WEB SNIPER Cinema Review!!
世界一の男踊(ダンサー)たちがすべての女性に愛を誓う!
テキサス州ダラスにある世界一の人気を誇るクラブ「ラ・ベア」では、今宵もイケメンマッチョダンサーたちが女性客を魅了して――。様々な経歴を持つ現役ダンサーたちの人生、愛、笑い、そして苦悩。男性ストリッパーの未知の領域を映し出す話題作!ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて公開中
1月20日よりディノスシネマズ札幌劇場、名古屋センチュリーシネマにて公開!
テキサスで70年代から続く男性ストリップ劇場、『ラ・ベア』のドキュメンタリー。監督は『マジック・マイク』に"ビッグ・ディック"・リッチー役で出演していた、ジョー・マンガニエロだ。男たちの筋肉!腰グラインド!ブーメランパンツを堪能しろっ!チンポ、マジででかいよ!といった、マッチョづくしの91分となっている。
映画はストリップ劇場の日常を追いつつ、各ダンサーにインタビューといった形で進む。元軍人としてアフガニスタンに出征してきたヤツ。『マジック・マイク』を見て憧れてきたヤツ。大抵「今の生活には満足してる、最高だよ!」みたいなことを言うんだけど、カメラがちょっと長く回っていて、言い終わった後に急に悲しい目になる瞬間を監督は見逃さないっ!と思ったら、そこを深く追うわけでもないのかよみたいな。原一男を見習えよ原一男を!知らぬ存ぜぬは許しません、ジョー・マンガニエロ監督は『ゆきゆきて神軍』観てないのかよ!
例えば中学の途中から自宅学習になり、教会の外では他人と会ったこともなく、もちろん男女も完全別に育てられたという男が出てくる。明らかに何らかの原理主義育ち......、そんな彼がなぜ今では男性ストリッパーになっているのか。気になる~っ!ストーリー感じる~っ!と思ったら、理由は語られないのかよみたいな。原一男を見習えよ原一男を!彼のいた共同体も自然分娩とかしていたのかもしれない、『極私的エロス 恋歌1974』ばりに衝撃のシーン狙っていこうよ! けれど本作でも、さすが当事者でしか分からない体験が語られていて、自宅学習で育った彼は確かに常識も知識も人並みに持ちあわせている。ところが家庭に一切音楽がなかったため、ラ・ベアに来て初めて自分が手拍子をできないことに気づいたという。舞台の袖から、耳ではなく目でリズムを学んだという話に、『喜劇 特出しヒモ天国』(森崎東監督)で耳の聞こえない夫婦がダンサーになるべく奮闘するエピソードを思い出した。当たり前に踊っているように見えるダンサーでも、その奥には想像できないようなストーリーがある。それをみせてくれるのは、イイ映画にちがいない。
ラ・ベアの最年長現役ダンサーは、スキンヘッドのランディ。彼は「33年間ずっとセクシーの塊!」みたいなキャッチコピーを、事あるごとに言っている。それは彼の商標でもあるし、同時に自己啓発にもみえる。彼は「あの日、チップを何百何十何ドル稼いだ」とか、自分にまつわる数字を一の位まできっちり覚えていて、その細かさには少し寂しさも感じる。だってあの車のエンジンは何ccとか、このキャラの戦闘力はいくつとか、数字で価値を推し量りたがるのって少年ぽいじゃないですか!でもその純朴さと、見た目の筋肉のギャップがいい。母親はじめ家族全員に支えられ、ボトックス注射をし、急速冷凍タンクに全身をさらし、若さを保ちつづける。本作で最もアメリカの生真面目さを体現しているのは、彼に違いない。だからこそ、その虚構の鎧の奥にキャメラを潜り込ませないと!原一男だよ原一男!『全身小説家』やっていきましょうよ!!
映画にはお客である女性たちも出てくる。目が全く笑ってない、全員が代わる代わるその場にいない人間の悪口を言い合っていそうな4人組。はたまた目当てのダンサーに1人で会いに来ては「ほんとに友達って感じがするの!ハグするたびにお金は払わないといけないんだけど」と笑う女性。誕生日会に男性ストリッパーを呼んだギャルたちは、キャーキャーとカウボーイ・プレイを楽しんでいる。よく女性というのは雰囲気を大事にしていて、ロマンチックじゃないといけない......などというが、あれは都市伝説だと思っていた。ところがラ・ベアのプロも「女性客を満足させるには、ダンスだけではダメでとにかくストーリーが重要なんだ」と口を揃えている。ストーリー......、雰囲気......、伝説は本当だったのか!?とすれば、「いつの間にかエロいことになる」にはどんなストーリーがいいのか(例:カウボーイが手伝いを頼んで来て......)、その具体的なヒントが、本作にはたくさん隠されている。この点についてはジョー・マンガニエロ監督に感謝してもしきれないし、やっぱりドキュメンタリーは原一男だけじゃないんだと目を見開かされる思いをした。
ストリップ・クラブにも歴史があり、ラ・ベアは一世を風靡したあと、80年代に時代遅れの場所になった。オーナーはそれを盛り返すべく、ストリッパーたちに「その日暮らしのアホ男ではなく、ビジネスマンという自覚を持て」と意識改革を促す。そのために作られたマニュアルが「How to make money」という題名なのには笑ってしまった。下に札束の絵も添えてあり、本作で最もアメリカを感じた瞬間だ。出てくる男たちは日々筋トレに励み、女性に対しても分け隔てなくジェントルに接する。そんなプロたちが作り出す風景は、男から見ても気持ちがいい。
とはいえショーン・ウィリアム・スコットみたいな見た目で、言ってることもショーン・ウィリアム・スコットまんまみたいなヤリチン男も登場してくる。彼曰く、ヤリチンも度がすぎると「ヤってもヤらなくてもいい」の境地に達するらしく、同じことが日本のヤリチン自叙伝『ダメになってもだいじょうぶ: 600人とSEXして4回結婚して破産してわかること』(著・叶井俊太郎、倉田真由美)にも書いてあった。ヤリチン男が達する境地は国を超えて同じなのだと感動しつつ、近代化されたラ・ベアにもアホが生き残っていたことにホッとする。とはいえ、このヤリチン男のナンパシーンも見せてくれないと、セックスシーンとか!原一男だよ原一男(原一男にそんな作品はない)!と怒っているうちに映画は、登場する誰もが口を揃えて褒め称える、伝説の男性ストリッパーへとフォーカスしていく。
キャラの立った人間たちの、ストーリーがありそうな、その入り口をさらさら~っと描く本作。原一男もいいが、こういう映画を女子と一緒に観に行くのも、すっごく幸せだよね!本作を観てみんなも「セクシーの塊」になっちゃおう!
文=ターHELL穴トミヤ
俳優、ジョー・マンガニエロが初監督。
ダラスの男性ストリップ店ラ・ベアの神秘のヴェールを暴く!
『ラ・ベア マッチョに恋して』
ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて公開中
1月20日よりディノスシネマズ札幌劇場、名古屋センチュリーシネマにて公開!
関連リンク
映画『ラ・ベア マッチョに恋して』公式サイト
関連記事
徹頭徹尾アホなニコラス・ケイジだが、ボンクラの魔法にかかっている人間が、正気を見せる瞬間のきらめきにグッとくる 映画『オレの獲物はビンラディン』公開!!