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(C) 2014 - LES FILMS D'ICI - PROACTION FILM

WEB SNIPER Cinema Review!!
これは"愛"についての映画である――
亡命先のパリで故郷シリアの置かれた凄惨な実状に苦悩し続けていたオサーマ・モハンメド監督と、シリア内戦の激戦地で暮らすクルド人女性ウィアーム・シマヴ・ベデルカーンが共同作業で作り上げた衝撃的なドキュメンタリー。アラブの春に始まった血みどろの内戦、そして個々の死に刻まれた深い愛とは......。

6月18日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開 全国順次ロードショー
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何年かに一度、「新しいな」という映画が出現する。『クローバーフィールド/HAKAISHA』(マット・リーヴス監督)では、ディザスタームービーに激しく手ぶれするカメラが取り込まれていたのが新しかった。「911のテロ」を経て、襲われてパニックになる当事者の視点をハリウッドは手に入れたのだ。『リヴァイアサン』(ルーシァン・キャステーヌ=テイラー、ヴェレナ・パラヴェル監督)は、GoProで撮られたドキュメンタリーで、無数のミクロな視点が新しかった。画質も悪く、計算されたフレームもない。けれど複眼的に映された映像の連なりから、何かが映っているという感覚が立ち上がってくる映画だった。Facebookのメッセージ受信音から始まるこのシリア内戦についてのドキュメンタリーは、視野が『クローバーフィールド』のように揺れ、ミクロなカメラが『リヴァイアサン』のように散らばっている。そこからどんな新しさが見えるのか? 世界の隅々まで同じ技術が行き渡っている新しさが見える。本作はスマホ動画のブロックノイズ、ヒスノイズ、そして芸術でできている。

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アラブの春はスマートフォンと、Facebookを始めとするSNSの普及で起きた革命だと言われている。それは報道カメラで放送されたが、それ以上にスマホカメラとSNSで拡散されていた。人々がメッセージを送りあったスマホで、そのままデモが虐殺になり、内戦になっていく姿が記録されている。本作の監督は1001人のシリア人の映像を使ったと言う。1001(たくさんという意味だろう)の手に握られていたスマホカメラ。それは虐殺されている人間の手にも握られているし、拷問している兵士の手にも握られている。起きたことは両側から撮影され、アップロードされて、監督はそれを編集して、この映画をつくりあげた。監督はシリアからパリに亡命したオサーマ・モハンメドと、シリアに住むウィアーム・シマヴ・ベデルカーン。

映画の前半は、スマホ動画のコラージュが占めている。ブロックノイズに砕かれた画面の中で、裸の少年が部屋の隅にうずくまり震えている。映画の説明によれば、それは政府軍に拷問されている少年の映像だという。ある動画には、道に広がりデモに出かける人々の姿が映っている。撮影者はそのまま銃撃にあい「実弾だ!」という声が入る。そして洗濯機のなかに放り込まれたような混乱が映り、やがて首に穴の空いた死体が映る。
この映画で人々が叫ぶ言葉はまっすぐに響いてくる、「なぜ自国民を殺すんだ!裏切り者!」と銃撃された者が叫ぶ。「恐れるな!」おそわれたデモ隊が叫ぶ。NHKは20世紀を「映像の世紀」と名付けてみせた。この映画は「当事者の世紀」だ。目を撃ち抜かれた死体、頭が砕けた死体。それを自分が死体になったかもしれない、残りの人間が撮っている。死体になった者のポケットにも、おそらく極小カメラのついた携帯が入っている。その弾を放った兵士も自分のカメラ付き携帯を持っているに違いない。報道カメラマンはいない。その場所で、当事者同士の視点が無数に記録され、それがインターネットで繋がっている。
拷問する人間が撮影する映像も出てくる。怯える人間の顔。HDではない、低解像度の画質。多くの映像は、ローリングシャッター現象で、画面が豆腐のように揺れている。激しい動きにカメラの性能が追いついていないからだ。音がとぎれたり、ヒスノイズが入ったり、これには東北大震災の大津波を捉えた無数の携帯動画を思い出す。見覚えのある歪みかたで、まったく違う世界のショッキングな映像を見せられる。ノイズこそ我々を結びつける刻印だ。

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混乱した映像のコラージュだが、それはまぎれもなく映画だった。怒号や、絶叫、静寂と無音がリズムになり、監督の語りとfacebookの音が外の世界の存在をシリアに知らせる。監督は映画マニアで、詩や音楽が好きで、アップロードされた無数の動画を使いながらヌーベルヴァーグの手法で、自分が離れたシリアに詩を持ち込もうとしている。
シリアにもシネフィルがいる。映画の鑑賞会があり、ある日にアラン・レネの『ヒロシマ・モナムール』がかけられる。次の日に、そこで知り合った参加者が射殺される。監督は黒澤明の『どですかでん』にでてきた青年のセリフを呪文のように唱える。自分の好きなものを思い出すこと。極限状態でもそれは可能なのか、というのがこの映画の問いかけだ。

後半は、パリに亡命中のオサーマ・モハンメドと、シリアに住む女性ウィアーム・シマヴ・ベデルカーンのあいだの、交換ビデオレターになる。ハイファイなビデオカメラで映し出される、戦場での暮らし。スナイパーに狙われないように、仲間の死体を靴紐で引っ掛けて回収する人、街角を引きづられていく死体。足のない猫、顔の焦げた猫、死んだ犬を食べる猫。死んだ子供は天使のように見える。『戦場のピアニスト』のセットのような、辺り一面ががれきになった街を、父親を殺された少年とウィアーム・シマヴ・ベデルカーンが散歩している。何の音もしない。その静寂の奥にスナイパーが隠れていて、彼女は「スナイパーに狙われるから素早く道を渡って」と言う。そんな生活の中で、自分の好きなものを思い出せるだろうか。
歌に驚く。伴奏の弦楽器まで口真似で再現する男の歌が、何度か入ってくる。それがこの映画に力を与えている。ホムス(シリアの街)の外にはどんな景色が広がっているのという歌詞。何も喋りたくなくなってくるような惨劇について、歌ができていたことに驚いた。
この映画、よくぞ日本で公開してくれたと思う。「映像の世紀」を見ると興奮して、それはどこから自分がここに来たのかを見せてくれるからだった。この映画も、今がどこなのかを見せてくれる。そしてその最も奥にあったのは不変のもの、新しく生まれてくる歌や、子供たちの無邪気さだった。

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文=ターHELL穴トミヤ

今夜、私が眠るとき
あの遠い地でいのちが壊され
愛が燃えつくされていく――


『シリア・モナムール』
6月18日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開 全国順次ロードショー

(C) 2014 - LES FILMS D'ICI - PROACTION FILM
原題=『EAU ARGENTEE, SYRIE AUTOPORTRAIT/SILVERED WATER, SYRIA SELF-PORTRAIT』
監督・脚本=オサーマ・モハンメド、 ウィアーム・シマブ・ベデルカーン

配給=テレザとサニー

2014年│シリア・フランス│96分│カラー│アラビア語

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映画『シリア・モナムール』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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