web sniper's book review 早乙女宏美的悲壮美読本 『切腹之書 第二号(しまや出版)』 文=井上文 切腹愛好家・早乙女宏美が自主制作する異端の書『切腹之書』第二号が完成! 日本刀の魅力について、切腹の方法について、切腹ショーの歴史、オリジナル切腹ショー台本、異装願望についてetc. 切腹遊戯の楽しさを今に伝え、深めていくための実践的&歴史的(切腹愛好家)マストアイテム!! |
切腹の歴史や様式、精神性を遊戯としてどう楽しむか。その研究が、故・中康弘道氏を中心に長く行なわれてきた。今でも愛好家は少なくない。様々な人間模様を背負って腹を切る女、もしくは男を、演じたり、想像して愛でたり、演者を鑑賞したりする、遊び。「生」にも「性」にも「血」にも「死」にも関わるこの遊びは、一度ハマったら簡単にはやめられなくなるのではないか。こういう危ない遊びが面白くないわけがないのだ。
この冊子を作っている早乙女宏美さんに、以前、「どんなふうに死にたいですか?」と聞いたことがある。早乙女さんはその時「自殺する」と答えたのだった。すでに方法まで考えてあるようだったので、雑誌で遺書を書いてもらった。それが「あぶらいふ」での連載「生と死とエロス」だった。最期に聴く音楽、最期の食事、最期に読む本や、死ぬ季節、かたみをどうするかなど、死までの具体的な準備を文章上でしてもらった形だ。
死に方は、やはり「切腹」と書かれていた。場所は山奥の桜の樹の下である。もちろん、こうした記事を作ることもまた遊びの一つで、本気で書いてもらったものではあるが、しかし本気にする人がいたら困ってしまう。SM雑誌で行なわれていることは、おおむねそういう種類のことで、基本的には遊びだ。ただし、本気でやればやるほどに面白くなるものなので、わざわざ「遊び」と書いたりはしないし、やっている時は本気になる。イマジネーションの中で力いっぱい遊んでいるのだ。
『切腹之書』は、中康弘道氏が愛した「悲愴美」の探究を受け継いだ早乙女さんが、切腹遊戯の肝をきっちりと押さえながら自主制作した、異端の書だ。長年舞台で切腹ショーを披露している早乙女さんが自ら演じて作った見事な切腹写真も収録されている。
全部で60頁ほどの薄い小冊子だが、中味は濃い。昨年発売された第一号では、切腹と性的昂揚のメカニズムが独特の切り口で表現され、切腹遊戯を知らない人にもその魅力を上手く想像させた。今回の第二号では、切腹における「悲愴」と「悲壮」の違いを明確にすることから入って、早乙女さん自身の切腹観が改めて丁寧に示された。また、切腹を観たり演じたりする際のイマジネーションを充実させるためのデータや資料に頁が割かれているのも、第一号に引き続いて親切で、魅力的だ。
こういう丁寧さは、実際にその遊びをしていて、ニーズを知っている人でないと、どうしても過不足が出るものだと思う。今は年に一冊のペースだが、巻が増えていくほどに、実践のための参考書としても、後に残したい資料としても、大きな意味を孕んでいきそうだ。
百部限定。書店では手に入らないものなので、気になる方は早めに下欄をチェックして欲しい。
文=井上文
『切腹之書 第二号(しまや出版)』
発行年月日:2009/05/13
サイズ:A5判
価格:2000円(税込)
モノクロ・百部限定(予約は5月13日まで)
予約と販売 : 風俗資料館
〒162―0824
新宿区揚場町2―17 川島第2ビル5階
電話 03―5261―9557
予約方法の詳細は以下のURL先をご参照して下さい(風俗資料館)
>>>http://pl-fs.kir.jp/pc/book/saotome/sho02/index.htm
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『Hang Reviewers High(ミニコミ)』 著者=ソメル
井上文 1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。 |