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2009.2/20 Fri.
Reception「CLASKA 2009」

「新しいスタイル提案の融合」を掲げる
リノベーションホテル『クラスカ』の新機能と
東京人による東京案内『Tokyo by Tokyo』の冒険


取材・文=井上文
取材協力=CLASKA

←リノベーションホテル「CLASKA」。前に立つと圧迫感のない可愛らしい外観。屋上からの景色がオススメだ。


外観も個性的&可愛い目黒のホテル「クラスカ」が提供する
ユニークなカルチャーの交差点を散歩してみる。
単なる「オシャレ」で処理するわけにはいかない
客と作り手のバトルロワイヤル的展開に期待を込めて――。
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東京・目黒の「クラスカ」は、築35年の古いホテルをリノベートして2003年に誕生したデザイン性に溢れたホテル。コンセプトは「新しいスタイル提案の融合」とのことで、「最新のカルチャーを知り尽くしたコンシェルジュ」が質問されるのをウキウキしながら待っているそうである。もちろん、それは作った側が言っていることなので、行く側は行く側で自分なりの楽しみ方を見つけたって構わない。コンシェルジュという生き物を知らなくたって展示物は楽しいし、レトロな階段は趣があるし、屋上からグルッと見られる夜景はとてもきれいだ。今回、初めて訪ねてみてなんとなく思ったのは、このホテルはあんまり自らオシャレ感を強調しないほうが面白い雰囲気になるんじゃないかなーということだった。

『Tokyo by Tokyo』という、この3月に「クラスカ」から出される本を読んでもそう思った。この本は東京に暮らす人たちが自分のオススメスポットを簡単に紹介(ひとり1ページ)するという、内側発信のガイドブック。すべてのスポットにGoogle Mapsで検索できるように緯度経度情報が書き込まれていたり、外国人が読めるように英訳も載っていたりしていて、親切。あるいはスタイリッシュ。写真がほとんどないのはGoogle Mapsで自分で調べたほうが楽しいという提案があるのだろう。


バイリンガル東京ガイドブック
“TOKYO BY TOKYO”

国内、海外から幅広くホテルゲストを集めるCLASKA が東京のガイドブックを作りました。「東京のことは東京の人に聞く」。人と場所のネットワークを通じて浮かび上がる、人それぞれの風景の中を、この本がスムーズに誘導します。

●ピープルガイドのようなシティーガイド
●70 人近いクリエイター達による200ヵ所の東京案内
●紹介スポットすべてに緯度経度情報(Google Maps 対応)
●完全バイリンガル使用 (日本語/英語)
●3月以降、一般書店にて販売予定(販売価格\1,200+税)
↑人と場所のネットワークを通じて浮かびあがる、人それぞれの風景へ読者を誘導。読むだけじゃつまらない。足かGoogleで気になる場所をチェックしよう。


「作品の中に泊まれる」7Fの新客室シリーズ「D.I.Y rooms@CLASKA」。Room701は寺山紀彦氏デザインの“someone’s atelier”は、アーティストの作業場をそのまま置いてきたイメージ。客室料金:¥13,650(1名利用、サービス料・宿泊税別)


「Mix room」にも参加しているさとうかよ氏デザインのroom702。タイトルは“パジャマ(pa jama)”で、テーマは「夢で見たことの断片」。客室料金:¥13,650(1名利用、サービス料・宿泊税別)


岡嶌要によるRoom707“scar”。「この部屋に使用されている材料は、古道具、倉庫で眠っていた物、捨てられようとしていた物、また再生可能な物です。客室料金:¥15,750(1名利用)、¥21,000(2名利用、サービス料・宿泊税別)
今回、「クラスカ」は新たに4つの機能を追加するリニューアルを行なった。案内の言葉をそのまま使えば「最上階に展開するクリエイターズマーケット=Mix room」「デザイナー自らハンドメイドした新客室シリーズ=D.I.Y room」「オリジナル企画を発表する場としてのギャラリー=room 302」そして『Tokyo by Tokyo』の出版である。

「クリエイター」も「デザイナー」も客からしたら裏方でいてくれればいいもので、それが前面に押し出されていることへの戸惑いが個人的にはある。しかし「クラスカ」が面白いのはジャンルを超えたボーダーレスな「場」として機能しようとしていることで、別に表面的なオシャレ感なんかに捉われて欲しいとは思っていないはずである。

「親切」なのか「スタイリッシュ」なのかという点で、たとえば『Tokyo by Tokyo』で発言している人の中にネクタイを締めて居酒屋で飲んでいるようなサラリーマンが出てこないことに、同じ戸惑いを覚えた。東京を知る上で、「70人近いクリエイター達による200箇所の東京案内」とある中の「クリエイター」にどんな意味があるのかと個人的には考えてしまう。それでもこの本で紹介されているマイナースポットの情報自体はそのまんま興味深いし、気になった場所をGoogle Earthのストリートビューでチェックするのは楽しいのだ。



左:3階にあるギャラリー&ショップ「DO」。文房具から食器、バッグなど様々な作品を見て楽しみながら購入できる。意外にリーズナブルなのでつい買いすぎそうに……。

右:デザイン、クラフトからアート、映像まで、ジャンルを問わず様々なクリエイターが3カ月サイクルで作品の常設展示、販売を行う「Mix room」。製作者自身がブースに立つこともあり、人が入るとフリーマーケットみたいになる。


「Mix room」の一隅にあるさとうかよ氏の作品。パッと見は可愛い。よく見るとネズミの標本。しばらく眺めた後、「うーん……好き!」と言ってしまう。おもろいです。
「クラスカ」が「場」としてあり、且つその素材の一部になっている「クリエイター」や「デザイナー」を主人公にしたいのではないのなら、ボーダーレスな状況はまだ、これから出来るということだろう。今回のリニューアルで作られた「場」は、人がガンガン往来し、活用されるためにあり、飾り物のオブジェとして処理されるわけにはいかないもののはずだ。様々なレベルの情報がインターネットに並列に掲げられ、脳内が常に情報のボーダーレス状態と化している今、そのボーダーレス自体を編集して能動的に提示するという挑戦は単純に面白くて、ワクワクさせる。評価が待たれているのは作品ではなく、これからの人の動きだと思って見ないともったいない。

その上で今回、個人的にやたら惹かれたのは、「Mix room」に展示されていた「さとうかよ」という作家のヘンな作品。白い壁に小さいネズミのぬいぐるみを大量にピン留めしてある。色とりどりで、よく見るとそれぞれに個性のある可愛いネズミたちなのだが、標本みたいだから死んでいる感が凄く出ている。でもやっぱり可愛いという……。

ちなみに「さとうかよ」は「D.I.Y room」の企画にも参加しており、客は「さとうかよ」の作品としての部屋(こっちのテーマは死体とかではなく夢の中みたいなファンシーな世界)に泊まることができる。料金は13,650円(1名利用、サービス料・宿泊税別)。

値段との兼ね合いで急にオシャレ感やハイソ感が大事なものに思えてきてしまったが、ここはやはり、「クラスカ」が秘めている冒険的な面白さへの期待をこそ強く上げておくことにしたい。

文=井上文


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CLASKA

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井上文 1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。

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09.03.09更新 | レビュー  >  その他