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タランティーノ絶賛のウェイン・クラマー監督最新作!
某日、アメリカ南部。強盗団のリーダーと幻覚に悩まされる仲介役はドラッグディーラーの金を強奪する計画をたてる。同じ日、数年前に妻の失踪事件に遭った男は女性を狙った誘拐・監禁の常習犯に出会い、プレスリーを崇めるドサ回り芸人は魂の救済を謳う謎の男に出会う。些細なことで命を狙うヒステリックで恨み節な小人、平和ぼけした取り巻き、手癖の悪いコック、注文をきかない理髪店主、その中心にいる冴えない質屋の店主――。これは、たったひとつの巡り会いが生み出すイカれた奴らの運命の一日。2014年1月18日(土)よりシネマート六本木、シネマート心斎橋にて公開!ほか全国順次
ポール・ウォーカー×ウェイン・クライマー監督とくれば『ワイルド・バレット』! 見てるだけで心拍数があがる獄門ヅラ犯罪者たちと、へたをうっちゃってやばいよやばいよあーこれが他人の人生でよかった~的ドキドキワクワクでハイ来た! 「タランティーノも絶賛」な傑作クライムアクション映画だったんですが、再びそのコンビが帰ってきた。それが本作『スティーラーズ』なのだー!
とぶち上げてはみましたが、本作オムニバスなんでポール・ウォーカーが出てくるのは最初だけですね。『ワイルド・バレット』とはうってかわり、肩の力が抜けたポップコーンムービーとなっています。
物語の中心となるのは、南部国旗がべたべた貼られたヤバげな質屋。最初のエピソードに登場するのはショットガンを抱えた間抜けな男で、彼は2人のジャンキーとともに強盗を計画している。その1人がポール・ウォーカー、登場した瞬間から「3日間寝れてない!」とかいって、すでに限界ギリギリなのがおもしろい。彼は幻覚が見えはじめていてパニック状態、いつもと違って頼りになる感じゼロです。一方の相棒はオールバックに革ジャン、さっきコカインを吸ったばかりでギンギン。この2人の意思の疎通すらままならない感じが素晴らしい。そんなぶっ飛び野郎どもが、車で移動しながらKKKの話をするシーンがよかった。
「黒人を差別するっていうのは分かるんだ、あいつら見た目も違うしな......」という差別のキホンのキみたいな発言から始まり、「でもユダヤ人はどうして差別するんだ?! ぱっと見違いが分からねーじゃねえか!?」と素朴な疑問へと続いていく。極悪ヅラの奴らが、妙に素直に話し合う。これぞタランティーノが愛する、チンピラ映画の醍醐味じゃないでしょうか。
次のエピソードに出てくるのは新婚夫婦。その軽さが詐欺師にしか見えない夫を、マット・ディロンが演じている。イチャイチャしながら指輪を売りつけようとしていた彼がショーウィーンドウを覗き込んだとたん、すごい顔になる。彼が発見したのは、6年前に失踪した妻の結婚指輪でした。
ここから一転、狂信へと切り替わるマット・ディロンの演技が素晴らしい。笑顔がするっと地面に落ちて、今にも爆発しそうなピンの抜けた手榴弾状態。糸をたぐるように妻失踪の真相へと近づいていく彼が、ゴールにたどり着いたらどうなってしまうのか。あの画期的な長方形の口には、ダースベイダーマウスと名付けたいですね。
3つ目は売れないエルビス物まね芸人の話で、ここで急にルーザームービー感が出てきます。ダメなのにツッパっている主人公(ブレンダン・フレイザー)は、クソデカいアメ車に乗り、なにかあるごとに、神と崇めるエルビスに祈りを捧げている。ところがモノマネ芸は鳴かず飛ばずで、コーヒー代の1ドル20セントも払えない。ついには彼女にも捨てられてしまいます。
そんなある晩、彼は悪魔っぽい奴から取引をもちかけられる。お前の夢を叶えてみたいと思わないか......? そこはさすが音楽芸人、この状況が「深夜に四つ辻で悪魔に魂を売りわたし、代わりに才能を手にいれた」という、いにしえのブルースマン、ロバート・ジョンソンの伝説と同じであることにピンときます。ツッパってはいるが、そのじつ気の弱い主人公。やばい、悪魔だ!どうしたらいい!とビビりまくる。果たしてそこで彼のとる行動とは!? それがまたダメでよかったですね。
この3つのエピソードが、少しずつ絡み合って一応のエンディングへと導かれていく。本作、全編を通じて悪魔と神らしき登場人物が出てくるんですが、これがどっちが神でどっちが悪魔なのか......。いやどっちも悪魔なのか、考えてみてもぜんぜん分からなかった。きっとコロラド州とかでマリファナを吸いながら観ると「HAHAHA, I understandだぜ~」とかなるのでしょう。
で、終わる本作だったんですが、昨年ポール・ウォーカーが急逝してしまったから、特別な1本になってしまった。エンドロールではお気楽映画らしくNGテイクが流れる、これもまるでポール・ウォーカーのためにあるように見えてくる。エンドロールのNGテイク集って、終わってしまう映画本編に対する思い出でしょう。だからただでさえちょっと寂しいのに、ポール・ウォーカーがそこにいるともっと寂しい。
現在製作中の『ワイルド・スピード7』と、アメリカ公開待機中の『Brick Mansions』の2本を残し、本作は現時点での彼の最新作です。映画に映るって素晴らしいことなんだと、アホなジャンキー役を演じるポール・ウォーカーを眺めながら思っていました。
文=ターHELL穴トミヤ
豪華ハリウッド俳優たちによる新世代パルプ・フィクション
『スティーラーズ』
2014年1月18日(土)よりシネマート六本木、シネマート心斎橋にて公開!ほか全国順次
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『スティーラーズ』公式サイト
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