WEB SNIPER Cinema Review!!
プロゲーマーの熱き戦いとその裏舞台を描いた初の長編ドキュメンタリー映画
ラスベガスで毎年開かれる最も権威ある格闘ゲーム大会「EVO」で、二連覇を果たした梅原大吾。ビースト(野獣)とあだ名され、プロゲーマーとして世界中のファンから絶大な人気を誇る。その大吾に強いライバル心を燃やす若きプレイヤー、ももち。彼は恋人でプロゲーマーのチョコブランカとともに格闘ゲーム界の頂点を目指す――。プロゲーマーたちの光と影に密着したニューエイジ・ドキュメンタリー! シアター・イメージフォーラムにて絶賛公開中!
3/31(土)より名古屋シネマテーク、4/7(土)より大阪・第七藝術劇場、4/14(土)より仙台・チネ・ラヴィータ、5/18(金)より山口情報芸術センターにて公開
ほか全国順次公開
ゲームをやりまくっているうちに、プロになる。ゲームをするだけで飯が食えるようになり、24時間365日ゲーム三昧!やべー!すげー!そんな「コロコロコミック」みたいな世界観の映画かと思いきや結婚について考えさせられてしまうのである。
本作は、プロゲーマーについてのドキュメンタリー。出てくる選手の国籍は、アメリカ、フランス、台湾、それに日本。彼らがプレイするのはカプコンの格闘ゲーム「ストリート・ファイター」シリーズで、スポンサーロゴの入ったTシャツを着用し、世界中の大会を飛び回って暮らしている。その会場に詰めかけた人々の多さに驚き、各々の選手に飛ぶ声援の大きさに驚く。日本・台湾合同で制作され、wowowで放送された番組が、今回劇場でも公開されることになった。
映画が主に追っていくのは、男性日本人プレイヤー「ももち」だ。彼は女性日本人プレイヤーである「チョコブランカ」と一緒に住んでおり、練習に励んでいる。最小単位1/60秒のコマンドを正確に入力できるようにするため、ひたすら同じ動作を繰り返すももち。ストイックな彼はチョコに教える際に泣かせたりして、絶対職場でこういう人の後輩になりたくないなと思う。努力のかいあり、ももちはついに権威ある大会で優勝する。実力を証明した彼はプロゲーマーとしてのさらなる高みを目指そうとするのだが、どうにも存在感が足りないと悩んでいる。
その前に立ちはだかっているのが、伝説のプロゲーマー「梅原大吾」だ。彼は「勝てばいいってもんじゃない」という。記録ではない、記憶に残る試合こそがスターの条件なのだ。
しかし、全く門外漢の私としては、薄暗いマンションの一室で梅原が格闘ゲームをプレイしている姿を観ていると、なんだか不安になってくる。おっさんが、ひたすらゲームを......、大丈夫なのか......、一歩間違えば犯罪者っていうか......。このゲームに対するネガティブなイメージが、国籍を超えて本作に登場するほぼ全員に共有されているのもおもしろい。梅原は「苦しかったですよ」と語る。行ってはいけないと思いながら、ゲームセンターに通うのがやめられない。それでも「何かをするなら一番になれ」という父の言いつけを守り、格闘ゲームで日本一になり、やがて世界一になった。
映画では梅原が伝説となった一戦が流れる。当時すでに北米で有名だった「ジャスティ・ウォン」が放った14連続コンボ攻撃を、瀕死状態の梅原が次々とコマンドを入れて、防御していく。そしてカウンターからの逆転勝利。会場は興奮の坩堝と化し、梅原の名は世界中のゲームファンの記憶に刻まれたのだのだ。彼はその後も勝利を続け、自身をモデルとしたアニメや漫画が作られ、本を出し、最も長く賞金を稼ぎ続けているプロゲーマーとしてギネスブックに載り、今でも現役として戦っている。ももちの視点で映画を追って行くうち、梅原の巨大さが、全くの素人である私にもしみじみと伝わってくる。
梅原伝説の引き立て役となったジャスティン・ウォンはというと、「クールな負け方だった」と、ポジティブな振り返りがアメリカ人らしい。中華系移民だった彼の家庭は決して裕福ではなく、やはりゲームセンターに通うのが後ろめたかったという。やがて稼げるようになった賞金で、毎週お小遣いをくれていたおばあちゃんに、贈り物を買ったというエピソードが泣かせる。
台湾の「ゲーマービー」のゲーム人生はもっと凄まじい。幼い頃に両親が離婚し、賭博師である父親の元に一人残される。そしてゲームセンターこそが、彼の家庭となった。父の死に絡むエピソーもすごいが、やがて成人し、ホテルマンなど様々な職業を転々としながらも彼は同僚に内緒でゲームを続けた。そして、ついにプロゲーマーになったのだ。陽光差し込む素敵な家で、彼が紹介する婚約者のかわいさに、思わず「YOU WIN」と呟かずにいられない。
そうやって出場選手たちの人生や性格を把握していくうち、いつしか大会に興奮している自分がいる。勝利を掴むのは誰なのか?報われるのは誰なのか?と同時に、この映画が追っていたのはそこで得た名声、賞金を持って、どこに帰るのかという問いかけだったのだと気づかされる。ワンルームか、ワンフロアか?婚約者のいる部屋か、それとも仲間が待っている部屋か?全く新しい職業であるプロゲーマーの生態を通して、しかし「帰る場所」というもっとも古典的な最終獲得目的が浮かび上がってくる、そこにこのドキュメンタリーの醍醐味があるのだ。そんな本作で、もっとも印象的だったシーンは、ももちが婚姻届にハンコを押す、その姿を後ろから眺めているチョコの笑顔。署名、捺印、提出のコンボプレイに思わずいいね!私は「ゼクシィ」と「ファミ通」を買って、帰路に着いたのだった。
文=ターHELL穴トミヤ
時代の寵児か、社会のはみ出し者か。
真の強さを求めて、" 1/60秒"で戦う世界がある。
『リビング ザ ゲーム』
シアター・イメージフォーラムにて絶賛公開中!
3/31(土)より名古屋シネマテーク、4/7(土)より大阪・第七藝術劇場、4/14(土)より仙台・チネ・ラヴィータ、5/18(金)より山口情報芸術センターにて公開
ほか全国順次公開
関連リンク
映画『リビング ザ ゲーム』公式サイト
関連記事
人間は世界の一部をどうやって手に入れるか。絵に描いたり、写真を撮ったり、ビデオでもいいし、詩でもいい。でも殺すという方法もある 映画『サファリ』公開中!!