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アメリカを愛するあまりたった独りでパキスタンに潜入!
キテレツオヤジの「仰天の実話」
コロラド州の片田舎。アメリカをこよなく愛する中年男のゲイリーは、米同時多発テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンの居場所を政府がいつまでも見つけられないことに業を煮やしていた。ある時、日課である人工透析の最中に彼は「パキスタンに行って、ビンラディンを捕まえろ!」と神から啓示を受ける。使命感に燃えたゲイリーの運命は!?キテレツオヤジの「仰天の実話」
12月16日(土)よりシネマート新宿他にて全国順次公開
『オレの獲物はビンラディン』良い邦題だ。一見しただけで「アホなのかな......」と期待感が高まってくる。ニコラス・ケイジ演じる本作の主人公は愛国者で、星条旗グッズが大好きで、常にアッパーなうえ誰彼構わず話しかけまくり、しかもめちゃめちゃ早口、その内容はポリティカルコネクトレス完全アウト飛距離K点超えで、すぐナイフを取り出す癖があり、挙げ句の果てに神の声まで聞き始めてしまう。そんなヤツだけど、友達が2人いて、高校時代の女友達も彼のことまんざらでもないし、イスラム世界に行ったらけっこう仲良くやっている。愛される迷惑俳優が、実在した愛される迷惑野郎を熱演!という本作は、邦題の期待感を裏切らない、アホラス・ケイジ(アホなニコラス・ケイジ)びんびんなコメディ映画となっている。
主人公、ゲイリー・フォークナーは透析を受けながら、パートタイムの建設作業員として働いている中年の男。建築現場や友達の家に寝泊まりし、ホームセンターに行っては、「便利屋」のチラシを配りつつ、陳列されている商品に人種差別を絡めた暴言を吐いていく。なんで宣伝のついでに暴言を吐くのか分からないが、そんなことを気にするゲイリーではない! ある日、ついに深夜にもかかわらず絶叫していたのをきっかけに、居候していた家を追い出されてしまった。するとどうしたことだろう!!!彼の目の前に神が現われたではないか。「お前がビンラディンを捕まえてアメリカを救うのだ......」、ロン毛にVネックのラッセル・ブランドが演じる神様は、セックス教団のヤリチン教祖にしか見えないが、ゲイリー・フォークナーは早速行動を開始する。
監督は『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』や、『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』など、不謹慎政治コメディを撮ってきたラリー・チャールズ。しかし本作のテーマは政治でもアメリカでもなく、あくまでゲイリー・フォークナーという男の人生、そこがいい。ニコラス・ケイジの七変化する顔芸の素晴らしさ。ゴキゲンだったり興奮している顔もいいが、神・ラッセル・ブランドに責められる時の泣き顔、恐怖顔を見るたびに「いやあ!映画って本当にいいもんですね」の念が湧きあがる。本作のケイジは『ヴァンパイア・キッス』や『バッド・ルーテナント』などでおなじみの、白目を剥いて振り切れるタイプのハイテンションではなく、適応障害やADHDを思わせる、今風のハイテンションへとキャラを刷新している。ついでに劇中でしょっちゅうマリファナを吸っていて、その時だけは心なしか落ち着いているので、あれが噂の医療用というやつに違いない(多分違う)。
ビンラディンを捕まえるには、まずパキスタンに行かなければいけない。そこでゲイリーはボートを購入する。そして遭難。その後も見当違いの奮闘を続けつつ、お金が続くのがすごいよね(居住費タダというのがでかいらしい)。やがて普通に行こう!と思い立ち、航空券を買ってパキスタンに到達! ベルトのバックルは星条旗、腰には日本刀(TVショッピングで購入)のアメリカン・サムライが、ビンラディンを捕まえに来たよ!とイスラマバードを歩いているらしい......、そんな報告がガチ・ビンラディン捕まえたいボーイズこと、現地のCIA諜報員に入る展開もアツい。「パキスタンにデニーズはあるのか!?俺はアメリカを愛してる!アメリカ最高!ビンラディンはどこだ!」とゴキゲンで街を散策するケイジ。やがてパキスタン名物のハシシに出会ってしまい、一服した後はパキスタンも最高~!とばかりに、当初の目的はどこへやら、映画は「ケイジのマリファナ散歩」へと突入する。興味の赴くまま、市場を軽やかなステップで歩きまわり、ついにはゲームセンターへと吸い込まれていくその、手と腰の動きに注目してほしい。私はコントでハイテンションに登場するときの竹中直人を思い出したが、これぞ人類共通の「見た瞬間にアホが来たと周囲に理解してもらえる動き」に他ならないのだ。みなさんも会議に遅刻して登場するときなど、この動きを真似すると場の雰囲気が和んでいいだろう。
映画はビンラディン捕獲作戦と並行して、高校生の頃ゲイリーの憧れだった同級生(『恋愛だけじゃダメかしら?』『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』のウェンディ・マクレンドン=コーヴィ)との淡い恋模様も描いていく。彼女はシングルマザーになっていて、娘と二人暮らし。捕獲作戦に失敗するたび、ゲイリーはお土産と、お土産話を持って彼女らの家を訪ねる。二人の仲が進むうち、スクリーンのゲイリーに向かって、FF外から失礼しますもうビンランディン捕まえなくていいから!目の前の幸せに気づけよ!とクソリプを送りたくてたまらなくなってくるのだが、ゲイリー本人だってそんなの分かってる!ところが、神・ラッセル・ブランドがそれを許さないのだ。
友達の家から追い出されて以来、主人公が人生の岐路にたつたびに現われる幻覚の神、こいつは一体なんなのか?それこそは、ゲイリー・フォークナーの心の奥底に潜む「あるがままの自分を受け入れることへの恐怖」に違いない(私はボンクラの心理に詳しいから分かるんです!)。誰だって、自分の人生は特別だって思いたい、自分は価値ある人間だと思いたい。そんな「俺はこんなもんじゃない!」願望が、神によるビンラディン捕獲命令となってゲイリー・フォークナーを縛っているのだ。
この映画で最も感動的だったのは、自らの社会性のなさを一片たりとも疑っていないかに見えるゲイリー自身が、その仮面を脱ぎ、実は自分の問題に薄々気がついていることを明かすシーン。そこには、ボンクラの魔法にかかっている人間が、正気を見せる瞬間のきらめきがある。『リービング・ラスベガス』でも、『マッチスティック・メン』でも、ニコラス・ケイジは迷惑野郎が突然見せる弱みを演じるのがうまかった。ゲイリー・フォークナーは、人生の闘いに勝利することができるのか? その苦闘に心を寄せる者は誰であれ、本作のアホラス・ケイジという祝福を受けとることができるだろう。私もおかげで笑いながら魂が浄化され、ターヘブンホーリーロッキー山トミヤへと生まれ変わることができました。ではあなたにも良きクリスマスが訪れますように!アーメン。
文=ターヘブンホーリーロッキー山トミヤ
入国手段はヨット、武器は日本刀!?
ビンラディン捕獲を目指したキテレツオヤジの独りぼっちの大追跡
『オレの獲物はビンラディン』
12月16日(土)よりシネマート新宿他にて全国順次公開
関連リンク
映画『オレの獲物はビンラディン』公式サイト
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