WEB SNIPER Cinema Review!!
全世界が絶句した「ホンモノの問題作」堂々完結!
アメリカ某所。巨大監獄ジョージ・ブッシュ刑務所で独裁的な権力を握る所長のビル・ボスは、彼の刑務所が全米で最も暴動が多く、医療費や離職率も一番であることに怒り、人間の口と肛門をつなげる映画『ムカデ人間』シリーズを真似て囚人全員をつなげてしまうアイディアを採用する。これで暴動は起こらず、食費も一人分で済むと考えたからだ――。8月22日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
『ムカデ人間』が登場した時、我々は戦慄した。題名のインパクト、得体の知れなさ、そしてなぜか日本人が参加している点。いざ公開されるや「ほんとうに人をつなげてムカデ人間をつくる」というその展開に、看板に偽りなしがいつも正しい行ないというわけではないことを知った。映画は人類の知性の限界を示すがごとくに大ヒットしてしまい、やがて『ムカデ人間2』の製作がアナウンスされる。まさか人数を増やすみたいな、ベタな展開じゃないよな?と思う我々の前に示されたのは、「前作『ムカデ人間』を観た異常者が影響を受け、DIYで実現に走る」という、メタ・ムカデ人間ストーリーだった。つなげる人数は3から12に増えていた。我々は映画館のドアをくぐってしまったことを心の底から後悔し、一人負けしたくない一心で「絶対観に行ったほうがいいよ」と友達にメールで一斉送信、その友達がさらに別の友達にメールを送り、世の中には不幸のメールでヒットする映画もあるのだということを知った。そして本作である。ついにシリーズ完結編となる第3作は、「『ムカデ人間2』に影響を受けた刑務所所長が、囚人たちをムカデ人間にしようとする」という、メタ・ムカデ人間2ストーリー。ムカデの人数は500人になっている。
舞台は、アメリカの荒野にそびえ立つ刑務所。その所長を『ムカデ人間』で狂った博士を演じていたディーター・ラーザーが、その部下を『ムカデ人間2』の主人公ローレンス・R・ハーヴェイが演じる。私は姑息な部下を演じるローレンス・R・ハーヴェイを見てホッとした。ああこの人って役者なんだ、『ムカデ人間2』にしか出てこない、ただの異常者じゃなかったんだと分かったから......(未だに、『ムカデ人間』シリーズ以外では見たことないけど......)。
所長はカウボーイ・ハットに垂れサングラスをかけ、秘書(チャーリー・シーンの元カノ、元ポルノスターのブリー・オルソン)にランチタイム・フェラチオなどをさせつつ、気に食わない囚人の顔を熱湯で焼けただれさせたりして、日々の業務をこなしていた。しかし医療費の増加や所内治安の悪化によって、州知事から2週間の猶予付き懲戒免職を言い渡されてしまう。いっきに持病の高血圧を悪化させ、囚人を射殺したり、生きたまま睾丸を切り取ったりし始める所長、そこに部下が素晴らしい提案を持ってくる。囚人を全てつなげて、ムカデ人間にしちゃえばいいんです! かくして我々は500人のムカデ人間がスクリーンに映る瞬間を、心待ちにすることになる。
本作、久しぶりのディーター・ラーザーだが、常に興奮状態で放送禁止用語を叫びまくり、合間にびっくり箱のように人種差別発言が飛び出してくる。そのあまりに満遍ない差別発言を聞いていると、だんだん「アジア人への差別発言もお願いします!」と待ちわびる気持ちが湧いてくるから、不思議なものだ。ただ砂漠の暑さのせいだろうか、キャラクターとしての厚みは完全に蒸発してしまい、第1作マッド博士役のときに発していたような未知の恐怖は感じられなかった。想像するに監督は心の底から「ムカデ人間」にしか興味がなく、それ以外のことはどうでもいいのだろう。本作にも自身の役で出演していて、あいかわらず「人のムカデ化は、医学的に実現可能」という監督以外誰も気にしていない点にこだわっているあたり、ぶれない闇を感じる。
刑務所には、地元じゃ「神が昼寝をしている間に生まれた子」みたいなあだ名で呼ばれてたんだろうな、というビジュアルの囚人たち(ロバート・ラサードとか)が勢ぞろいし、安全圏から危険を覗き見るサファリパーク的快感がある。さらに、彼らをサイコな所長がグアンタナモ式の拷問などで痛みつけていくにつけ、警察24時で犯罪者が反抗的なら反抗的なほど興奮するあのうずきを味わうことができた。一方で所長は彼らの復讐を恐れており、しばしば繰り出される囚人からのイタズラに本気で恐怖する。そんな彼がついに食堂室で囲まれ拷問し返されるシーンもあり、本作は刑務所からやってきた観客へのサービスも忘れていない。州知事の解雇宣告からムカデ誕生までの日々を埋める拷問につぐ拷問描写は、そろそろ再犯を考えている異常犯罪者のサディズムをたっぷり満足させてくれるし、そうでない者も「なるほど『デス・レイプ』と呼ばれる儀式はこんなものだったんだ!」と、人生を豊かにしない知識を得ることができるだろう。そんななか、これから味わうことになる運命を囚人に知らせるべく所長が開催する「ムカデ人間上映会」。その客席に、前作で一旦フェードアウトしていた北村昭博演じる囚人が登場しているのは、ファンとしても格別の嬉しさがあるのではないだろうか。
州知事を演じるのはジュリア・ロバーツの兄、エリック・ロバーツ。チンポこそ映らないもののその堂々とした物腰から、やはりデカそうだな、男はサイズだなというメッセージが伝わってきた。さすがのサイコ所長もこのデカい州知事にはかなわず、今回の「ムカデミー賞」は笑顔でサイコを黙らせる男、エリック・ロバーツに贈りたい(ターHELL穴トミヤ選)。
ディーター・ラーザーの「精力をつけるために、アフリカで割礼にあった女性のクリトリスの干物を食べている」という設定をみるにつけても、監督は最悪ギャグを実現させるためのスケープゴードを見つけるのがうまい。第1作では、「やばい奴はドイツ人という設定にしておけばいいだろう」と考えていたようだが、今回もすべての責任をアメリカのタカ派に押し付け、欲望を爆発させている。しかし病的なのはドイツ人でも、アメリカのタカ派でも、女性の人権を無視しているアフリカの部族でもなく、監督あんただよ! ということに気付けるか、気づけないか? これが我々を岩波ホールか、新宿武蔵野館かに分けてしまう試金石なのである。これを読んだみなさんは、公開までの1ヶ月でしっかりメディア・リテラシーを身につけ、「世界に残酷さが溢れていて良かった!それを糾弾するふりをしてインモラルな欲望を映像化できるから!トム・シックス監督最高!」などと興奮しながらムカデの門をくぐってしまうこと、ゆめゆめないよう注意してもらいたい。でなければ、次回の「ムカデミー賞」はあなたになってしまうかもしれないのである。
文=ターHELL穴トミヤ
3人、12人、そして驚愕の500人へ。
ギネスも卒倒する、ムカデ世界新記録樹立!
『ムカデ人間3』
8月22日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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映画『ムカデ人間3』公式サイト
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