WEB SNIPER Cinema Review!!
インド映画史上、歴代世界興収第3位!(2019年4月現在)
少女インシア(ザイラー・ワシーム)が抱くただ1つの夢は、インド最大の音楽賞のステージで歌うこと。しかし厳しい父親に歌を禁じられ......。顔を隠して歌った動画をこっそりとYouTubeにアップした彼女はたちまち大人気となり、若干落ち目の音楽プロデューサー、シャクティ・クマール(アーミル・カーン)と出会うのだが!?ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
「この映画、泣けました~~!」みたいな映画レビューは書かないと決めている私ですが本作、マッシヴ涙です。歌が始まるたびに泣いています。歌~ッ!と言って泣き、母~ッ!と言って泣き、弟~ッ!と言って泣き。アーミル・カーン~ッ!と言って泣いている。主人公のインシア(ザイラー・ワシーム)は、歌うのが好きで、ギターを弾くのが好きで、人気番組「スター発見」に出場するのが夢の14歳。けれどそれは叶わぬ夢、なぜならインシアは女の子だから。男尊女卑の傾向が強いインド、中でもインシアの父親は、女子が歌を歌うなどふしだらなことは決して許さない男! でも夢が諦められない彼女のために、母親がこっそりノートパソコンを買ってきてくれた。彼女は身元がバレないようにヒジャブを被って、自作の歌をYoutubeにアップします。それがバイラル化し、ついにはスター発見に出ている名うての音楽プロデューサー(アーミル・カーン)の目に留まるが......、とストーリーは続いていきます。
娘の夢を理解できない親と、夢を諦めきれない主人公が、衝突し、葛藤し、それでも周囲の力を借りて我が道を切り開こうとする。これってよくあるストーリーで、たとえばドリュー・バリモア監督の『ローラーガールズ・ダイアリー』なんかはその典型です(『ローラーガールズ・ダイアリー』最高!大好き!)。ところがですよ。アメリカ映画における両親の無理解がベルリンの壁くらいだとしたら、インド映画だとカラコルム山脈ですかみたいな。もう、ノーベル平和賞受賞者のマララさん連れてきて~!みたいな。あと、ビヨンセと、オノ・ヨーコと、ついでに墓の下からメアリ・ウルストンクラフト(18世紀イギリスの社会思想家、主著『女性の権利の擁護』)も連れてきて~!!みたいな。もうそれくらい、応援がいないと追いつかない。
まず父親が男尊女卑を超えて、超絶DV男なんですが、この描写がホラー映画なんですね。子供の眼の前での母への物理的暴力はもちろん、自分の手で自分の大事なものを捨てさせたり、公衆の面前で妻と娘をコントロールするための言葉遣いまで、本作は「知っていますか?こんなDV」みたいな網羅性でもって家庭内暴力を描いてくる。
さらに同居している大伯母様がはじめてセリフらしいセリフを喋ったと思ったら、もう完全なインドの闇ですね。女性の権利が云々以前の、因習レベルでの闇が語られる。
さらに本作が甘くないのは、虐待を受けた人間が虐待を継承していくところ。母親は伝統的なインド社会の中で、自分の人生を一度も自分の手でコントロールさせてもらえたことがない。教育を受けさせてもらえなかったから、字が読めない。結婚も親に決められた。そのなかで目の前の娘と息子を心の底から愛して生きてきた。そんな彼女が、母親を救おうとする主人公に向かって「あなたはお父さんのいうことが聞けないの!」と怒りだす。えっ、この期におよんで、なぜあんなクソ野郎の味方を!?と思うんだけれど、そこで語られる彼女の感情が渋いっ!!!!!! その吐露によって、母親は決して超人などではなく一人の人間なんだということがわかって、もう我々はやるせなく首をうなだれるしかない。なるほど、学校で「民主的な教育」を受けた子供たちはこうやって「共同体の不条理な理論」に従っていくのか。そして目の光が消え、口を噤んで生きていくようになるのか......という仕組みが、これ以上ないくらいダイレクトに響いてくる。「どうせハッピーエンドなんでしょ?」とタカをくくってやってきた観客の目の前は、真っ暗になる。
からの弟の優しさで涙~ッ!なわけです。からの「やっぱり歌が好き♡」で、涙のガンジス河が完成してしまうわけです。
そんな飴とムチならぬ、闇と愛の乱れ打ちをかましてくるプロデューサー兼出演のアーミル・カーン。キモ・キャラで登場です。筋骨隆々、網のタンクトップを着たアーミル・カーンが自信満々でビデオメッセージを送ってくる、それを「キモ」の一言でぶったぎる主人公。一事が万事この調子で、重いテーマの中に爽やかな笑いをもたらす。彼のキャラクターは、大物音楽プロデューサーでありながら、そのナルシスティックすぎる性格ゆえ、周囲からは半笑いで眺められているという、いわばインド版のカニエ・ウェストです。
このアーミル・カーンが、実は最近落ち目であり、しかも妻との離婚訴訟に負けたばかりという設定もうまかった。彼が、主人公の一言をきっかけにユーロビート求愛ダンスだった同じ曲を、まったく違うアレンジで歌い出すシーン。しかもそれをてらいなく歌い出した瞬間、鼻持ちならない業界人アーミル・カーンは消え、主人公インシアと同じ、歌うのが好きな人間としてのアーミル・カーンが出現する。アーミル・カーン~ッ!!なわけです。
そして、上映時間150分である本作も大団円に向かっていく。同級生との恋もあった、冒険もあった、イギリスのスター発見番組でも定番の「突然出現した才能を前に、当初はあなどっていたプロたちの顔が、驚愕の色に染まっていく」ぶちあがり演出もあった。そして最後もやはり歌。主人公を演じるザイラー・ワシームの歌唱力のすごさ!立ち上がる音楽プロデユーサー、アーミル・カーンのキモさ!彼が繰り出す全力のスタンディングオベーションをみながら......私は......、インド~ッ!!!映画~~~~ッッッッ!!!!と泣いていました。
文=ターHELL穴トミヤ
PC買えない!ギターは壊される!
彼女にできることは、顔を隠してYouTubeに動画を上げること!?
『シークレット・スーパースター』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
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映画『シークレット・スーパースター』公式サイト
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