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ちょっと変わったエッセイ漫画家の偏執的な不安

『生活 / 1(青林工藝舎)

著者=福満しげゆき


文=さやわか


ちょっと、戦いが始まる!! 福満しげゆき初の長編ストーリーマンガ。
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福満しげゆきは『モーニング』で連載中の『僕の小規模な生活』によって「ちょっと変わったエッセイ漫画家」としてすっかり一般に認知されたように見える。彼の漫画の「ちょっと変わった」部分とはもちろん、日常に対する、あるいはエッセイ漫画を描くという行為自体に対するほとんど偏執的と言ってもいいような不安の持ちようである。それは今やメジャー誌においてすら彼のエッセイ漫画を魅力的なものとして輝かせているが、しかし、この作家が持つ生に対する圧倒的な強迫観念がエッセイ漫画においてしか読者に楽しまれないのはもったいないことだ。彼自身も執筆意欲をよく見せている『生活』のようなストーリー漫画も、ぜひ多くの読者に読んでいただいて、この人は本当にちょっと変わった、どっかおかしい漫画家なのだ(ホメ言葉)ということをご理解いただきたいと思う。

非常に自己中心的で衝動的な理由で行なわれる暴力。自分からすれば不条理な理由で襲われる不安。『生活』という作品を貫いているのはそれである。作中には刃物を持って街を徘徊する頭がアレな人や、キレて他人を殴ったりするヤンキーなどがよく目立つ描かれ方をして登場するが、彼らが怖いのは「何を考えているか分からない」からである。街を見回してみれば「何を考えているのか分からない」人たちだらけであり、究極的には誰の考えていることも分からない。我々が生活を行なっているのはそういう場所なのだ。

しかし実際に『生活』の物語はこうである。コンビニ店員としてフリーターを続ける主人公が、ふとしたきっかけで地元の性犯罪者や凶悪な若者などを暴力によって「せいばい」する仕置き集団のようなことをはじめる。しかし活動が拡大して市内全域をパトロールする自警団のようになってからは組織のやり方に疑問を覚えてドロップアウトし、今度は目に余る暴力で市内を牛耳るようになった自警団に対して対立姿勢を示し、逆に彼らを襲い始めるところで第一巻は終わっている。

筋書きだけを見れば、主人公たちの仕置き活動や自警団の発足、あるいは古巣の変質に対する反逆というのは、すべて社会的義侠心とか正義感に基づいて、「何を考えているのか分からない」人たちから身を守ろうとして行動しているようにも思える。しかし実際に読んでみると主人公たちの行動の根拠は希薄で、ほとんど思いつきによって暴力行為に及んだり組織を拡大している。それどころか彼らは、ちょっと好きだった組織内の女の子を別のメンバーに奪われたからというどうしようもない理由で組織を辞めたり、辞めた後で見た組織の活躍に嫉妬心を抱いて逆襲を企てたりする。

「何を考えているか分からない」のは自分も一緒なのだ。暴力事件を起こしたり性犯罪者だったりするのはテレビのニュースに登場する人物だけでなく、一歩間違えば自分がそうであったかもしれない。実際、自分たちは明確な正義などなく、大義名分もなく暴力に身を投じていて、自分の行動の理由がよく分からない。よく分からないということも分からないまま、ただ暴力だけを連鎖させていってしまう。たしかに犯罪者は何を考えているのか分からないが、しかし自分も犯罪者と同じかもしれない、むしろそれそのものであるという不安。この作品にあるのは、そういう他者と自分の両方に対する脅迫症的な不安である。

『僕の小規模な生活』などのエッセイ漫画においては、その不安は作者のみが受け入れていればよかった。現実をベースにしたエッセイ漫画という形式であるがゆえに、かえって読者は作者を自分とは違う人物、つまりは神経症的に心配性な人物、そういうキャラクターなのだと安易に理解して、安心して作品を楽しむことができた。だが『生活』では作者はその不安を読者に預けようとする。読者はその漠とした巨大な不安を自らに受け入れなければならない。他者と自分が共に、得体の知れない、制御できない暴力性を持ってこの世界で生活しているという不気味さ。この作品は、福満しげゆきが本質的に持つそのような狂気の根源に触れさせてくれるものなのだ。

文=さやわか


『生活 / 1(青林工藝舎)
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著者=福満しげゆき
ISBN:978-4-88379-256-6
価格:1050円
発売日:2008年1月
発行:青林工藝舎

出版社サイトにて詳細を確認する>>


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08.10.26更新 | レビュー  >