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WEB SNIPER Cinema Review!!
ベルリン国際映画祭2017フォーラム部門招待作品
27歳のマヴィは、パリへ引っ越してきたばかり。気ぜわしい都会生活に馴染めずにいたある日、従業員募集の貼り紙を頼りに小さな古書店を訪ねる。そこで出会ったのは、謎めいた店主ジョルジュ。祖父と孫ほどの年齢差にもかかわらず、ふたりは徐々に惹かれあう。だがジョルジュには古書店店主とは別の、闇に包まれた過去があった......。

10月14日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
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なんとも不思議な感触、だって、まず編集が変わってる。主人公(イザベル=ユペールの娘であるロリータ・シャマ)が、カフェで見かけたバイト募集の張り紙を元に、書店へと訪ねていく。雑然と書物の積まれた古書店、彼女は気難しそうな店主に声をかけるのをためらって、そのまま外に出てしまう。次のカットでまた彼女が店のドアをくぐると、そのおっさんに「ちょうどいい!」とか言われて、レジの鍵を投げるように渡される。スクリーンに映っていない間に、彼女は雇われていたのだ。
70代の店主(『昼顔』『熊座の淡き星影』のジャン・ソレル)は偏屈で、入ってきた客をいきなり追い出したりしている。全然儲からなそうな店をやっている割に、やたら金を持っていて、「引越し資金だ」といって主人公に分厚い封筒をあげたりする。ある時、二人は店を閉じて突然でかける。高級そうな車でパリを走りながら、主人公は詩を夢想する。そしてそぞろ歩いて、そして夜になって、運転するおっさんの横顔がスクリーンに映って、へーそれだけと思っていたけど、もちろんそれだけじゃない!!!ヤッてるワケです!!!!!いやヤっていないのかも?????だってヤッてるシーン映ってないし、でもヤッてるワケです!!!!いやヤッてるでしょうこれは!!!いやヤっていないのかも!?!!?!?うわーっ、もう分からないよー!!!それははっきりと断言できない、それはカットとカットの間に起きていることだから、そう!これぞフランス映画名物、「撮ってないけど、男と女......、あとは当然わかるよね?」展開なのだ(過去レビュー参照:万人の万人に対する恋愛状態にあるフランスで生き残るには、私の相手どう思う?と周囲の人間に聞きまくるのがいいっぽい 映画『ジェラシー』)。
この編集を前にして、私は知り合いの男女がいつのまにかエッチんこ関係になっていて、しかも自分だけがそれについて知らなかった経験を思い出す。情事というものはカメラのない場所で、カットとカットの間で起きている!!!!!そしてそれに気づく人間と気づかない人間がいる!!!!!!!!!!『静かなふたり』は 観客の目の届かないところでは『アンアン言ってるふたり』とこういうワケなのさ(いや言っていないかもしれない)!!!!!!

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一方で、この映画にはヴィルジニー・ルドワイヤン(『ザ・ビーチ』『8人の女たち』)演じる、分かりやすく、うるさいまでにセックスしまくってる女性も出てくる。彼女は内向的で物静かなロリータ・シャマ演じる主人公の同居人なんだけど、そのセックス時の声がすごい。うほっ!うほっ!うほーっ!みたいな、そこまで隠す気ゼロなのかよという、こうなると本作エリーズ・ジラール監督(『ベルヴィル・トーキョー』)による、他人が分かりやすくセックスしまくってるのと、静かなふたりのままセックスしてるの、さあどっちがいいワケ?という問いかけが聞こえてくるようで、下を向きたくなってくる。他人のセックスになんて、やっぱり気づかなくていいんじゃないか、この歳の差3倍カップルがヤってようがなかろうが、そんなの描く必要なんてない。そこにあったかもしれない、愛を描くほうが重要だよね、とか無難なこといって、お茶を濁したくなってくる。
だからそうやってお茶を濁すことにして、これは置いておこう。それにしても最近の若者はなっとらん!社会もクソ!みたいなことばっか言ってて、けど金持ってて、雇い人と愛人関係の高齢者っていうジャン・ソレルの役柄、あらためて文字におこしてみると無性にムカついてくる。本作のジャン・ソレルは終始、不機嫌で、まあそこには彼のミステリーと重なる理由があるのだが、それが不機嫌なまま、でも若い女性としっぽりとなると、もしその設定を生み出したのが、つまり本作の監督が高齢男性ならば、不機嫌は甘えって聞いたことありますか?けど自分には魅力があるから好きになってもらえるはずなんですか?そういう自己愛を世間に流布したいワケですか?もしもし市役所ですか、今すぐ『ソイレント・グリーン』(リチャード・フライシャー監督)のホームに送って欲しい人がいるんですが!!!?みたいな気持ちになってしまう。ところが本作は女性監督だから、まあ、女性がアリっていうなら......みたいな感じになる。でも、それ以上に、不機嫌なくせに、若い女性としっぽりなジャン・ソレルへの怒りが湧き上がってこなかったのは、それは、本作のロリータ・シャマがあんまセクシーじゃないから(なので別にヤってようがヤってなかろうがどっちでもイイから)、ということを言わずに済ませてしまうのは誠実でないかもしれない。例えば、ロリータ・シャマじゃなくて、スカーレット・ヨハンソンとかだったら超ムカついてたと思う(好みの問題)。いやそんなことではなくて、これはやはり、誰が演じようと本作の主人公の描かれかた、その性格に由来しているのであって、本作のロリータ・シャマはオフビートな『アメリ』(ジャン=ピエール・ジュネ監督)というか、欲望したり、欲望されてることに気づいたり、という感じではなく、終始モソモソしていた気がする。「世界って、こうなってんのかしら」みたいな顔して観察していて、それを手帳に書きつけたりしている。だから本を読んでいるカフェとか、古本屋で店番をしている時の黄色い卓上ランプとか、日記を邪魔する猫とか、そういう一人でいる時間が印象に残っている......。中でも、窓に向かって息を吐きかけながら、心象風景を語るシーンなどは気持ちがいい。逆にジャン・ソレルが男性としてセクシーに撮られていたかというと、いつも、お金たくさんくれるのはよかったかなみたいな......。むしろ彼よりお金自体、紙袋から覗く紙幣の色や形が不揃いで、その「金額も把握せずにひとつかみ」な束に、とても色気があったように思う。

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さて、ここで再び先ほどお茶を濁した話題に戻る時がやってきた。「ヤってるのか、ヤってないのか、それが問題だ!」みたいになってしまうはなぜなのか(これをハメレット症候群と名付けよう)。そして、ヤッてたらキーッ許せない! or お前なら許すッ!みたいになり、ヤッてなかったらホッとする。そこには「好みの女性であるならば誰であれ、本当はその全員と自分がヤりたいところだけれども」という前提があるのを、もはやこれ以上隠し通すわけにはいかない。もちろんそれは実現不可能な、地に足のついていない、果てなき欲望であり、性の餓鬼道といってもいいものだ。しかし頭で分かっていても、それでも、他人の情事への嫉妬、詮索がやめられない、それがハメレット症候群である。それはしかし私が嫉妬しているのではない。私の睾丸が嫉妬しているのだ。睾丸は、自らの精子を少しでも多様なDNAと混合させよ!とわめく。大事なのは、他人の情事に気づけるかどうかではなく、他人の情事から自由になること。頭がそう語りかけても、睾丸は叫ぶのをやめない。本作のジャン・ソレルは確かにその点において、最後に信用のできる男として描かれていた。男が愛に目覚めた時、ついに睾丸はわめくのをやめるのか?愛とは......静かなふぐり、本作は迷いの中にある男たちにそう語りかけている。

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文=ターHELL穴トミヤ

パリの古書店を舞台に繰り広げられる知的でロマンティックなラブストーリー


『静かなふたり』
10月14日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

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原題=『Droles d'oiseaux』
監督=エリーズ・ジラール
脚本=エリーズ・ジラール、アンヌ=ルイーセ・トリビディク
出演=ロリータ・シャマ、ジャン・ソレル、ビルジニー・ルドワイヤン、パスカル・セルボ
配給=コピアポア・フィルム

2017年│フランス│カラー│73分|日本語字幕:寺尾次郎

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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