WEB SNIPER's book review
人生の様々なシーンに対応した心構え&食事法をこの一冊で
お菓子のカールを粉チーズの代わりに使ったスパゲティ「カールボナーラ」、ただでもらえる天カスをピザ風トーストに仕上げる「ドリームジャンボ宝カス」、お金がないときでも堂々と仲間と一緒にランチタイムを楽しめる「ほっかほっか亭 デラックス・ライス」(弁当の空き容器を使用、中身は全部ライス)、もやしで一週間食いつなぐレシピなどなど、馬鹿馬鹿しくも笑えるビンボー料理を全点写真付きで紹介。
雑誌「BURST」で連載されていた同タイトルに加筆・修正をほどこし単行本化。 なので、一人暮らしを始めた時は、わざわざボロボロのアパートを探した。江古田で、築数十年の木造、トイレ共同のアパートを見つけた。バブル真っ盛りの時代だったが、僕は貧乏生活を満喫していた。
そう、貧乏は楽しいのだ。仕方なく貧乏になるのは、辛いことだけれど、貧乏を楽しんでしまえば、気持ちも楽になる。背負うものがないってことは、なんて素晴らしいことなんだろう。
本書はライノ曽木が1997年から2002年にかけての「BURST」での連載をまとめたもの。プロフィールを見ると、ライノ曽木は僕と同じ年の1967年生まれ。というと、これを書いていたのは30代前半の頃か。世間的には、もうそろそろ若いから貧乏も平気なんてことを言っていられなくなっている年齢ではある。でもライノ曽木は、ひたすら貧乏を楽しんでいる。
駄菓子のビッグカツでカツ丼を作り、天カスだけの天丼を食らう。ファーストキッチンのベーコンエッグバーガーを持ち帰って解体し、ライスと味噌汁を添えて定食に変身させ、ワンタンのみのしゃぶしゃぶに舌づつみをうつ。どれも原価300円以下のメニューばかり。ちょっとウケ狙いで苦しそうなメニュー(肉まんの皮にベビースターラーメンをいれたラーメンまんとか、揖保乃糸を缶みかんの汁で食べるいぼかんとか...... )も多いが、基本的には「ちょっとやってみようかな」と思わせるアイディア料理だ。美味そうというわけではないのだが、やってみたら楽しそう。マズかったとしても、後悔はしないだろう。作って食べる、その行為自体が楽しいのだから。
そう言えば、同時期に発売された吉田戦車の『逃避めし』も、自分のためだけに料理を作る楽しさについて書かれた本だった。仕事場で一人、誰に気兼ねすることなく自分が食べたいものを作る料理がいかに楽しいか。同じく漫画家である妻の伊藤理佐との間に子供が出来たことにより、育児を分担するために仕事場を自宅に統合することになり、吉田戦車の自炊は終焉を迎えるのだが、そのくだりは心底寂しそうだった。
料理をすることは楽しい。外道であればあるほど楽しい。最近は料理の出来る男は女子受けがいいなんて風潮があって、邪な気持ちで料理を始める者もいるようだが、そんなことは速水もこみちにでも任せておけばいい。そんな料理に、真の喜びはない。
おそらくライノ曽木の友人なのであろう本書に登場する男女たちの楽しそうな表情を見よ。揃いも揃って金にはあまり縁のなさそうな顔だが、彼らは十分に人生を楽しんでいる。
文=安田理央
『正しい貧乏青年の食卓』(ポット出版)
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