「社会の窓」
(C) copyright 2009 Inbe Kawori★
2009.07.09.thr at 六本木「スーパーデラックス」
WEBsniper Special Photo Review
インベカヲリ★ グループ展 『美化されたタブー』
文=小菅智和(『VICE MAGAZINE』)
写真=インベカヲリ★
写真=インベカヲリ★
インベカヲリ★が撮る写真とは何なのか。グループ展『美化されたタブー』において「制服」をテーマに構成された10点の写真から、『VICE MAGAZINE』編集部の小菅智和さんにそのヒントを模索してもらいます。作品から色濃く漂うマイノリティの香り......そして女という性を独自に表現する若き写真家の魅力に迫る!
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先日、六本木はスーパーデラックスにて一日限りで行なわれたアートイベント『美化されたタブー』に足を運んだ。お目当ては写真家・インベカヲリ★の展示作品だ。半切で10点、"制服"をコンセプトに展示が展開されていた。これらを目の当たりにして、「なるほど、そう来たか」と納得させられる自分がいた。
アートイベント『美化されたタブー』での展示風景。
インベの下には多くの女性から連絡が来るらしい。つまり彼女たちは、1人1人がインベに撮られたいがため、思い思いのメールを送ってくるのだ。そうしてインベはメールの中からモデルを抜擢し、まずは一度モデルと実際に会う。そこで繰り広げられるのは撮影ではなく、数時間じっくり腰を据えての会話である。「そのコの人生を撮りたいんです」とインベは言う。
「モデルさんと初めて会う時は毎回3時間ぐらいしゃべって、そのコのコトを聞くんです。それで『インベさんの写真がスキです』と言ってくれるコは必ずと言ってイイほど、なにか抱えてるコが多くて。スゴく複雑な悩みを抱えてたり、話を聞いてもちょっと理解しづらいような、なにか特別な生き方をしている」
モデルの悩みや好き嫌い、あるいは人生観といった"カタチを帯びていないモノ"をインベは会話の中で紡ぎ、それらを元に撮影へと入る。作品『考える葦JK』では"白いモノしか食べない"という少女をとらえるため、ベッドの上に牛乳やヨーグルトといった白い食べ物を揃えて撮影した。作品『好奇心は猫を殺すか』では、ベッドに14台ものケータイを並べた少女がなにやら物思いに耽る様子が写し出されている。ケータイ依存症なのか、はたまた思いを寄せる彼からの連絡を待っているのか。現代日本の若者が依存するケータイへの揺れ動く少女の感情を見事に表現している。
ただ会ってなんとなしに撮るだけでは表現できないようなそれぞれの個性を大事にする彼女のスタンスは、近ごろの若手になかなか見られない〈写真家としての思いやり〉である。それが写真に色をつけるのだ。
さて、本作の展示のテーマについて考えてみる。今回の展示では撮り下ろしによる新作6点を含め、"制服"をテーマに10点の写真で構成されていた。
実は昨年、僕が所属する『VICE MAGAZINE』主催のPhoto Showをロサンゼルスで行なった際、彼女にも参加してもらった経緯がある。その時は彼女の作品を多角的に見せたいという狙いもあって、過去の作品からバランス良く抽出し、展示したのだが、どうしてどうして。あるいは"制服"というコンセプトこそ、インベ作品の醍醐味であったことに今回の展示で気づかされたのだ。
18才という、まさに少女とオトナの女性とを法的に区切る年代を境に着なくなる制服。だがひとたびそれをまとえば、如何なる年齢の女性であっても再び少女へと舞い戻ることが出来る。そうした"永遠の少女"を象徴する制服は、彼女の作品において重要なファクターとして度々登場する。
(C) copyright 2009 Inbe Kawori★
今回の展示作品の内容をつぶさに見てみよう。制服という"未成年性"をまとうと同時に、"母性"を象徴する赤ん坊を抱く女性の作品『新しいものたち』。はたまた作品『大人のお花畑』では、少女のような恥ずかしさを表情として露にしながらも、スカートをめくった先に広がるアダルトなアミタイツ。恥部には陰毛すら確認できる。作品『社会の窓』では、なぜかアタマにパンツを被った或る女性が誇らしげにタバコを手にしている。子供がするようなイタズラをしつつも、その表情とタバコを持つ仕草からは「それで? だからアンタはなにが言いたいのよ」といった乾いた感情が感じられる。
その誰もが、身にまとった制服の未成年性と実年齢とのあいだに明らかな差を催した女性ばかりだ。しかしそうしたギャップは、インベの世界観において、極めてすんなりと違和感なくハマッている。もはやインベの世界観は制服なしで成り立たないほど、それは不可欠なツールのようである。
(C) copyright 2009 Inbe Kawori★
しかし、オトコの写真家が小道具として制服を用いるのはまだ分かる。だがインベは紛れもない女性。そんな彼女がコレに執着するのは、自身もまた制服にそれなりの思いを馳せる人間だからだろう。作品『日本の文化遺産』において、彼女は自ら制服を身にまとい、セルフ・ポートレート形式で撮影。周囲に風俗誌やAVを散りばめつつ、その手に初代ファミコンのコントローラを持つその姿は、彼女の作品の全てを物語っていた。少女の未熟さと性的な成熟さ、その合間に挟まれたインベ本人。本人そのモノが、そうしたハザマでもがき悩む、等身大の現代女性なのだ。
「ハロー!キチー」
(C) copyright 2009 Inbe Kawori★
続けよう。キティちゃんのヌイグルミを抱きながら焼きそばパンを食べる女性の作品『ハロー!キチー』におけるその表情は、どこか虚ろでありつつも、しかし存在感を抹消させることなくレンズの先を見つめている。このように、インベの多くの作品においてモデルたちの表情には或る種の統一感が見え隠れする。素に近いそれとも言えるが、なにかがちがう。どこか、女性としての武器を利用しつつも、それでいて撮影の瞬間だけ異性を忘れて孤高の存在へと昇華するかのごとき眼差しだ。
言い得て妙。当たり前の話だが、彼女たちは実作業において異性を必要としない。女、女、女。それこそがインベであり、彼女の作品である。女という性を、しいて言うならこの時代の女性性を、頑なに男性社会を保ち続けるこの日本で表現するインベカヲリ★。彼女こそは、70年代当時に黒人やゲイ、あるいはSMカルチャーといったマイノリティを写真というツールで等しく捉えた写真家・メイプルソープの"ヤマトナデシコ版"なのかもしれない。
文=小菅智和(『VICE MAGAZINE』)
『VICE MAGAZINE VOLUME 5 NUMBER 11(Vice Japan)』
THE CONVERSATIONS WITH DISTINGUISHED GENTLEMEN ISSUE
VOLUME 5 NUMBER 11
CONTENTS:うすのろオタクにフェロモン投与。その成り行きを観察してみたら....../ミサイルを抱えたラストサムライ 羽柴秀吉は北との臨戦態勢万事OK/ドイツのバイブ製作工場/スペインの薬剤廃棄物処理場でウソを探る、他
価格:フリー
ナンバー:VOLUME 5 NUMBER 11
発行:Vice Japan
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「インベカヲリ★」
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