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(C)2014 tempesta srl / AMKA Films Productions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idée Suisse

WEB SNIPER Cinema Review!!
第67回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作
イタリア中部、光と緑あふれるトスカーナ地方の人里離れた土地で養蜂を営む一家。気難しい父ヴォルフガング(サム・ルーウィック)は自然との共存を目指す教育方針で4人姉妹を育て、長女のジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)は養蜂の技術を継承して一家の暮らしを支えていた。そんなある夏、一家はひとりの少年を預かることになる。一方、村にテレビ番組のクルーが訪れて......。イタリアの女性監督アリーチェ・ロルヴァケルが描く、少女のひと夏の成長と家族の葛藤の物語。

8月22日(土)岩波ホールほか全国劇場ロードショー
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(C)2014 tempesta srl / AMKA Films Productions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idée Suisse

なんかマジメで平坦な芸術映画かな~と思って観ていたら、いきなり素晴らしいシーンが始まる。あまりに美しくて、意味もわからず涙が出てきた。それはストーリーの美しさじゃなくて、そこだけ独立しているイメージの美しさなのだ。まるで人類の、数千年の歴史がそのシーンに込められているかのような、大地とともに生きてきた人間の記憶。それが、クソダサい、クソ俗物的なシーンのなかで突然やってくるからびっくりする。製作時32歳だった監督のアリーチェ・ロルヴァケル監督は、本作で第67回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した。

舞台はイタリアの田舎、養蜂家の父親(サム・ルーウィック)は粗暴で偏屈で、しかしその子供が4人全員女の子というのがおもしろい。長女ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)は妹と一緒に仕事を手伝っている。下の娘2人はまだ幼くて、親父がブチ切れても全く意に介さないタフな天真爛漫さが天使のようにかわいい。彼らの養蜂は時代に取り残されていて、保健所からは改装か営業停止かをせまられてしまう。お金のあてはどこにもなく、そんな家族の元に、矯正プログラムの一環として、罪を犯したドイツ人の少年がやってくる。家族は彼を迎えいれ、代わりにお金を受け取るのだ。言葉をひとことも喋らない少年は、ただひとつ、鳥のなき声を真似て口笛を吹く特技を持っていた。父親は家族に男が加わったことに喜び、なにかにつけ少年を連れ歩く。一方で、ジェルソミーナも年頃の異性の登場に淡い恋心を募らせていき......、と映画は続いていく。

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養蜂映画ということで、この映画かなりの勢いで蜂が出てくる。虫が苦手なのでうぇ~気持ち悪い!みたいな気分になっていたのだが、養蜂家の子ジェルソミーナが蜂をつまむ仕草は優しく、指先しか映っていないスクリーンからでも親愛の情が伝わってくる。ある日彼女は少年を手招きし「おもしろいものみせてあげる」と言う。顔の前にかざしていた手をどけると、なんと口の中から蜂が這い出してくるではないか! キモい! それに、刺されないの?と思うんだけど、蜂はいつでも刺すわけじゃなくて、ジェルソミーナはそのあうんの呼吸を知っているのだ。『かいじゅうたちのいるところ』(スパイク・ジョーンズ監督)という映画では、逆に主人公がかいじゅうの大きな口の中に隠れていた。そのまま食べられちゃわないのか不安になるんだけど、危険が去ったあとそのかいじゅうは、主人公をちゃんと口の中から出してくれる。そこで、ああやっぱり良い奴だったんだと分かる、同じように蜂とジェルソミーナの間にも信頼関係が築かれているに違いない。これはCG抜きで種族を超えた友情物語でもあるのだ。

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町ではフェスティバルが行なわれていて、特産品コンテストの番組が、出場者募集のブースを出している。父親は断固反対するんだけど、ジェルソミーナはそれに黙って応募してしまう。この番組がまた大味な作りで、センスのかけらもないのがすごかった。まずBGM が見事なまでにダサい。司会者(モニカ・ベルッチ)はじめ、出場者たちはその地方に住んでいた古代の民族という設定の、しかし時代考証はまったく適当そうな仮装をしていて、撮影は古代の洞窟で行なわれる。唯一の救いは姫のコスプレをしているモニカ・ベルッチが悪い人ではなさそうなとこぐらいで、でもそんな番組に素直に憧れる、田舎の子ジェルソミーナがまたかわいい。ダサいといえば、4姉妹がいつも踊っているヒット曲があって、これまた相当垢抜けない。その曲で求愛ダンスを踊る末の子がおませで良いのだが、本作は田舎とダサさの集積でできているともいえるのだ(そんな中、フェスティバルで遠くからうっすら聴こえてくる、やたらBPMの早いDJが気になった。あれはなんだったのか......)。
一家は見事コンテストに選ばれて、そうなるとあんなに獰猛に反対してた親父も仮装して出場している。そしてカチコチのまま演説を始めちゃって、放送事故的な感じになるんだけど、そこはプロフェッショナル。司会のモニカ・ベルッチがサクッと無視して先に行こうとすると、「待って!」とジェルソミーナが出てくる。続けて「まだ話は終わってないの!」と言う。その、ジェルソミーナの空気を読まない、流れを断ち切る感じが素晴らしい。彼女のセリフは、TV番組じゃなくて、日常じゃなくて、映画なんだ、非日常なんだという監督の宣言でもある。あんなに安っぽかったTVの演出までもが必然へと変わる、ここからの音、映像、人物たちの関係性がからみあった数分間は、古い仏像や、太古の宗教壁画と一緒に、永遠に美術館に飾りたくなるような美しさに満ちている。
蜂はキモい。ジェルソミーナが憧れるTV番組はダサい。そのTV番組の中でさえ、空気が読めずにイタい家族、でもそれは美しさにはなんの関係もない。本作を観ると、ジェルソミーナと蜂の関係、ジェルソミーナと少年の出会い、それこそが美の本質なのだと思い知らされるのだ。

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文=ターHELL穴トミヤ

トスカーナの陽光と青い空のもと、蜂飼いの少女と家族の絆と葛藤――


『夏をゆく人々』
8月22日(土)岩波ホールほか全国劇場ロードショー

(C)2014 tempesta srl / AMKA Films Productions / Pola Pandora GmbH / ZDF/ RSI Radiotelevisione svizzera SRG SSR idée Suisse
原題=『Le meraviglie』
監督・脚本=アリーチェ・ロルヴァケル
出演= マリア・アレクサンドラ・ルング、サム・ルーウィック、アルバ・ロルバケル、ザビーネ・ティモテオ、アンドレ・ヘンニック、マルガレーテ・ティーゼル、モニカ・ベルッチ
配給=ハーク
配給協力:アークエンタテインメント
宣伝:テレザとサニー


2014年│イタリア│111分│カラー│イタリア・スイス・ドイツ合作

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映画『夏をゆく人々』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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