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その踊り(ダンス)は、自由、希望、僕らの全てだった――
1980年代、社会主義政権下の東ドイツで巻き起こった"ブレイクダンス"ブーム。多くの若者が路上で自由に踊るダンスに熱狂する中、政府は西側の文化を厳しく規制する。が、その勢いは止まらない。そこで打ち出された政策はブレイクダンスを"社会主義化"するというもの。フランク率いるダンスチームは、国認定の芸術集団として人気を博していくのだが......。

6月25日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
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ソ連占領下の旧東ドイツ、工業都市デッサウでまもなく20歳を迎えようとしている主人公(ゴードン・ケメラー)は、日々に退屈しているものの同志共産党本部の指導のもと社会主義的成長を必ずや達成し栄光の未来を約束されていた少しボンクラっぽい青年だった、ある日TVから流れてくる奇妙なダンスを見るまでは......。この時点でもう泣いてるから!俺はもう泣いてるから!食卓について親父と2人の晩飯、その時彼はブレイクダンスに出会ったのだ。それはその年、全世界で若者たちを「ヒップホップ」の虜にしていた映画『ビート・ストリート』(スタン・ラサン監督)上映のお知らせだった。
運命を感じた彼は翌日友達(オリバー・コニエツニー)と2人、チケットを握りしめて映画館に向かう。スクリーンでは堕落した西側諸国のゲトーで、黒人たちが踊り明かす俗悪なダンスが繰り広げられていた。観客の若者たちはといえば、そのダンスをさっそく真似るもの、スケッチブックに動きを描き移すもの、テレコを持ち込みガンガン録音するもの、異様な熱気に包まれている。それは明らかに社会主義的成長を求められる金の卵たちが西側諸国の堕落した俗悪芸術に感化されつつある危機的状況であった。注目すべきはこの時点でもう、「踊ってる奴(ブレイクダンンス)」「絵描いてる奴(グラフィティ)」「録音してる奴(DJ、トラックメイカー)」とヒップホップの要素がほぼ出揃っていること。各々の嗜好性をあまりに自然と引き出す、この芸術行為に認められる力強さのなんと恐ろしいことか。

映画にハマった主人公は、さっそく体育の授業でブレイクダンスを踊りだす。それを見ていた、オリンピック出場体操選手でもある憧れのマドンナ(ゾーニャ・ゲハルト)が、真似をしておどけてみせる。階層や社会的文脈を超え、動きだけで2人が分かり合ってしまった瞬間であった。このダンスの持つ伝染力のいかに恐ろしいことか! 彼女を誘って再び映画を観にいった主人公らは若さゆえの思慮のなさ、その帰途に公共の場所であるということは当然警察の許可を得なければならないに決まっているはずの路上で、ブレイクダンスを始めてしまう。するとそこにメガネをかけたチビのオタク(セバスチャン・イェーガー、俺はこいつが登場してきただけでまた涙がこみ上げてきた)がやってくる。「おいおい、お前みたいなオタクが何する気だよ?」そんな顔をする主人公たちを前に、彼は自分の背丈ほどもあるラジカセを取り出すや、ブレイクダンスを始めて見せた。さらにラジカセのカバーを外して部品をいじると、曲のテンポが上がったではないか!メカに強い男......、実はテクノロジーに基づいた音楽であるヒップホップに必要不可欠な、最後のパーツがはまってしまった瞬間であった。クルーが誕生したのだ!
ところが事態はそこで終わらない。楽しく踊っている4人のもとに、見るからにゴロツキ然とした集団が近づいてくる。「女にブレイクダンスなんかできんのか?」映画にハマっていたのは彼らだけではなかった。挑発的な態度、はりつめる空気、始まったのはダンスバトルだった。彼らは「戦うなら、ダンスで戦え」というズールー・ネイションの教えをすでにして会得していた。これこそ東ドイツでヒップホップが生まれた瞬間! だがそこは秩序という名の美徳を保ち、相互監視と統制の行き届いた社会主義国家のこと、通報によりパトカーが現われ無事、全員逮捕ということになる。本作はここまでで10分、旧東ドイツに実在したブレイクダンスチームを基にした青春映画だ。



抑圧国家にも禁じられた文化を密かに楽しむ人々がいた!という映画は他にもいくつかある。たとえば、ナチス政権下に実在した、禁止されたジャズで踊っていた青年たちをモデルとした『スウィング・キッズ』(トーマス・カーター監督)。『チャック・ノリス vs. 共産主義』(イリンカ・カルガレアヌ監督)はチャウシェスク独裁政権下のルーマニアで、人々が密かに催していた地下上映会についてのドキュメンタリー(現在Netflixで公開中)。『ペルシャ猫を誰も知らない』(バフマン・ゴバディ監督)は、宗教警察によって文化が制限されているイランで、バンドを結成する若者たちの映画だ。人々は、収監や死の危険を冒してまで文化を求める。そこには、芸術が人間にとって、求めずにはいられない根源的な存在なのだという証拠があるようで興奮する。
本作は、文化が地下に潜らず、逆に政府公認となっていく展開が珍しい。主人公たちを逮捕した委員会は、流行を押さえつけるより、むしろ社会主義化してコントロールしようとする。主人公たちは政府公認のブレイクダンスチームとなってしまうのだ。ところがお目付役でやってきたのは、まったくヒップホップもブレイクダンスも理解できていないバレエのコーチだった。「君たちのために曲を用意したぞ!」とかいって流れ出すのは「信頼、信頼、チャカポコ......」みたいなクソすぎる曲。全員に同じ動きを強制しようとし、メンバーたちは「一人一人が好きに踊るのがブレイクダンスだ」と反発する。やがて委員会公認のスターとなっていく彼らだが、メンバー間の軋轢も増していき......、と映画は進んでいく。



全体的にゆるい雰囲気の本作、決して最高!とは言わないが、やっぱり「旧東ドイツにブレイクダンスチームがいた」ってだけで涙が出るんだよ!そして、その文化を好きにならなかったら、決して交わることのなかった人間同士の出会い。これだよこれ!青春爆発してるよ!
委員会の前で「東ドイツの誇る芸術、アクションショーダンスです!」と踊らされるシーンには、『SR サイタマノラッパー』(入江悠監督)に通じる、ヒップホップ辺境国ならではの悲哀もある。やがて主人公たちは仲間割れし、クルーの一人が体制側に寝返っていく。彼は「間抜けな裏切り者」として描かれてるんだけど、俺はこいつの悲しさがよく分かる! こいつがフォースの暗黒面に落ちていくきっかけは、女にフラれたから。女にフラれた男は、みんな狂ってしまうんだよ~!! ラモーンズしかり、ジョイ・ディヴィジョンしかり、「バンドが女で崩壊」は、時代や社会制度を超えた、人類普遍の法則なのだと本作を観て納得したのだった。
というわけで、はたして同志共産党本部の指導のもと崇高な社会主義は、腐敗したストリートカルチャーから若者たちの未来を守りきれるのだろうか。っていうか東ドイツなんかもうねーから!ざまーみやがれ!という本作を観て、先日われらが日本でも施行された改正風営法を祝いつつ、文化を国家が管理することに思いを馳せようではありませんか。Let's DANCEだぜ!



文=ターHELL穴トミヤ

厳しい統制の中、ダンスに自由と希望を求めた若者たちの真実の物語。


『ブレイク・ビーターズ』
6月25日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

原題=DessauDancers
監督=ヤン・マルティン・シャルフ
出演=ゴードン・ケメラー、ゾーニャ・ゲルハルト、オリバー・コニエツニー、セバスチャン・イェーガー
配給=アニモプロデュース

2014年│90分│ドイツ│カラー│DCP│5.1ch

関連リンク

映画『ブレイク・ビーターズ』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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