WEB SNIPER Cinema Review!!
ひとりの少年の純粋な狂気にのみこまれる
愛媛県松山市西部の小さな港町・三津浜。海沿いの造船所のプレハブ小屋に、ふたりきりで暮らす芦原泰良と弟の将太。日々、喧嘩に明け暮れていた泰良は突然三津浜から姿を消し、松山の中心街で相手を見つけては喧嘩をふっかけていく。ある日、そんな彼に興味を抱いた高校生・北原裕也に声をかけられた泰良は、裕也と共に車を強奪。その車に乗り合わせていた少女・那奈を後部座席に押し込んだまま松山市外へと向かう。その頃、将太は兄を捜すために松山を訪れていて――5月21日(土)テアトル新宿ほか全国公開
向井秀徳の音楽がいい。煙いようなギター。ドラムもいい(服部マサツグ)。舞台はどこかわからないが、やがて四国(愛媛)だということがあきらかになってくる。漁船が並ぶ、しかし決して大きくはないどこかの港。村上虹郎演じる少年が道を歩いていると、港の反対側で男(柳楽優弥)が複数の人間に襲われているのが見える。それは彼の兄だった。少年が駆けつけると、同時にでんでんが走ってきて、その不良たちを追い払う。しかし、兄はその日を境に行方不明になってしまった。映画は兄をさがす村上虹郎と、ひたすらケンカの相手をさがす柳楽優弥の二人を基本として進んで行く。
ホームレス状態になりながら、松山の中心部に現われた柳楽優弥は、まず通りすがりのバンドマンを襲う。襲うと言っても何かを奪うわけでもなく、ただ言葉もなく襲いかかって、相手が倒れるまで執拗につきまとう。言葉が通じず、ひたすら暴力衝動だけを発散させながら松山を徘徊しているこのキャラクターは、レオス・カラックス監督の『TOKYO! / メルド』のモンスターを思い起こさせる。しかしメイクが施され醜かったモンスターに比べ、柳楽優弥は黒目がでかいところは「おっ」という感じがありつつ、生身の人間であることは間違いない。だからこそ、そのモチベーションが全く理解できないことに、より居心地の悪い思いを強いられる。
ところが柳楽優弥をめぐって登場するキャラクターたちは、逆に「こういう人間いるに違いない」という生々しさに満ちている。初めは彼をからかい、やがて寄生するようになる菅田将暉は、自転車の乗り方、長髪を頭の上でまとめているその髪型から、人の陰に隠れる癖、笑い方やしゃべり方まで、一貫してリアルな下劣さに貫かれていて非常にうまい。彼は柳楽を自分の暴力装置として利用する楽しさに目覚め、タッグを組んで人を襲い始める。ショッピングモールで通り魔を始めるシーンでは、義憤にかられて止めに入る強い男たちは柳楽優弥がボコボコにし、菅田将暉は女性や老人にばかり暴力を振るう。その躊躇なさに、「女性への暴力はふつう躊躇するよね」というのが思い込みにすぎなかったのだと驚かされるような、犯罪ならではの不快さがあって良かった。ますます犯行をエスカレートさせていく彼らは車を奪い、たまたま乗っていたホステスの小松菜奈も巻き込んだまま、移動を始めていく。
監督は真利子哲也。過去作である『NINIFUN』では、そのあまりにかけはなれた二つの世界の突然の交差に興奮したが、本作では松山という街、キャバクラ前の通路、商店街のアーケード、通り魔事件と、登場人物たちのすべてが溶け合って、ひたすら鬱屈したリアルな日本社会を見せられるようで辟易した。『誰も知らない』(是枝裕和監督)、『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)、日本社会の暗部をリアルに映し取った映画など、俺は見たくない!日常生活でも、コンビニの蛍光灯や、スラムのようなSNSから逃げ回って暮らしてるのに、なんで映画館の暗闇の中でまた同じものを見せられなきゃならないんだ!どうせ暴力を描くなら、自然の暴力で日常ごと塗りつぶされていく『生きてるものはいないのか』(石井岳龍監督)とか、アホすぎる暴力に日常がどうでもよくなる『TOKYO TRIBE』(園子温監督)のような世界が見たい!
キャバクラからの送迎車に乗っていてそのまま拉致される小松菜奈もまた、ああこう人いるかもしれないなという生々しさに満ち、嫌な後味を残してくれる。同僚とのやり取りから浮かび上がってくる性格の悪さなど、そのかわいさをも邪悪さで塗りつぶす演技がすばらしい(でもかわいい)。本作もっとも良かったのは、そのキャバクラでマネージャーのような立場にある池松壮亮で、『紙の月』(吉田大八監督)の大学生役や、『海よりもまだ深く』(是枝裕和監督)の後輩役と同じく、ここでも「途上」としての若さを遺憾なく発揮して、彼がそのクラブの中で育ちつつあるバックストーリーを感じさせてくれた。さらに、キャバクラと柳楽優弥の間の暴力事件には、警察が立ち入らないまま、しかしもうひとつの社会が成立しているような、広がりと力学を感じられたのもおもしろい。
暴力が主題のこの映画は、格闘シーンのリアルさにも目を惹かれる。まるで本当に殴ってるかのような殴打シーンが続き、その度に聞こえる「ペチッ」という音。そのしょぼさが、フィクションではない暴力を強く感じさせた。しかし本作でもっとも生々しかったのは、犯罪のスケールがひとつ大きくなったあとに、菅田将暉が落とし所もわからずイライラしていく部分。肥大したエゴと裏腹に、自分で自分が何をしたいのか分かっていない、その虚無が他人事でなく辛かった。
モチベーションが全く理解できない暴力を行使する、兄。犯罪者の肉親として苦しむ、弟。その葛藤をたっぷり見せられる本作が終わったあと、宅間守や加藤智大といった、とりつく島のない暴力を実際に行使した犯罪者たちを思い出し、彼らにそれぞれいた兄弟を(そしてその兄弟がどうなったのかを書いた週刊誌の記事を)思い出して、まったくもってやりきれない気持ちになった。
文=ターHELL穴トミヤ
柳楽優弥×菅田将暉×小松菜奈×村上虹郎
新鋭 真利子哲也が生み出した刺激的で挑発的な衝撃作!
『ディストラクション・ベイビーズ』
5月21日(土)テアトル新宿ほか全国公開
関連リンク
関連記事
ヒップホップとはなんぞや、ブロックパーティーとはなんぞや~! 生身で演じると生々しくなりそうな役をファーで緩衝、これはズートピア方式DA 映画『リリカルスクールの未知との遭遇』公開中!!