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伝説の恐怖映画『シャイニング』を徹底分析するドキュメンタリー
「ROOM237」とは......スタンリー・キューブリック監督のホラー映画『シャイニング』に登場する、主人公ジャックが腐敗した老婆の幽霊に遭遇する客室のこと。S・キングの原作における部屋番号は「217」。キューブリックは何故、数字に変更を加えたのか――。名作『シャイニング』に潜む壮大な謎を、キューブリック監督の作品群の引用、そしてキューブリック研究家たちのコメントにより読み解こうとするドキュメンタリー。

2014年1月25日(土)シネクイント、新宿シネマカリテ他全国順次公開
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冒頭に述べられる、本作の意見はキューブリックおよび関係各者から一切承認されていません。また、彼らの意見を反映してもいません。という断わりがなんとも頼もしい本作。つまりは全編「『妄想』ギンギンです」ということなのだが、いやーこの映画、何かにずっと追われているような不安感が満ちているのであります。

映画が始まりいきなりの『アイズ・ワイド・シャット』に驚いていると、トム・クルーズがジャズクラブに入る場面が絶妙に加工されている。元はジャズメンの写真が貼ってあった場所、そこにあるのは『シャイニング』ヨーロッパ公開時のポスターだ。そのあおり文句はいわく「アメリカを覆った恐怖の濁流が今やってくる」。その恐怖の濁流とはなんなのか......。映画の恐怖? かもしれない。原作の恐怖? かもしれない。しかしアメリカを覆った恐怖の濁流、その真の姿は白人によるインディアン虐殺に他ならない! 『シャイニング』は、インディアンの大量虐殺の記憶をホラーの形で再構築していたのだー!と開始早々、衝撃の結論へとなだれ込む。
そこからこじつけなのか、偶然なのか、意図された演出なのか分からない数々の証拠が提示され、納得しかけた頃にまた別の話へ。『シャイニング』はホロコーストの記憶をホラーの形で再構築していたのだー!と衝撃の結論Bになだれこみ以下、次々と新説がつづいていく。



本作は『シャイニング』マニアたちが、ひたすら『シャイニング』に潜む隠された意図を読み取りまくるドキュメンタリー。ドキュメンタリーにありがちな「イスに座った人間がカメラに向かって語りかけてくる」シーンは一切なく、全てがキューブリック映画、または他の映画からのコラージュと加工で形成されているのがまず、すごい。その結果、画面にだれる瞬間が一切ないのだが、かわりに一息つくタイミングもない。そこに、ジャーナリストや大学教授や作家たちによる、思いもよらないような、筋が通っているような、ないような陰謀・オーディオ・コメンタリーがのってくる。これは観ていて酩酊してくる! リチャード・リンクレイター監督の『ウェイキング・ライフ』の感覚を思い出した。

マニアたちの暴走はとどまるところを知らず、ついにはキューブリックがアポロ11号の月面着陸映像「ねつ造」に加担しており、本作でその後悔、葛藤をこっそり吐露しているのだ!という珍説まで飛び出す。ところがその説明といっしょに、ダニー(登場する一家の子供)がロケットのセーターを着て立ち上がるシーンが映し出される、そのナゾの説得力。「彼が立ち上がると同時に(画面でダニーが立ち上がる)、アポロが打ち上げられる!(当然セーターも一緒に上に)」。もうこの映像だけで全てを信じてしまいたくなるのだが、そうかと思えば、キューブリックはそのころ初めて出版されたサブリミナル効果についての本、ウィルソン・ブライアン・キイの『潜在意識の誘惑』を読んでいたはずだ! その証拠に、ほら雲にキューブリックが映っている!(全然、見えなかった)など思わずアイズ・ワイド・シャットしてしまいたくなるトホホな説もたくさん出てくるので油断できない。



誰も彼もが、矛盾を見いだし、意味を見いだし、『シャイニング』の中で遊んでいる。彼らの妄想の数々を支えているのはもちろんキューブリックなのだが、そこには3つの要素があると思う。
まずは200ともいわれる彼のIQ。それは、「彼はわたしたちより遥かに多くを見通し、知っているに違いない」という畏れと信頼感を作り上げる。2つ目は撮影予定を大幅に超過しても気にしないという彼の完璧主義。それはやっぱり「彼の映画に偶然や誤謬はありえない」という信頼感を人々に与えている。こうして彼の映画は、安心して、全てに、意思と意味を見いだすことのできる受け皿となるのだ。そして忘れちゃいけないのが3つ目、そのキューブリックがもう死んでいるということ。彼の不在こそが、真空ポンプとなって人々の解釈をどこまでも受け入れる最後の一押しになっている。なんだか『Room237』を観ていると、圧倒的な知性が作り上げた絶対に間違いのない(はずなのに破綻しまくりの)物語と、その解釈をめぐってどんどん分派していく人々。つまりはイスラム教や、キリスト教を思い出す。これはまさに一神教の歴史じゃないか!
となると300年後には『シャイニング』の解釈をめぐって対立する派閥同士が世界戦争をしているのではないだろうか。『シャイニング』を順再生と逆再生で重ねて同時に上映していた人たちなんか、そうとう異端っぽい立ち位置になっていそうで楽しみだ。

文=ターHELL穴トミヤ

IQ200の天才監督スタンリー・キューブリックの"頭の中"を分析する――


『ROOM237』
2014年1月25日(土)シネクイント、新宿シネマカリテ他全国順次公開


原題=『Room 237』
監督=ロドニー・アッシャー
制作=ティム・カーク
音楽=ジョナサン・スナイプス

配給=ブロードメディア・スタジオ

2012年|アメリカ|カラー|103分

関連リンク

『ROOM237』公式サイト

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ターHELL 穴トミヤ  ライター。マイノリティー・リポーター。ヒーマニスト。PARTYでPARTY中に新聞を出してしまう「フロアー新聞」編集部を主催(1人)。他にミニコミ「気刊ソーサー」を制作しつつヒーマニティー溢れる毎日を送っている。
http://sites.google.com/site/tahellanatomiya/
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