WEB SNIPER Cinema Review!!
夢からこぼれ落ちた男と、夢を追い続ける男達の、魂の寓話。
埼玉の冴えないヒップホップクルー「SHO-GUNG」を裏切って上京したマイティは、先輩ヒップホップクルー「極悪鳥」の手伝いをしながらラッパーになる夢を見続けていたが、ある事件をきっかけに逃亡の身となってしまう……。ミニシアター系ロードショーの数々の記録を塗り替えた「SR サイタマノラッパー」シリーズ、最新作!!渋谷シネクイントほか、全国順次公開中
『SR3 サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』の、トークショーつき上映会があったので行ってきました。『SR3』いいですね。前作はイマイチでしたが、今回はシリーズの中で一番いい! まさに到達点ですよ!
そもそも『SR サイタマノラッパー』は、「日本人がラップなんて、イタくてダサい」という前提から始まっていました。当初は、エミネムの『8Miles』にかけた『8000マイルズ』(舞台となる埼玉県深谷からアメリカまでの距離)というタイトル案もあったというだけあって、「RAPやりたいけど日本人(というムリがある感じ)」「しかも埼玉県の深谷出身(というムリにムリを重ねた感じ)」という、白人がHIPHOPをやる以上に不自然な、日本人とHIPHOPの間の距離に、監督は自覚的でした。
ところがじゃあ、「日本人がラップとかイタいよね」という、そのスベり具合を描くだけの映画で終わるのかというと、そうじゃない。『SR サイタマノラッパー』は、ほんとに音楽を捉えることに成功していて、商工会議所でのラップシーンには一線を越えた興奮があった! そこには、ダメなもの、ネガティブなものがそのまま、興奮するもの、美しいものに昇華する音楽の芸術的瞬間がちゃんと存在していて、それで『SR サイタマノラッパー』は名作になったんです。もうあの瞬間、会議室のSHO-GUNGはハシエンダのハッピー・マンデーズになってましたからね。
そして『サイタマノラッパー』シリーズにはいつも、「世間」と「音楽」がある。どちらも映画の小道具じゃなくて、ちゃんと「世間」と「音楽」として生きていて、その戦いがおもしろい。主人公であるラッパーたちにはいつも「世間」を代表する人間たちからのチェックが入ります。そして、その「世間」はだんだん内面化されていって、映画の最後にはその内なる「世間」と、捨て去ったHIPHOPとの戦いがくりひろげられる! この最後の戦いはシリーズの定型になりました(1では、むしろこっちのRAPシーンのほうが話題になっていましたね)。
ただ、シリーズ第2作『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』は「今度は女の子が主人公」ってなって、ウオー!って観に行ったらまあ、プールでのライブシーンとか、風俗店店長の関西弁の中国人とかは良かったんだけど、全体としてはイマイチだった。フリースタイルがあんまり……というのもあった……。
そして今回、シリーズ第3作ですよ。これがまず「世間」を感じさせる部分、劇が格段によくなってる。1作目でSHO-GUNGを捨て東京に出た後輩が今回の主人公で、音楽もうまくいかず、密かにまた北関東に戻って危ない仕事をしてるんですが、盗難車元締めの男は凄みがあるし、産廃処理場はマッドマックスみたいな雰囲気でおもしろい。
そんな中、闇金とかやってそうな若いイケイケの男(ガンビーノ小林/たけし軍団)が、「栃木でフェスやって儲けよう」と計画。それは実は出演者から出演料5万円を取って儲ける仕組みのインチキフェスだったんですが、このオーディションに、埼玉からまたもやSHO-GUNGがのこのこやってきます。このオーディション・シーンが、第1作の公民館ライブを越える素晴らしい出来だった!
今回は物理的高さからして、片方は壇上、片方は下に並んだパイプイス。さらにやらせてもらうほうとやらせるほうなど、上限関係がはっきりと目に見える形になってるわけです。その直前までは絶対的に固定化されて見えていた「世間」での上下関係が、しかし「壇上の主催者、お前ムカつくぜ」という気分をラップにのせはじめた途端、逆転していく! このダイナミズムには心底興奮しましたね。そこにあるのは音楽そのものですよ。形式にのせた途端立ち上がるモノホンの芸術があるわけです。さらに当初は名前がかぶってる上に、同じくイタいだけだったfrom日光の「征夷大将軍クルー」も加わり、そしてこいつらが全員フリースタイルがうまい! とくにメガネでデブの見た目が一番イケてない奴「MC No sound」(実際はMC回鍋肉という名前で活動中)がRAP始めた途端「なにこいつ、ウマいじゃん!」という、またもや価値が転倒する演出には興奮しました。
映画の後半、こんどは上下が逆になって、舞台の上でRAPしているSHO-GUNGの2人と、RAPをやめた主人公マイティ がバッティングする。このとき、カメラが下から上を見上げているのもよかった。自分の中の世間が置いてきた、音楽が光の中にある。自分は世間にまみれていく。そしてエンディングでは、いつものバトルが、シリーズで最も強力な世間との間で行なわれるわけですが、『SR3』は「世間」「音楽」、このどちらも、今までのレベルを越えた完成度で、まさにシリーズ到達点となっていました。
さて、この日のトークショーなんですが、出演者のうちmono(神聖かまってちゃん)、劔樹人(神聖かまってちゃん、マネージャー)、そして北村昭博(『ムカデ人間』)に加えて、監督入江悠が登壇。
印象的だったのは、「次は予算100億円以上の映画じゃないと入江作品には出ない!」と誓ったLA在住の北村昭博のハリウッド感と、今回の映画のため「高円寺の古着屋に衣装を買いに行った」という、神聖かまってちゃんチームの中央線感。しかしそのどちらも、自ら「出してくれ!」と監督に頼んで『SR3』へ出演を果たしたというのだから、この映画の愛され具合を感じます。
さらには、HIPHOPのタテノリを憶えるため監督が北村昭博に渡したのは「さんピンCAMP」のDVDだったとか、建設現場の上司役として「いとうせいこう」が出ている(しかし、編集の都合で一瞬だけになってしまった)などのエピソードが明かされ、いつも無表情で何を考えているのか分からなかった監督の底にある、日本のヒップホップシーンに対する愛を感じました。
やがてトークショーは「『ムカデ人間』は最高ですよ!」「モテキの森山くんが『打倒 劔』って台本に書いてたらしいですよ!」などのジャパニーズ・トラジショナル・ビーフことホメ殺し合戦へと発展、和やかなムードのうち終わっていったのでした。
文=ターHELL穴トミヤ
インディペンデント映画史上、類をみないスピリットと手法で
日本の青春映画の金字塔となった群像シリーズ最新作!!
FLV形式 5.00MB 2分06秒
『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』
渋谷シネクイントほか、全国順次公開中
■5月15日(火)新宿ロフトにて『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』公開記念LIVE/VOL.2 “さよなら、SHO-GUNG。”開催! 詳細はsr-movie.com/にて。
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映画『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』公式サイト
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