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WEB SNIPER Cinema Review!!
切通理作第一回監督作品
青井深琴と野島喬は同じ高校の卒業生だが、年が4歳違うため、一緒に居た時期はない。いまは20代の会社員となった彼らはひょんなことから出会って意気投合、男女の仲も意識して一晩を過ごすことになるが......。批評・エッセイ・ノンフィクションの書き手として活動してきた切通理作の初監督作品。

12月2日~新宿ケーズシネマほか順次全国公開
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中高生の頃からセックスしてたような奴らは信用できない!!
閉経間近のアラフィフ女が今さら告白するようなことでもないけれど、ずっとどこかにそういう気持ちがある。
だって、そうでしょう。中高生っていったら、体は大人でも数年前までランドセルしょってゴム飛びとかしてた子供ですよ? 親に小遣い貰って、パンツ洗ってもらって、ご飯も作ってもらって、そのくせ「お母さんのお弁当って茶色くて超ハズイ」とか「お父さんのブリーフとあたしのと一緒に洗わないでよ!」なんてエラそうな文句言ったりしてる人たちですよ? そんな恥ずかしい自分を棚に上げて、ベロキスとか中出しとかセフレとアヘアヘ立ちバックとか、大人のおいしいところだけとってるなんて、ずるすぎる!
もちろん半分以上(いや多分9割くらいは)「私だってそういうキラキラした学生性活を送りたかった......」というヒガミなわけだが、それでもやっぱり知り合いが飲みの席で中高生時代の楽しい異性交遊の話なんかしてるのを聞くと胸がざわつくのを抑えられない。ついつい「ああ、キミもそっち側の人だったのか......」なんて見えない壁を作ってしまう。食べ物とセックスの恨みは恐ろしいのだ。

だから本作を観てまず思ったのは「この映画は信用できる!」ということだった。
監督は『映画批評』や『キネマ旬報』で長年映画批評を書き続けてきた評論家の切通理作氏。青春映画を観ると無意識に学生時代の自分に戻ってしまうというセンシティブな彼が「現実に果たせなかった青春を取り返したい」という思いで初メガホンをとったのがこの作品だ。もう信用するしかないじゃないか。

(C)シネ☆まみれ

主人公は須森隆文と深琴演じる2人の男女。どちらも学内カーストでいえば下のほうの地味な高校生活を送ってきて、就職した今も相変わらずパッとしない。男は不器用で、道端で青春を謳歌している高校生たちに出くわすとつい目を伏せてしまう卑屈さがある。女は不倫体質で妻子持ちの上司に心惹かれているが、同僚たちはそれを陰で笑っている。どのクラスにもどの職場にも一人はいるような人たちだ。
そんな似たもの同士の男女が、会社帰りに偶然出会ったことから物語は始まる。
飲みに入ったバーで同じ高校の卒業生だと知った2人は、運命を感じ一夜を共にすることに。しかし男が女を誘ったのは、ホテルや自分の部屋ではなく自分たちが昔通っていた高校だった。
深夜の教室に忍び込み、並べた勉強机の上で学園物のAVみたいにセックスし始める2人。やがて男はロッカーの中から女子生徒のセーラー服を見つけ、女にそれを着てくれるように頼みこむ。それだけでなく、フィニッシュ時には机の上に自分の精子をかけることにこだわったりもする。男のニッチな性欲求に「青春のやり直し願望」があることに気づいた女は、「実は自分も学生時代は目立たず、いじめられがちだった」と告白。2人は自分たちが経験できなかったキラキラした青春に復讐しようと、教室中に落書きをし、校内で盗んだ制服や体操服でのコスプレセックスに耽っていくのだ。

地味で目立たない男女が、ひょんなことから似た境遇のパートナーに出会って、青春のやり直し(という名のオールナイトコスプレセックス祭り)をする。ヤリヤリの輝かしい中高生時代を送れなかった我々のような人間なら、たぶん一度は思い描いたことのある妄想だと思う。
同じ傷を持った共犯者と過ごす、エロエロでぐっちょんぐっちょんな一夜。気恥ずかしくなるようなロマンチックなセリフを吐いて、AVでしか見たことのないようなあんなことやこんなことを山ほどして、最後には気心知れた者同士の純愛なんかも芽生えちゃったりして......ぐふぐふ。

でも、そんなご都合主義の甘い夢を期待していると、すぐに裏切られる。本作に出てくる「青春やり直し劇」はそう簡単にはいかないからだ。
なぜなら、まず主人公を演じる2人(須森隆文・深琴)の"学内カースト低そう感"がやたらリアル。。
背が異様に高くて猫背でちょっとおでこが後退し始めている須森隆文と、美人でもナイスバディでもないけどなんかエロい深琴。この2人のインディーズスター感は圧倒的で(褒めてます)、どんなに楽しそうにはしゃいでいても、見ているほうは時折「ああ、青春やり直したいとか思ってる人ってこういう感じだよな」と我に返らされる。星野源とか門脇麦とかに冴えない男女を演じさせるのとはワケが違う。人生そんなに甘くないのだ。
さらにどっちも地味で冴えない人間であるものの、女のほうは年上男性と不倫経験アリなせいか若干エロ経験値が高く、内気でコミュニケーション下手な男に向かってバンバン物を言ったりする。
例えば、先にも触れた2人が夜の教室で最初にセックスするシーン。
女は男の言う通りセーラー服に着替え、やらしい目つきで男の股間をしゃぶった挙句なんとゴックンの大サービスまでしてやるのだが(さすが不倫体質!)、男は精子を机にぶちまけることにこだわり「ダ、ダメだよ、飲み込んじゃ!」とアワアワしてしまう。
それを聞いて「わかった、またイメージ違うとか言うんでしょ。何なの? 言えよ!」といきなり凄む女の怖さときたら! さっきまで目がハートになってた従順な女の子とは別人だ(ここだけの話、筆者はプレイの途中で中出しされた風俗嬢を思い浮かべてしまった)。
そのほかにもチアガール姿で「イエーイ!」なんて踊ってた次の瞬間に「キラキラした青春なんて汚してやるッ!」と叫びだしたり、調子づいた男が「いいぞブス!」と口をすべらせると「あんただって人のこと言えんの!?」と即座に叩きのめしたり、なにかとエキセントリックな言動で青春のほろ苦さを突き付けてくる。でもその忖度なんてしてやるもんかというむきだしの生々しさがいい。
あんなに大声でやりあったのに、次の瞬間には何事もなかったかのようにハメまくってる単純さもいい。恋したことがある人なら誰でも身に覚えがあるだろう、愛すべき身もふたもなさ。

(C)シネ☆まみれ

一筋縄ではいかない2人の「青春やり直し劇」には、常に恥ずかしさが付きまとう。
せっかくのお楽しみのチャンスなのに、些細なことに目をつぶれず激高してしまう恥ずかしさ。自分のこだわりを相手に押し付けてしまう恥ずかしさ。たかがセックスにテンションあがりまくっちゃう恥ずかしさ。あんなにキレてたのに次の瞬間には何事もなかったのようにハメまくってる恥ずかしさ。いや、それを言うなら、いい年してコスプレとかしちゃうことがそもそも恥ずかしい。
でも多分、その恥ずかしさこそが2人がやり直したがっていた青春そのものなのだ。
キラキラ輝いてるだけの高校時代なんて本当はどこにもない。みんなインスタでイイネをもらうために、かっこ悪いところをトリミングしてなかったことにしてるだけなのかもしれない。
やがて夜が明け、2人は各々の生活に戻っていく。いろんなことがあったけど、男の脳裏に浮かぶのは、風俗嬢みたいに凄む彼女でも「青春なんて!」とキレる彼女でもない。愛らしく微笑みかけてくる女神のような彼女だ。

実は本作にはもう一つのストーリーもあって、2人が青春のやり直しをしている一方で、夜の校舎ではもう一組の男女が青春のやり直しをしてたりもする。こちらは恋人に婚約解消された冴えない女教師と彼女に恋する用務員だ。主人公たちとは対照的にプラトニックなカップルだが、こちらもいい感じに恥かしくてグッときてしまう。

とまあそんな感じで、ズコバコで胸キュンな学生時代を送れなかった我々非リア充組にはぐいぐいくる本作だが、気になる部分もあった。今どきの官能映画にしてはカラミシーンが妙に泥臭いのだ。ロマンポルノ好きな監督のこだわりでもあるのだろう、ヌプヌプッとかピチャピチャッとかいう効果音がやたら大きいし、女が履いてるパンツもFAプロでしか見られないような安っぽい木綿の柄物。AVでエロ眼の目の肥えた若者には違和感を感じる人もいると思う。
でも実を言うとアラフィフの筆者にとっては、そんな30年くらい前の自主製作映画みたいな泥臭さも心地よかった。
高校時代の切通監督は、池袋の文芸坐ル・ピリエあたりでロマンポルノや自主製作映画を貪るように観、画面の中の女の子をオカズにオナるような高校生だったんじゃないだろうか(もちろん童貞)。きっとそうに違いない。

文=遠藤遊佐

夜の学校を現代の<竜宮城>に見立てて、「映画でしか取り返せない時間」が描かれる。


『青春夜話 Amazing Place』
12月2日~新宿ケーズシネマほか順次全国公開

(C)シネ☆まみれ

監督・脚本=切通理作
出演=深琴、須森隆文、飯島大介、安部智凛、松井理子、他
配給=シネ☆マみれ

2017年│日本│74分│HD

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映画『青春夜話 Amazing Place』公式サイト

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遠藤遊佐(C)花津ハナヨ
(C)花津ハナヨ
遠藤遊佐 AVとオナニーをこよなく愛するアラフォー女子。一昨年までは職業欄に「ニート」と記入しておりましたが、政府が定めた規定値(16歳から34歳までの無職者)から外れてしまったため、しぶしぶフリーターとなる。AV好きが昂じて最近はAV誌でレビューなどもさせていただいております。好きなものはビールと甘いものと脂身。性感帯はデカ乳首。将来の夢は長生き。
遠藤遊佐ブログ=「エヴィサン。」
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17.11.15更新 | レビュー  >  映画
文=遠藤遊佐 |