WEB SNIPER Cinema Review!!
『スター・ウォーズ』ファンからのたくさんのメッセージが詰まった
壮絶バトル・ドキュメンタリームービー!
『スター・ウォーズ』最初の3部作は、ファンを圧倒し、未だ彼らを惹きつけてやまない。しかし、彼らがジョージ・ルーカスに抱く感情は、いつしか複雑な愛憎関係へと変化してしまった――。スペシャルエディションのリリースや、グッズ販売の方法についてなど、『スターウォーズ』マニアたちがジョージ・ルーカスを次々と断罪。神格化された映画監督と、そのファン軍団の間に勃発した争いの様子を調査したドキュメント!!壮絶バトル・ドキュメンタリームービー!
本作に出て来るのはカメラに向かって英語で、スペイン語で、フランス語で激怒し、愛を語り、かと思えば呪いをかける、世界中のスターウォーズマニアたち。みんないい年こいたおっさん、おばさんで、見た目もフリークスっぽい、叩き上げの粒ぞろいだ。彼らが語りかける相手は、『スター・ウォーズ』を生み出し、破壊した男、ジョージ・ルーカス! これはファンを主役に据えた、怒りのルーカス断罪ドキュメンタリーなのだ。
まずやり玉にあがるのは、現在なお大成功中の、『スター・ウォーズ』グッズ商法。「有名なオタク」という肩書きの男性が「もう匂いからしてたまらないんだ! あの新品のフィギュアを開けたときの!」と自らのフェティシズムを語り、一面フィギュアで埋め尽くされた壁の前に立つ奥さんは「私の家庭は『ジョージ・ルーカス』によってめちゃくちゃにされました!」と訴える。
次から次へと発売されるグッズの洪水に、ファンはうんざりしつつも、レジに並ぶのがやめられない。「僕はもうそんな状態は卒業したよ」という日本人男性は「今では『R2-D2』関連しか買わないんだ」と山盛りのR2-D2グッズの前で語り、マニアの業の深さを見せつけてくれた。
しかしグッズ地獄だけならまだ幸せだった。やがてマニアが引き込まれて行くのは、「自分の記憶を他人に変えられていく」という新たな地獄だったのだ!というわけで、『スター・ウォーズ 特別篇』が登場する。なにしろこの、「若干の変更と、デジタルクリーンナップを施した」リメイク版は、ふたを開けてみると、20世紀FOXのロゴが20コマ早く出現し、オリジナルSFXがCGで上塗りされ、さらにハン・ソロが先に撃っていないように編集された、とんでもない改悪バージョンだったのだー!ってそこまで怒ることでも……とも思うのだが、マニアの怒りは半端じゃない。ついには、ジェンダー問題を話し合う勉強会みたいな勢いでパイプイスに座り、大まじめに「先に撃ったのはハン・ソロであるはずだ!」などと議論を始めるので笑ってしまった。
ここに来て本作は、「作品とは誰のものなのか?」「芸術にとってオリジナルとは何なのか?」という難題に突入していくのだが、しかし一番の問題は、その『特別篇』をルーカスが押し付けたということだった。なんと彼は『特別篇』の公開とともに、みんなの思い出バージョンである『劇場公開版』を、封印・抹殺してしまったのだ。
なんでそんなことを! どっちも観られるようにすればいいじゃん!と思うのだが、明らかになるのは、変わってしまったルーカスの姿……。『スター・ウォーズ』で成功し富と自由を手に入れたルーカスは、エゴというフォースの暗黒面におち、ついにダースベイダーになってしまったのだ!
そんな彼が17年ぶりに製作した新しい『スター・ウォーズ』こと『エピソード1、2、3』は駄作だった。ここに来てマニアの阿鼻叫喚が、ネクストレベルのええじゃないか状態へと突入するのがおもしろい。
中でもマニア製作の自主制作映画が秀逸で、ルーカスを誘拐し『ミザリー』ばりに、自分が求める正しい『エピソード1、2、3』に書き直させる「ルーカス誘拐」ものや、「いいか、ジョージ・ルーカスは本当は、1989年に交通事故で死んでいて……」と主人公が陰謀説に走る「ショックでパラノイア化」ものなどが登場。さらには、『マニア独自編集版 スター・ウォーズ』という文化まで花開き、結局お前ら、怒っているっていうか楽しんでるんだろ!という突っ込みも、そろそろ入れたくなってくる。
イっちゃってる奴、輝いてる奴、フォースの暗黒面に落ちてる奴。本作に出てくるファンやマニアの中で、僕が一番よかったのは、『エピソード1』の予告編を観た直後に映画館から飛び出してくるおっさんだ。彼の手と足がばらばらになった走り方と、満面の笑みをみたら、「こんなダメそうな奴を、こんなに幸せそうにさせる『スター・ウォーズ』って最高だな!」って思わずにいられない。
本作では、彼の恩師であるフランシス・F・コッポラも登場し、「どんな金銭的な成功だって、彼が未だ持っている創造的な力に比べたら、何の価値もないんだ」と彼にエールを送っている。その力こそフォース。その力の成し遂げた、あのばたばた走るおっさんの、あの幸福を作り上げたことこそが『スター・ウォーズ』の成し遂げた真の偉業なのだ。
デススターの奥深くに引きこもってしまったルーカス。彼は正気を取り戻し、ジェダイの騎士に再び戻ることができるのか? 最近、「ジョージ・ルーカスが次回作を最後に、今後は『小さくて私的な作品』だけに集中していく」というニュースが報道された。彼はきっと、この映画を観たにちがいない。そしてあのばたばた走るおっさんを観て、正気を取り戻したのだ!と、そう僕は信じている。
文=ターHELL穴トミヤ
ジョージ・ルーカスの大きすぎる功罪を暴き出す愛と憎しみのドキュメント!!
FLV形式 5.18MB 1分46秒
『ピープルvsジョージ・ルーカス』【Blu-ray】初回限定仕様:アウターケース
関連リンク
映画『ピープルvsジョージ・ルーカス』公式サイト
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