web sniper's book review 青春に、おかしなことはつきものだ! 『化物語(講談社)』 著者= 西尾維新 文=さやわか
阿良々木暦を目がけて空から降ってきた女の子・戦場ヶ原ひたぎには、およそ体重と呼べるようなものが、全くと言っていいほど、なかった――!? 大人気シリーズの第一作! 『物語』はここから始まる!! |
西尾維新の初アニメ化作品として『化物語』が選ばれた。アニメ化について特に言うことはない。最適なスタッフが配されたことによって最適なアニメ化が行われるだろうと思う。しかしやはり、この希有な作家の作品がアニメ化されるということには注目してしまう。
西尾は漫画やアニメの文法を小説に持ち込んだ作家であり、しかもそれが皮相的なものではなく、アニメや漫画的であるということはつまりどういうことなのかを徹底的に理解した上でそれがなされることによって、「アニメや漫画の手法を小説に持ち込んだ」と言われる凡百の作家には決して書けない作品を書いている。彼の作品は小説であるにもかかわらず、読みながらあるいは読後にまるで良くできたアニメを見せられているような錯覚を感じさせるもので、そう見せる手法をこの作家は更新し続けている。『化物語』では、ボケとツッコミがハイスピードで連続していくギャグ漫画的な会話の運びが意識して試されている。あとがきでは「馬鹿な掛け合いに満ちた楽しげな小説を書きたかったのでそのまま書いた」「百パーセント趣味で書かれた小説」であると韜晦しているが、しかし彼の想定するレベルで「馬鹿な掛け合い」を書ける作家は存在しないし、いたとしてもそれを何のためにやるのか考えてはいない。そのようにアニメや漫画に対して過剰な意識を持って作られた作風がアニメへとフィードバックするとき、果たしてどのようなものになるのか。注目するというのはそこである。
物語の流れは一話ごとに少女の周りに表れる怪異と、その解決を描いたものになっている。しかし物語はそのミステリ的な味付けも含めてあくまでキャラクターの「馬鹿な掛け合い」を牽引するためのものになっている。このようなミステリ的なフォーマットは西尾がデビュー以来培ったものであるが、同時に読者の興味を持続するこのやり方は、少年漫画誌やアニメなどで一般的に用いられているものでもある。西尾は自らが取り込んだこの安定したフォーマットの上で自信を持って「馬鹿な掛け合い」を洗練させていっている。そして、そのようなアニメや漫画的な存在として生きるキャラクターたちを仕立て上げた上で、彼らに実存としての葛藤を与えてもがき苦しめる。ほかの作家が、彼のようなフォーマットをいかにして自作に持ち込めるかということでまだ迷っている間に、彼はそんな段階にまで到達している。
文=さやわか
『化物語』(上)(講談社)』
著者=西尾維新
価格:1,680円(税込)
ISBN:978-4-06-283602-5
発行:2006/11/01
出版社:講談社
出版社サイトにて詳細を確認する>>
関連記事
革命を目指す若者達の青春群像劇。この物語の登場人物達は決して特別ではない――。
『レッド』 著者=山本直樹
ウェブ連載から単行本化された『私という猫』でデビューのイシデ電、待望の新作が登場。
『月光橋はつこい銀座』 著者=イシデ電
第32回すばる文学賞受賞作。
『灰色猫のフィルム』 著者=天埜裕文
1年で50キロの減量に成功! その究極の技術と思考法。
『いつまでもデブと思うなよ』 著者=岡田斗司夫
これぞ、究極のどんでん返し! あらゆる予想は、最後の最後で覆される。
『儚い羊たちの祝宴』 著者=米澤穂信
七〇年に発表された衝撃の問題作、ついに復刊!!
『銭ゲバ(幻冬舎)』 著者=ジョージ秋山
根本敬初の「文字だけ」の単行本、遂に発売!
第11回みうらじゅん賞受賞!!
『真理先生(青林工藝舎)』 著者=根本敬
愛、暴力、そしてミステリ。
舞城史上、最大のスケールで描く最高傑作。
『ディスコ探偵水曜日(新潮社)』 著者=舞城王太郎
特別すぎない、女の子のリアル。ここにそっとしまってあります…。
『素っ頓狂な花(小学館)』著者=武嶌波
少女まんが界に輝く、超人気大河ロマン!!
『ガラスの仮面 /43(白泉社)』 著者=美内すずえ
おれは誰に感情移入すればいいんだ?おれは宮本に感情移入すればいいのか?
『定本 宮本から君へ /1(太田出版)』著者=新井英樹
ツンデレという言葉が生まれたのは、この漫画が描かれるためだったのだ!
『百舌谷さん逆上する/2 (講談社)』 著者=篠房六郎
日本語をめぐる認識の根底を深く揺り動かす書き下ろし問題作!
『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で(筑摩書房)』 著者=水村美苗
“ひとつなぎの大秘宝”を巡る海洋冒険ロマン!!
『ONE PIECE/52(集英社)』 著者=尾田栄一郎
破戒のリーサルウェポン……投下!!
『最後の性本能と水爆戦(ワニマガジン社)』著者=道満晴明
小田ひで次の最高傑作、上下巻同時発売!
『拡散 上・下(エンターブレイン)』著者=小田ひで次
「ワーキングプア」の真実がここに!!
『蟹工船 1巻(新潮社)』漫画=原恵一郎 原作=小林多喜二
たとえそれがウソでもホントでも、神様を名のるやつなんてみんな、絶対どこか変わってる――。
『かんなぎ/ 1(一迅社)』 著者=武梨えり
ゼロ年代を代表する最注目の若手論客による 日本の〈情報環境〉を検証する決定的一冊
『アーキテクチャの生態系 情報環境はいかに設計されてきたか(NTT出版)』 著者=濱野智史
私だって『青春』したい!! 神大寺サキ、高校では仮面かぶります!
『青春パンチ(上) (集英社)』 著者=小藤 まつ
叙情マンガ家・今日マチ子、待望の処女作
『センネン画報(太田出版)』 著者=今日マチ子
ちょっと変わったエッセイ漫画家の偏執的な不安
『生活 / 1(青林工藝舎)』 著者=福満しげゆき
一話完結形式で次々現れる制服美少女たち
『世界制服 / 1(小学館)』 著者=榎本ナリコ
豊穣な想像力とエモーショナルな描写
『大金星(講談社)』 著者=黒田硫黄
平坦な戦場で僕らが生き延びること
『リバーズ・エッジ 愛蔵版(宝島社)』 著者=岡崎京子
なぜこんなにも息苦しいのか?
『不可能性の時代(岩波書店)』著者=大澤真幸
いまの日本は近代か、それともポストモダンか?
『リアルのゆくえ おたく/オタクはどう生きるか(講談社)』著者=大塚英志/東浩紀
一生かかっても見られない世界へ。
『漫画をめくる冒険―読み方から見え方まで― 上巻・視点 (1)(ピアノ・ファイア・パブリッシング)』著者=泉 信行/イズミ ノウユキ
あゆ/郊外/ケータイ依存
『ケータイ小説的。“再ヤンキー化”時代の少女たち(原書房)』 著者=速水健朗
NYLON100%“伝説”の全貌を探る
『NYLON100% 80年代渋谷発ポップ・カルチャーの源流』 著者=ばるぼら 監修=100%Project
時代を切り拓くサブ・カルチャー批評
『ゼロ年代の想像力』 著者=宇野常寛 【前編】>>>【後編】
さやわか ライター/編集。『ユリイカ』(青土社)、『Quick Japan』(太田出版)等に寄稿。10月発売の『パンドラ Vol.2』(講談社BOX)に「東浩紀のゼロアカ道場」のレポート記事を掲載予定。
「Hang Reviewers High」 |