでてくるシーンがありましたよね。売春している女の子たちは、実はイタリアに行きたいという夢を持っていて、それを斡旋するかのような、組織の黒幕っぽい男がやってくるんですね。

タ この映画で数少ない、大人が出てくる場面ですよね。僕はむしろ、もっと儲かるからイタリアいこうぜってあのスーツの男が勧誘しにきた場面なのかなって思ったんですけど。そこは手話なので詳しくは分からない。

編 その男が、イタリアから帰ってきた時にお土産をみんなに振る舞うんです。

タ あのシーン最高でしたね。

編 凄いベタなイタリア土産がたくさん出てくる。たとえばワインならキャンティという、フラスコみたいなボトルの下半分が藁にくるまれているワインとか、サラミとか、グラッパとか、挙句の果てにはTシャツ。

タ あのTシャツの柄がクソダサかった。This is お土産っていう。なんでしたっけ、I LOVE イタリアみたいな感じの。ミラノって書いてあるやつ。しかもそれを、めっちゃ喜んでるんですよ、女の子たちが。

編 そうなんですよね。めっちゃ喜ぶ。

タ あそこは和みました。こいつら結構、純なとこあるんだなって。

編 ウクライナの人たちのね。

タ スレてないんですよね。管理売春したり、夜道で人を襲ったりもするけれどスレてないってところで、ちょっといいなと(笑)。

編 少年感というか、若い感じが出てましたね。

タ その席でスーツの男がMacbookをバッと出して、もう一人の大人に見せるじゃないですか。だけど画面がカメラの反対側を向いてて、そこに何が映ってるかわからない。

編 あの時、とんでもない悪いやり取りがなされてるんだと思いました。

タ そうなんですよ。もう凄いヤバい相談してんだろうなと思って、死体でも映ってるのかなと思って。最後にそのパソコンがクルッとこっち向いたら、スーツの男が名所で自撮りした写真が映ってるんですよ。

編 面白かったですね(笑)。あれが本当に黒幕だったのかどうかも分からなくなる。

タ なんか普通にイタリア、エンジョイしたいだけなのかみたいな。

編 あのお土産の振る舞いっぷりを見ると、気のいいおじさんみたいな感じがしますよね。

タ そう(笑)。別に旅行いけるし、売春でかせいで、みんなハッピーじゃんみたいな。どこまで悪いヤツなのか分からないですよね。

編 はい。このシーン以外クスりともできない映画なので、あのシーンは凄く印象に残ってますね。

タ あそこで一緒に喋ってる、もう一人の大人の男がいるじゃないですか。こいつは売春する場所までいつも車を運転してる奴で、出てきた瞬間に、顔が、めちゃくちゃ僕はビビッたんですけど、一番ヤバいなって思ったんです。どうヤバいかっていうと、悪人ヅラじゃないんです。動物的なヤバさで、今まで観てきたマフィア映画とかだと、あの顔してるヤツはボスじゃない。でもボスに命令されたらなんでもやりそう。別に疑問に思うことなく死体をドラム缶で溶かしたりとか(笑)。

編 (笑)。

タ 別に疑問に思うことなく一家皆殺しにしたりとか。そういうヤバさを感じて。学校にも出入りしてるし、こいつ何なんだろうと思ってたら、シレッと明らかになるんですけど、図工の先生なんですね(笑)。学校の先生なのかよって。

編 事務職とか、お庭番とか守衛さんってイメージだったんですけどね。

タ 教師かよっていう。

編 彼が教師だったと明かされた時の絶望感ね。

タ でも、彼こそがウクライナっていう国を表わしているっていうか......失礼な話ですけどね(笑)。ソ連とウクライナ国民の間にはさまれた、ウクライナ政府って感じがしましたけど。

編 出てくる人たちはみんな少年じゃないですか。少年で、イタリア土産に喜んだりする純粋さもあったりするけど、厳しい国であるウクライナを生き抜いた結果しみついた暗さみたいなものが教師には......。

タ あんま感じられなかったですね。暗くもないんですよね。

編 当たり前になってる。

タ 自分の役割をこなすしかないみたいな、淡々としてるんですよね。で、学校の先生は学校の先生でちゃんとやってるんですね。

編 ちゃんと授業するんです。怒ったりしますから。

タ ちゃんと削りなさいとかって。で、夜は車を出して(笑)。

編 淡々と売春(笑)。でも、ベタなヤバいヤツとしての演出が一切ないんですよね。

タ ないんです。悪いことしてるわけでもない。結構話せて、主人公が売春の時にもめだしたりしても、しょうがないなって感じで話も聞くし。聞くんですけど、誰かに消せって言われたら消すんじゃないかなって(笑)。善悪判断をもってない感じ。『悪の法則』とかで、業務のついでに死体入りのドラム缶運んでたおっさんを思い出しますね。ああいう人が出てくると、マフィア映画がグッと締まるんです(笑)。まあこれはマフィア映画じゃないんですけど。

編 似た雰囲気はあるかもしれませんね。

タ 悪でもないし、普通でもないっていう。面白かったですね。

(C)GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 (C)UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014

■言葉ではなく音が示すもの

タ 最初にこの映画は観ていて手話が意識から消えていくっていいましたけど、じゃあ聴覚障害っていう要素を完全に無視してるのかっていうと、実はそうじゃないんですね。二箇所だけ、音が聞こえないってことをもの凄く強調している場面が出てくる。

編 ありましたね。

タ ひとつは、ほとんどオチに近いんですけど、もうひとつは......。

編 トラックターミナルのシーン。

タ はい。寮生活から抜け出してる不良軍団って、つまりアウトサイダーなんですよね。アウトサイダーってことは、社会の外に生きてるってことで。人間たちが積み上げてきた、平等を実現しましょうっていうのが社会じゃないですか。ある意味、その外に生きてる。そうするとサバンナ状態になるわけですよね。そこでどうなるかっていうと、耳が聞こえないと単純に死亡率が上がる。

編 そうなんですよね。

タ 耳が聞こないから死んじゃうっていう、何のヒネリもない演出が出てきて、こえーっていう。

編 あれは衝撃でしたね。あれを見ると、障害者は社会の中で守られてしかるべきだって再認識しますよね。

タ だからこそ耳が聞こえないことも想像して、社会を組み立てないといけない。むしろそれが社会の意味だっていう。この映画が他と違うところは、社会の中の平等、いわゆるポリティカル・コレクトネスを描いてるんじゃなくて、自然状態の中での平等を描いてるところですね、今気づきましたけど。だから耳が聞こえないと直接生命の危機に繋がるんだけど、逆に原始状態で人間の変わらない部分もはっきりしてくる。

編 そうですね。実は何度かセックスのシーンがあるんですけど、そこでも端的に『ザ・トライブ』で何を示したかったのか描かれているように感じました。その一つは声。彼らは聾唖者なんで言葉は喋らない。でも感情があふれ出した時に、勢いづいて息が洩れたりする、その中で女の子の喘ぎ声っぽいものとか、男の子の荒い息づかい、そういうところは我々と変らないものとして逆に伝わってきたと思うんですね。

タ そうですね、セックスする時っていうのは言葉じゃないから。いや、でも人によりますかね......。

編 喋りながらセックスする人もたくさんいると思います。彼らも最中に手話を交わしてましたから。それでもやってることに変わりはなくて、そこで彼らが交わしてる感情も特別なところがない印象でよかったです。

タ この映画、ドキュメンタリーみたいに進んでいくんですけど。セックスシーンだけはすげえなんか、造りこんだ、セットみたいな部屋になる(笑)。ここ見せたいですみたいな感じで。この青年が、最初たぶん童貞なんですね。絶対童貞ですね。

編 はい。

タ この映画の青春映画としての側面は、やっぱりこの主人公の青年が、売春に連れて行ってる女の子に惚れちゃう。

編 恋焦がれてしまう。

タ だけど、やりたいっていったら、じゃあ金払えって言われちゃう。そんな哀しいことがあって、初体験を金払ってやるんですね。

編 そうなんですよ。このいかにも寒そうなウクライナで。

タ ボイラールームみたいなところで。

編 やっぱりあったかいんですかね、ボイラールーム。

タ (笑)。それが、あぁー、虚しい、寂しい、切ねぇっていう感じが、でもこれこそ初体験だなっていう。僕すげえ思い出したのが、『初体験/リッジモント・ハイ』っていうアメリカの映画があるんですけど、若かりし頃のショーン・ペンとか出てるんですけど。これが題名通り、初体験したいしたいっていう高校生たちのやりやり青春ムービーで。そんなアメリカの明るい映画なのに、いざ初体験できましたってなるとそのシーンが、もの凄い切ないんですよ。

編 (笑)。

タ 野球場かなんかのベンチみたいな、ヘンな小屋でやるんですけど。その時にカメラがパッと切り替わると、ヤられてる目線で、見上げてる天井が映るんですよ。初体験ってこんなもんなんだみたいな。その虚しさみたいなのを、思い出したんですね。アメリカでもウクライナでも初体験は切ないんだって。

編 それもひとつの青春の平等さというか。

タ そういえばインタビューを読むと、最初この女優の子が、セックスシーンに渋ってたらしいんですよ。だけど監督が『アデル、ブルーは熱い色』を観せたら、これは凄いと。芸術だってなって、セックスOKになったらしいんですよ。だから、壁が青い部屋でセックスしてたんですかね(笑)。

編 (笑)。で、同じように、喘ぎというか声にならない声が表現されていたシーンとして、もうひとつ女の子の中絶シーンというのがありました。

タ あれも凄かったですね。原始的な中絶で。

編 正規の病院じゃなくて非合法っぽい。

タ ばあさんのところに行くんですけど、ばあさんが用意するんですよね。用意っていっても、道具を熱消毒くらいのことしかしないんですよ。しかも台所で、大丈夫なのかって。でもその時に、一応鉗子とかそういういろんな器具があるじゃないですか。それが金属製で、金属の箱に入ってるんですよ。それを持ち運ぶ時に、ガチャガチャッて硬い音がするんですよ。あれがもう怖い怖い、何をされるんだっていう。

編 ホントにこの映画、セリフもないし音楽もないけど、状況音みたいな音は良く聞こえますよね。器具の立てるカチャカチャいう音が......。

タ 恐怖を駆り立ててくると。その後にね、悲鳴が聞こえてくるわけで。最悪ですねもう。やめてくれっていう。

編 声らしい声が唯一聞こえるシーンでしたよね。声が持っている表情というものを改めて実感させられるというふうに見えました。

タ なるほど。

編 この女の子は素人なんですけど女優志望。アマチュアなんだけど、女優になりたいと思ってる女の子ということで監督が出会ったらしいんですが、男の子のほうの主人公が、また結構面白い経歴を持ってるんですよね。

タ そうなんですよね。なんか特に役者志望ってわけでもなくて、グラフィティもしてるし。謎のカルチャー、なんだっけ......街中で自分の体だけで勝手にエクストリームスポーツみたいな、そうだ「パルクーリスト」。

編 そして「ルーファー」。

タ パンフの説明を読んでみましょう。「『パルクーリスト』は、街中の塀や手すりなどあらゆる場所をアクロバティックに飛びこえたりして走り回る行為を楽しむ人のこと。『ルーファー』はつり橋の主塔や高層建造物の上棟、危険な高所に身ひとつで登る行為を楽しむ人のこと」って、要は不法侵入してるってことですよね、街じゅうで(笑)。Youtubeで「ロシア 危険な遊び」とか入れると出てくる感じの。

編 アメリカだと自転車とかスケボーを間にはさんで、カルチャーっぽいというか、スポーツのような形で楽しまれているものとも思うんですけど、これは体ひとつっぼいですよね。

タ 暇だし金もないから、街そのもので楽しむしかないみたいな、ホントにキエフのストリート出身の子だったんだなっていうのがリアルな感じで。

編 撮影期間中、クリミア半島がロシアに編入云々っていう時期のデモに参加したりしていたという逸話もパンフに書かれてました。

タ この映画の主人公って、真面目そうなんだけど、真面目そうなやつが一番ヤバいっていう役でもあるわけじゃないですか。

編 確かに(笑)。

タ 認められて、チームの一員になっていくと、こいつが暴力装置みたいになっていって。下級生をしめるときに、尋問するヤツの横で黙って立ってる。で、頃合いを見て腹を殴るっていう。ムッツリスケベならぬムッツリ暴力みたいな。あれも全部役作りとかじゃなくて日常通りなのかなって(笑)。

編 むしろ(笑)。

タ K1選手とか、軍人になったらこういうやつのほうがヤバいですよね。

編 本当にそういう存在感のある主人公でしたね。というわけでお送りしてきました『ザ・トライブ』。

タ くり返しになりますけど、この映画を後援するウクライナ大使館はどうなってるんだと、懐深いですね。またはだまされたのか......。これを観てね、ウクライナに行きたいと思う人が果たして何人出てくるのか。

編 いったいウクライナ大使館は何を示したいんでしょうね......。

タ もしかしてあの売春組織の元締めは、ウクライナ大使館なんじゃねぇか......。

編 (笑)。

タ この映画で描かれてるウクライナに出かけたとして、自分に当てはまりそうな役って、スーパー帰りに殴られて昏倒してる人しかいないですよね。

編 (笑)。というほど非常に刺激的な映画です。今回、ターHELLさんと二人でお届けした『ザ・トライブ』。ウクライナ大使館公認の手話映画ということで、皆さん、是非ご覧下さい。

構成=編集部

この映画の言語は手話である。字幕も吹き替えも存在しない。
「愛」と「憎しみ」ゆえに、あなたは一切の言葉を必要としない。


『ザ・トライブ』
4月18日[土]よりユーロスペース、新宿シネマカリテほかにて公開 全国順次ロードショー

(C)GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 (C)UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014
英語題=『The Tribe』
監督・脚本=ミロスラヴ・スラボシュビツキー
出演=グレゴリー・フェセンコ、ヤナ・ノヴィコヴァ
配給=彩プロ/ミモザフィルムズ

2014年│ウクライナ│132分│HD│カラー│1:2.39│字幕なし・手話のみ

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映画『ザ・トライブ』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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