WEB SNIPER Cinema Review!!
ニコラス・ケイジ主演のパニック・アクション大作!
突然、世界から数百万を超える人間が姿を消した。ジャンボジェットの機長としてフライト中だったレイ(ニコラス・ケイジ)も、高度3000フィートの上空で乗客の一部が消えるという異様な事態に必死の対応を迫られる――。全世界シリーズ累計6500万部突破の大ベストセラーを映画化した驚愕のパニックアクション!6月27日より新宿バルト9ほか全国ロードショー
女子大生のクローイ(キャシー・トムソン)は、父親(ニコラス・ケイジ)の誕生日を祝うために、久々にNYに帰ってきた。ところが空港から母親(リー・トンプソン)に電話すると、肝心の父が仕事のせい参加できないという。うんざり顏の彼女が空港で待ちぶせしていると、パイロットのニコラス・ケイジがスチュワーデス(ニッキー・ウィーラン)と乳繰り合いながらやってくる。父娘はいっときの再会を経て、上空と地上に別れることになった。一人実家に戻る主人公だったが、宗教狂いの母親にいたたまれなくなり、弟をショッピングモールへと連れていく。そこでついに異変がやってくる。突然弟が、身につけていたものだけを残して消え去ってしまったのだ! 周りでも次々と悲鳴があがり、人々がそこらじゅうで消えたことが明らかになる。
異常なことが起きたのに世界が続き、不安が満ちている感じは『ドニー・ダーコ』(リチャード・ケリー監督)を思い出した。ケイジの操縦する飛行機内でも作家(チャド・マイケル・マーレイ)やヤク中、セレブ妻など様々な乗客たちが、パニック状態におちいる。果たして飛行機は無事着陸できるのか、そもそも何で人が消えたのか、スリルとサスペンスの両輪で本作は進んでいく。
見ていくうち誰もが気になるのは、消えた人間に共通するものはなんなのか?というところで、くわしくは言えないんだけど、まず子供が全員いなくなっている。じゃあ消えたのは子供と、子供の心を失わなかった大人?とか、もしかして童貞・処女!?とか考えても、どうも腑に落ちない。善人だけ消えた!?とか思っても主人公は弟思いの優しい娘だし、どうやってオチつけるんだよ!と思い始めた頃に、本作はその異常な正体をあらわにする!
この映画、所々ギャグなのかマジなのか分からないところも面白くて、たとえばケイジと乳繰り合ってたニッキー・ウィーランは、いい女なんだけどスチュワーデス同士の会話で微妙にビッチ感を出してくる。ところがいざ危機に瀕しては、さすが乗客の安全を守るプロ!と思いきややっぱり全然ダメだったり、意外性のなさが逆にアホっぽいんだな(まあこれもこの映画のある種の偏り、人間の機微を理解しない態度を示しているのかもしれないが......)。
クラッシュシーンも微妙にしょぼくて、でもCGじゃない。パイロットが消えたセスナ機が、主人公の目の前に落ちてくる。ほんとに落として撮ったんだなあ~って微妙なスケール感、これが味わい深かった。演出もなかなかよくて、落ちてきた飛行機を見て主人公は空を見上げると「ああ、お父さんのこと考えてるんだ」とセリフ抜きで伝わってくる。本作はパニック・アクションとしてよくできているのだ。しかし、それがワナになるというか......。
この映画のなにが狂っているのか?あー言っちゃうよ!言っちゃうよ!読むのをやめるなら今だ! パニック映画にはかならず危機に瀕して、周囲を煽って主人公を危機に陥れる奴が出てくる。『コンテイジョン』(スティーブン・ソダーバーグ監督)なら、デマ・ブログを書いて人気を得ようとする奴とか、『ミスト』(フランク・ダラボン監督)なら「生贄が必要だ!」とか言い出して扇動しはじめる奴とか。そういうキャラクターが、集団を真っ二つに切り裂いて主人公を追い詰めるのは、ひとつのお約束だ。
この映画でも異変が起こる前に、地震や津波といった災害をすべて宗教的な「教訓話」に絡めようとするおばさんが出てきて、そいつは完全にあぶない人として描かれている。ああ、いつものやつねと思うわけだ!その後も、ただひとつ大きな謎だけを残して違和感なく進んでいくから安心していると、むしろそのおばさんこそが正しかったみたいな展開になっていくんだよ!っていうかそもそもこの映画の原作自体が、「聖書に書かれていることはすべて真実」っていう発想で書かれたキリスト教の伝道フィクション・シリーズだったんだよ!いつもパニック映画の後ろのほうで「終末は近い」とかって看板持ってるような奴が、今回パニック映画作っちゃいましたみたいな話デショそれ! だから進むうちに「お約束」の主客が転倒して、親しく見知ったパニック・アクション映画の文法で、「聖書に書いてあることはすべて真実である」という価値観へと映画がねじれていく。俺は叫んだね、この映画の犯人は映画の外にいる!!!!これは斬新すぎるだろ!!!
それにしてもラスト、じつは監督は原作に反して、消えなかった奴の勝利宣言をさせてるんだと思ったな。結局、消えなかった奴だけが映画に出ることができる。むしろ映画は、消えなかった奴らのためにこそ存在しているのだ。ニコラス・ケイジの最後のセリフは、そんな宣言なんじゃねえか? 監督のヴィク・アームストロングはスタントマンとしてキャリアを始め、最近ではセカンド・ユニット監督として『宇宙戦争』にも参加していた。彼は映画的良心をもって、消えなかった人間もフェアに描こうとしたにちがいない。だからむしろ、あんな善良な主人公や、ムスリムをただ一点の理由で排除しようとする原作の世界観の狭量さが、目立ってみえる。本作は「人類が獲得してきた『リベラルアーツ=自由になるための学問』を否定する人はやばい人です」というハリウッド映画の文法と、「聖書に書いてあることはすべて正しい=人類は聖書から自由になれない」という原作の世界観が映画内で戦っている、映画人の良心葛藤SFなのである。ちなみに原作はすでに一度、全4 部作で映画化されている。旧シリーズを見てみたら葛藤ゼロの脅迫伝道精神100%、グアンタナモ基地で拷問を受けているような気分になる代物だったから、やっぱりヴィク・アームストロング監督頑張った!というところからの、「となりの人が消えちゃった~」みたいな、エンディング曲がやっぱりギャグなのか本気なのかわからなくて爆笑なのでぜひ堪能してほしい。
文=ターHELL穴トミヤ
高度三万フィートで消えた大量の乗客たち
そのフライトで何があったのか?
『レフト・ビハインド』
6月27日より新宿バルト9ほか全国ロードショー
関連リンク
映画『レフト・ビハインド』公式サイト
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