WEB SNIPER Cinema Review!!
スペインの巨匠アルモドバル監督のブラックコメディが帰ってきた!
マドリッドからメキシコ・シティへ、快適な空の旅が始まった――と思いきや、その飛行機は着陸不能の状態だった! 旋回し続ける飛行機の中、3人のオネエ系乗務員たちは皆を楽しませようと歌って踊り、怪しいオリジナルカクテルを振る舞う。すると曲者ぞろいの乗客たちは......。巨匠アルモドバル監督が満を持して贈る、空の上でのワンシチュエーション・コメディ! 1月25日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開
スペインといえば、ヨーロッパのコカインチャンピオン。老いも若きも、男も女も、犬もネコも国民全体がコカインで毎夜ぶっとんでいるのだが、本作はそのスペインのぶっとびぶりをいかんなく発揮した、名匠アルモドバルによる90分コメディになっている。
それにしても、『私が、生きる肌』『ボルベール<帰郷>』など近年かなり重厚な映画を作っていたペドロ・アルモドバルになにがあったのか......。「初期コメディ路線への久しぶりの回帰なのである」と資料にはあったが、ただボケて欲望の制御が効かなくなっただけなのでは......。
舞台となるのは架空のエアライン、ペニュンシュラ航空。その機内ではマリコン(オカマ)の客室乗務員たちが、酒でも飲まないとやってられないわとガンガン飲みながら乗客たちの安全を守っていた。しかし! なんとこの飛行機、ちょっと前から安全上のトラブルが生じていたのだ! 乗客にはだんまりを通したまま、トレドの上空を旋回するエアバス。やがて異変がバレはじめ、耐えきれなくなった客室乗務員はマリファナまで吸いはじめて......、と映画はすすんでいく。
エコノミークラスの乗客たちは「クスリを盛って全員寝かしている」という設定でズバッと切り捨て、本作に登場するのはビジネスクラスの乗客・乗員だけ。ほぼ機内だけで進むシチュエーションコメディといえるのだが、もう結論としては男はホモらないと始まらないと。色々な緊急事態が次から次へと襲ってきても、重要なのは、どの男がどの男とくっついているのか? 自分はホモなのか? 男のするフェラと女のするフェラどっちが気持ちいいのか? コカインとヘロインはあるけど、メスカリンはないのか?などなど、これは「金融危機のさなか、スペイン人の頭の中はこうなっているんですよ」というアルモドバル監督の犯行声明に他ならない。一番盛り上がるのはドラッグ入りカクテルを飲んだ乗客たちがパーティになるシーンで、その乱痴気騒ぎたるやまさにスペイン帝国の滅亡。または、やっぱり高いお金を払ってでもビジネスクラスに乗りたいな、いややっぱりいやだな、と思わせるに十分な迫力を湛えていた。
ここでいい味出していたのが、アラフォー処女で予知能力があるおばちゃん役のロラ・ドゥエニャス。いつもアルモドバル映画に出てはべらべら喋るおばちゃん役をやっていて、私は勝手にスペインの杉村春子と呼んでいた。このドゥエ村ニャス子がドラッグ入りカクテルでムラムラしてきて、ヤリたくてたまらないままウロウロする、このときの口角のピクピク具合。暴走する不思議ちゃん中年の性欲! 情熱の国スペインだからって、全員イケイケでヤリヤリじゃない、アラフォーでナシナシもある。私は本作の彼女をサンティアゴ・デ・コンポステーラならぬソノアゴ・デ・チンポスッテーラ賞に推すこと、まったくやぶさかでないのである!
ビジネスクラスには、ニャス子以外にも、SMクラブの元締めの中年女、正体不明の口ひげメキシコ人紳士、巨額融資を焦げ付かせたスペイン銀行の頭取、うらぶれた俳優、新婚カップルなどが乗っている。頭取の長らく音信不通となっている娘の行方、うらぶれた俳優の三角関係の相手。「地上に残した人間とのやりとりを通じて、それぞれの人生模様が浮かび上がってくる......」という名匠アルモドバルの魂胆なのだが、そんなメインの展開より副操縦士と個室に消えたマリコンパーサーがもどってきたら口に白い液がついている、それをもう1人のが指ですくってペロリ!「これ、アレ(スペルマ)じゃないの、このアバズレー!」みたいな、どうでもいいシーンのほうがずっと印象に残っているのよーッ! だからもう「ビジネスクラスの乗客はスペイン社会を構成する要素の擬人化だろう、となると監督のスペイン観が分かりおもしろい......」みたいなこと考えてたのに、どうでもよくなっちゃったのよーッ!「私の作品で最もゲイっぽい映画」とアドモバル監督自身かたっているが、ゲイっぽい=ヒド過ぎ~!ということが、私の中でいま結論となってうずまいているのである。
そしてマリコンパーサーたちがPointer Sisters『I'm So Ecited』で踊りだす! 振り付けはDaft Punk『Around The World』のロボダンスをてがけた(最近では明和電機と組んでミュージカルをプロデュースした)、ブランカ・リー! エンディングテーマのMetronomy『The Look』も最高で、機内のデザインも初期アルモドバルのキッチュな色彩感覚が少しデジャヴー! もうつべこべ言わないから、宣伝会社さん私をイベリア航空でイビザ島へつれてってーッ!という気分に私は今なっているのである。
文=ターHELL穴トミヤ
絶体絶命の飛行機の中で歌って踊って、ラブ・アフェアも!
『アイム・ソー・エキサイテッド!』
1月25日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開
関連リンク
『アイム・ソー・エキサイテッド!』公式サイト
関連記事
バリバリのB級ムービーでダメなポール・ウォーカーを堪能! 口が長方形になる拷問がよかった! 映画『スティーラーズ』公開!!