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園子温監督・最新作『リアル鬼ごっこ』公開記念! スピンオフ・スリラードラマ企画
累計200万部を売り上げた山田悠介のベストセラー・スリラー小説『リアル鬼ごっこ』。様々なメディアに派生し、拡大していったこの物語が、園子温監督の手でまったく新しい作品へ生まれ変わる――。その公開を記念して制作されたスピンオフドラマが本作『リアル鬼ごっこ ライジング』。新進気鋭のスリラー・ホラー監督3人の手になる短編3作がそれぞれに描き出す未知の領域とは!?J:COMオンデマンド、auビデオパスほかで配信中
「リアル鬼ごっこ」シリーズも回を重ねるうち、もはや山田悠介による小説原作にあった「『佐藤』という名字の人が追われて殺される」という基本設定がすっかり瓦解し、園子温版でも追われる対象は「名字が佐藤の人間」ではなく「女子高生」になっている。しかし本作では久々の「名字が佐藤」要素が復活。登場人物の年齢層を、小学生、中学生、高校生たちと変えながら、監督ごとにそれぞれの独立した「佐藤狩り」ストーリーが描かれる。
『ライジング:佐藤さんを探せ!』は大畑創監督(『大拳銃』『へんげ』)。『へんげ』っぽい特撮メタモルフォーゼがまたもや登場するか!と期待したのだが、なかったのは少し残念だった。休みになり閉鎖されている学校内に忍び込んだ3人組の小学生が、指名手配犯の男「佐藤」(仁科貴)を発見する。佐藤容疑者を気づかうように見えて、やがて狩猟本能を爆発させ「佐藤狩り」へと邁進していく子供たち。「俺はやってない」と言いながら逃げ惑う中年男のみじめさが、他人事ながら見ていてつらくなる。劇中『スタンド・バイ・ミー』への言及があり、なるほど3人はリーダー、メガネ、デブとキャラも似ている。しかしあの映画は4人組の少年が冒険する物語、となると残る1人はこの指名手配犯、佐藤さんなのかもしれない。観ているうちに犯罪者側に感情移入し、「その生意気なガキどもをぶち殺せ!」「司令塔気取りの脳みそをぶちまけてやれ!」「まずはデブからだ!その動きののろいデブを狙え!反撃しろ佐藤!やれ!」とエールを送っていたのだが、はたしてどうなるか。結果は観てのお楽しみとしたい。
『ライジング:佐藤さんの逃走!』は内藤瑛亮監督(『先生を流産させる会』『お兄ちゃんに近づくな、ブスども!』)。性的なイメージの横溢した問題作だ。時代不明の日本、海辺の工場らしき廃墟で暮らしている家出少女(染野有来)が生理になり、その血のかかった鬼の人形が人格を持つ(萩原みのり)。2人は親友同士になって共同生活を送り始めるのだが、そこに写真少年、佐藤くん(横山幸汰)がやってきてしまう。少年と家出少女は心惹かれ合うようになり、鬼は2人の間に嫉妬して......、とストーリーは続いていく。本作の見所は2人の女の子のかわいさで、彼女たちがくっついて寝たりしてるのを観ていると「ああ、いいなあ。あの足スベスベしてるんだろうなあ」と思わずにいられない。もちろん成人した真っ当な男性社会構成員として、私は決して本作の中学生をやましい目で見たりはしなかったということをここで天地神明に誓って申し上げたい。しかし萩原みのりのツノは定期的に激しく痛みだし、そのたびに染野有来がペロペロ舐めて痛みを和らげてあげる、本作はそんな設定になっているのである。そのペロペロ描写を前にして、私の股間のリビドーにあってはならないことが起きてしまった。かわいい鬼の頭に隆起する呪いの突起は、実は男の股間にとつながっている、本作にはおそろしいギミックが隠されている。
『ライジング:佐藤さんの正体!』は朝倉加葉子監督(『クソすばらしいこの世界』)。本作ゆいいつの女性監督であり、高校を舞台とした鮮烈な恋愛劇となっている。主人公の女の子(北浦愛)は、同級生の美少女(武田玲奈)に秘かに憧れている。というより憧れを超えてストーカーと化しており、盗撮した写真や、盗んだ持ち物をコレクションし、充実した学校生活を送っていた。しかし主人公はひょんなことから彼女と友達になり、ストーカー犯探しに協力することになってしまう。
本作は『誰も知らない』で長女を演じた北浦愛の演技が素晴らしく、まずもって登場した時から「美人にひそかに憧れている女の子」っぽい顔をしている。そんな彼女が、憧れの子から「じゃあ私を追いかけてみて!」と誘われる、その瞬間にみせる表情。それは「(私の人生にそんな素晴らしいことが起きて)いいんですか!?」という、自己評価の初期設定が低い人間だけが持っている、一瞬のきらめきなのだ。この瞬間、ボンクラに性差はない!と私は感動した。そんな彼女が放課後、誰もいなくなった教室で机に泣きながら「佐藤が好き」と殴り書きをする。そのコミュニケーション不全と、発揮できない性欲の、ないまぜになった青臭い激情もいい。さらにそれが翌日、増幅され校内いっぱいに拡大されているダイナミズム。これこそ本作を握りしめたスマホで観るであろう、中高生たちのリアルな姿であるはずだ。
このとき泣いている主人公は同時に、「私がなりたい名字は佐藤だよ!」と絶叫している。憧れの同級生から何気なく聞かれた「将来、どんな名字になりたい?」という質問への届かぬ答え。ここには「自分で選べない名字によって狩りの対象に選ばれてしまう」という理不尽さを出発点とする『リアル鬼ごっこ』世界に対する、「女性にとって名字は選ぶものなのだ」という、女性側からの新しい視点が含まれているのだ。あってはならないリビドーがあってもいい。でも選ぶなら、愛には覚悟もいるのだという戒めが込められた、締めにふさわしい一本となっていた。
それにしても『リアル鬼ごっこ』シリーズ、こんどの園子温版がすでに6作目というのには驚いた。2013年にはTVドラマ版も公開され、そして本作はオンデマンド版と、その増殖ぶりはとどまるところを知らない。どこかに「シリーズを作りつづけろ」という鬼に追われている大人がいるんじゃないかと想像して、勝手に恐ろしくなってしまったのだった。
文=ターHELL穴トミヤ
なぜ、【佐藤さん】は追われることになったのか――!?
あの衝撃のベストセラー驚愕の"エピソード0"オリジナル配信ドラマ誕生!
『リアル鬼ごっこ ライジング』
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映画『リアル鬼ごっこ ライジング』公式サイト
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