WEB SNIPER Cinema Review!!
全米NO.1コメディエンヌ、エイミー・シューマー最新作
レネー・ベネット(エイミー・シューマー)は、高級コスメ会社リリー・ルクレアのオンライン部門に勤めているが、ぽっちゃりでサエない容姿を気にして自分に自信が持てない。そんなある日、痩せるためのトレーニング中にバイクから転落。その衝撃から自分が絶世の美女に変身していると思い込むようになり......。12月28日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
邦題が長い映画っていいですね。邦題が長い映画を観るの、好きだなぁ。邦題が長いってだけで、そこからは「この映画は肩の力を抜いて見てくださいね」というメッセージが漂ってくる。本作の主演、エイミー・シューマーがこちらは主演・脚本をつとめた3年前の作品は、『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』(ジャド・アパトー監督)、これまた邦題長かった! クリステン・ウィグ主演の『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(ポール・フェイグ監督)しかり、メリッサ・マッカーシー主演の『メリッサ・マッカーシー in ザ・ボス 世界で一番お金が好き!』(ベン・ファルコーン監督)しかり、最近の女性コメディは、長い邦題が多い! いざDVDになって店頭に並ぶと、もう何が何だか区別つかなくなるんだけど、そんなパルプ雑誌感が、またいいんだよなあ。この分では、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(スティーブン・ダルドリー監督)が恋愛コメディ・コーナーに並べられる日も遠くないはず。
映画は、フィットネスジムの窓に映る、ぼやっとした影から始まる。それは、ぽっちゃり体型から抜け出し、イイ女になるべく自分を変える決意に燃えた、主人公(エイミー・シューマー)の姿だった。ところが、彼女は周りの視線を気にしてジムでもギクシャクしてばかり。その後も、バーでは群がる客に埋もれてお酒の注文ができず、街では赤子には泣きだされ、ナンパ男からは透明人間として扱われる。彼女がドラッグストアで超絶美人(エミリー・ラタコウスキー)に向かって、「私もあなたみたいに美しかったら......」と洩らすとき、背景に映っている広告ポスターがいい。完全な美を体現するモデルたちと、エイミーの対比! 彼女の尊厳は、こうやって生活空間に張り巡らされた広告や、メディアによって、追い立てられ、剥ぎ取られてきたんだなぁ、というのが伝わってくるのだ。ある嵐の夜、TVで映画を観ていた彼女はついに切なさ感極まり、公園の噴水に出かけ、コインを投げながら神に願う、「私を美人にしてください!」。
そして、奇跡が起こる。フィットネスジムで転倒し頭を打った彼女は、自分がスーパー・ゴージャスに見えるようになってしまったのだ(ただし他人から見えている姿は変わらない)! それからは「すべての他人は、私の美にメロメロなはず」と確信し、自信に満ち溢れ、性格も激変(外見は不変)。するとどうしたことだろう、彼女の自信に引きずられ、周囲の見る目まで変わってきたではないか......。ついに、エイミーの快進撃が始まる!と映画は続いていく。
なんといっても、エイミー・シューマーはコメディエンヌ、動きがおもしろい。高級コスメ企業の待合室で待つ間、そこに飾られた丸太オブジェ風ベンチにどう座るか? 枝にバックをかけようとしたり、横に寄ったり、跨いでみたり。無駄におしゃれな道を通過するときの歩き方もいい。
見た目が変わらぬまま、言動だけゴージャスになった彼女への周囲の受け止め方は様々で、昔からの女友達は完全に引いているし、クリーニング屋で出会った(というかエイミーに巻き込まれた)男は若干「サイコパス?」とビビっている。一方、職場の上司(ミシェル・ウィリアムズ)には高評価で、エイミーが地下のサーバ・ルーム勤務から抜け出すきっかけになる「超上から目線面接」は、聞いていてこちらも真似したくなる力強さに溢れている。
そんななか、昔からの同僚として登場するエイドリアン・マルティネス(『フォーカス』、『オレの獲物はビンラディン』)だけが、終始ビックリ顔の変わらぬテンションでエイミーに接する。恋愛映画の頻出キャラとして「主人公にアドバイスしてくるゲイの友人」という枠があるけれども、彼はその進化版「異性ではないギークの同僚」なのだ。
エイミーに起きた人生最高のハプニング、それは自己肯定感を棚ぼたゲットしたことだった。それさえあれば、ダイエットも美容も必要ないという逆説が、本作の小気味良さを生み出す。頭の中だけを変えて自己肯定感を上げる方法は、頭を打つ以外だと、教育(フェミニズム)か自己啓発で、エイミーのハイテンションぷりは、自己啓発のアッパー感に近い。けれど棚ぼたゲットのままで許されるほど、アメリカ社会が甘いはずもなく、やがて物語には不穏な影が差し込んでくる。
この映画で鍵となる魔法の場所は「あなたはなりたい自分になることができる、あなたは変われる!」とハイテンションなトレーナーが語りかけ、ズンドコした音楽が鳴り響く、フィットネスジム。ビルの一室に所狭しと並べられたエアロバイクにまたがる女性たちの姿は、どことなくブロイラーを思わせる。なんでわざわざ、お金を払って蛍光灯に照らされた狭い一室で、汗かかなきゃいけないわけ!?公園とか山とか行ったら?しかし、そこは人生すべてが企業によって製品化される国。自己変革も、運動も「フィットネスジム」という商品に吸収されてしまうのだ。
傑作コメディ『お!バカんす家族』(ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー監督)では、家族の絆をとりもどすため、主人公たち一家が、国民的テーマパーク「ウィリー・ワールド」を目指す。これもまた、旅路の最終目的地がテーマパークという人工国家アメリカの悲哀を感じさせたのだが、映画を観ているうちに、そのチープなテーマパークが、光輝く素晴らしものに変化していくマジックに感動させられる。これこそがアメリカ映画の偉大さで、荒涼として、本当は何もないアメリカという国に「いやここに故郷を作るんだ、ここに素晴らしいものがあるんだ!」と主張し、根を張り、果てしないやせ我慢の末に、本物を錬金してしまう。アメリカ映画はその結晶なのだ。
そして「フィットネスジム」がやがて「魔法の場所」となる今作にもその偉大さの欠片が宿っている。アリシア・キーズ(フィーチャリング・ニッキー・ミナージュ)の「ガールズ・オン・ファイア」はじめ、女性が声を張り上げまくる本作のBGMもまた、骨の髄までアメリカでいい。映画は最後、フィットネスジムにいるエリッサ・マッカーシーの姿で終わる。それは、身体を変えないまま、思い込みによって変身し、周りの人間すら魔法にかけていく、アメリカそのものの姿なのかもしれない!そう思いながら、私はバターをたっぷりかけたポップコーンを貪った。
文=ターHELL穴トミヤ
「私、超~キレイになってる!」勘違いから始まる共感度100%ラブコメディ!
『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』
12月28日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
関連リンク
映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』公式サイト
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