▲(C)Nintendo/Creatures/GAME FREAK/TV Tokyo/ShoPro/JR Kikaku/
(C)Pokemon/(C)2009ピカチュウプロジェクト
(C)Pokemon/(C)2009ピカチュウプロジェクト
結論から言おう。
この旅行記、否、受難あるいは編集者のライターに対する虐待行為。人間の魂が腐敗していく記録の示す教訓はただひとつ、「思いつきはよく検討せよ」の一言である。この国の歴史は思いつきによる屍で埋められている。私はここに、今いちど、力強く喚起する。思いつきは慎重に検討せよ。あなたの思いつきが人間を殺してしまうかもしれないのだから。
■七月末日
お家でゴロゴロしながらアニメを眺める簡単なお仕事に従事する私は「WEBスナイパー」に呼び出され都内某所に出ていた。外に出るとかマジめんどくさいしお家でアニメ見ていたいしもうすぐコミケだし一体何なの馬鹿なの死ぬの太陽の光がまぶしくて生きるのがつらい。
極まった陰鬱と憤怒と愛しさと切なさと心強さと部屋とYシャツと俺とお前と大五郎を浮かべた非常に味わい深い仏頂面の私を出迎えた「WEBスナイパー」担当氏が沈痛な面持ちで打ち明けたのは、かねてより温めていたにも拘わらず、誰に打診しても断わられてしまうという禁断の企画の依頼だった。
「WEBスナイパー」。その前身は「S&Mスナイパー」。泣く子もいびり快楽へ至らせるソドムとゴモラの背徳の園である。その「WEBスナイパー」が持ってきた、誰もが恐れ断わる企画。
死亡フラグのひるがえる鈍い音が響いた。アナルの処女にさよならの口付けを。間違いなく今日、私は、ここで貞操を失う。
そう確信させる何かがあった。
彼は言う。
「ポケモンスタンプラリーをコンプリートしてほしいんです」
視界が、酩酊した。
↑二度と見たくない地図。見返すだけで怨念を通り越して生きる気力がなくなる。
■一日目・新宿、熊谷
馬鹿馬鹿しいことが大好きで、こんな馬鹿げた企画は私がやらねばキャシャーンがやると思い引き受けてしまったが運の尽き。
かといって鉄道オタクでもなければポケモンもほとんど遊んだことがなく、ポケモンを陵辱するエロ同人誌が任天堂による制裁を受けたことしか知らないし、私の興味分野はスタンプよりむしろそちらだし、どうにかなるだろうと、何も考えずに現場へ向かうことにした。
ポケモンスタンプラリーは始発から終電まで開催されているわけではなく、朝の九時三十分から夕方四時までしか設置されていない。おそらく通勤ラッシュを避けているのだろうが、一日に五時間半しか行動できない計算だ。
九時三十分、新宿駅にて待ち合わせ。予算は有限、時間は無限に有り余る気のいい無職・荒川智則と共にミッションを開始する。
ポケモンスタンプラリーにはどうしても必要になるものがある。
まず参戦するための最低条件とも言えるスタンプラリー手帖を入手しなければならない。この手帖を手に入れるためには、スタンプラリー参加駅で配布されているパンフレットを貰い、六つ分の駅を巡りスタンプを押す必要がある。
六つ分のスタンプを押した後に「ゴール駅」と呼ばれる駅でポケモンスタンプラリー手帖とピカチュウのサンバイザーとかなんかいらないものが貰える。つまり我々はまだスタートラインにすら立っていないわけだ。
↑抽選でこれとか……もっとサービス精神がほしい。
↑ピカチュウルームライト。 ライトの上に乗っているピカチュウがスイッチになっているようだが、叩き割ってしまいそう。
そしてみどりの窓口で購入することができる都区内フリー切符。これは730円で首都圏、JRの駅なら乗り降りし放題な素晴らしい切符だ。スタンプは全て改札の外に設置されているため、これを買わなければ大変なことになる。95駅もの駅でいちいちお金を払わなければいけない。貧乏が加速して生活が破滅してしまう。
↑ポケモンスタンプラリーのパンフレットと都区内フリー切符。
我々はまずこの新宿駅から出発し、総武線を使い秋葉原へ向かう過程でスタンプを六つ入手し、スタンプラリー手帳を手に入れようという目論見だ。
しかし、いざスタンプの押印に及び、私の背中に電流が走る。
「ここにスタンプはありません」
なんたることか。ゴール駅はあくまでもゴールであり、まずは他所のザコ駅でスタンプを獲得してこなければならないのだと言う。
さらに、このスタンプラリーは最短でも四日はかかるらしく、この原稿の締め切りは三日後に迫っており、いきなり企画が倒壊しかねない展開。しかし内心は歓喜の歌が鳴り響いており、このくだらない苦難、破滅の思いつきが消滅するのなら未来永劫に世界がポケモンに統治されても構わない。
↑新宿駅、スタンプの押せないゴール駅。
↑同じく新宿駅にて。
さっそく電話をかけたところ忌むべき編集部I氏 は締め切りの延長を確約してくれた。本当に残念なことにポケモンスタンプラリーは継続されることになってしまった。
出鼻をくじかれやる気を失いビールを開けては任天堂の株価低迷を願う我々は、各駅停車で代々木駅を目指した。
と、いうわけで中央線を乗り換えながら神田駅で六つ目のスタンプを達成。東京駅でポケモンスタンプラリー手帳と記念品であるピカチュウのサンバイザーを入手。ここで冒険を終える人も少なくなさそう。
どうせ電車の中と改札の外を往復するだけの簡単なお仕事、たいして疲れもしないだろうし、車内は冷房が効いているのだから快適だろうと\xFB\xFCをくくっていたのだが、ホームから改札へ向かうための階段の上り下りが予想外に重労働。さらに普段は見向きもしない駅で降りまくるためスタンプの設置されている出口がどこだかわからずストレスが蓄積、気分が沈殿していくし、エアコンと猛暑の繰り返しに気分も悪くなってくる。
↑千駄ヶ谷なんて地味な駅にポケモンの代表ピカチュウが。
↑神田駅にて六駅分コンプリート。俺たちの戦いはこれからだ。
↑東京駅、ゴール駅にてサンバイザーとスタンプラリー手帳をゲット。
↑東京駅、手帳の交換場所には教育的なポスターが多数貼られていた。
↑東京駅、手帳とサンバイザーとゲットして戦いに向かう子供たち、戦友にしてライバル。
まだ六駅しか経由していないのに疲れ果て、やる気がみるみる失われた我々は東京駅から秋葉原へ移動。昼食を取りつつビールを飲む、在りし日の元気な我々(写真)。予想外に酔いが回ってしまい、思考能力が無効化されてしまったので「熊谷にいこう!熊谷!」などと安直に行き先を決定した。
↑秋葉原、在りし日の元気な野生のピカチュウ。
↑秋葉原駅、ここのスタンプはシークレットだが子供はあまりいなかった。
↑秋葉原駅のシークレットスタンプ。ピカチュウとピチュウ。
↑秋葉原、エロゲーのポスターとポケモンバトル中の野生のピカチュウ。
しかしこれが大きな間違いだった。そもそも熊谷が何県なのかもしらないし、そんな地名も今回はじめて知ったし、そのような場所へ向かうべきではなかった。
秋葉原から京浜東北線を使い、埼玉方面へ。上野、日暮里、西日暮里などの都内近郊は千葉方面へ行くときに通るだろうから降りずに通過する。
各駅で我々と同じ目的の子供達が無数に降りていく、なぜだかわからないが彼らはスタンプの設置場所を本能的に知っているようで、いちいち案内を探すよりもピカチュウのサンバイザーを被った子供の後を追いかけるだけのストーキング・マシーンに成り果てるほうが楽と判断し、つきまとった。
首都圏から離れるうちに徐々に駅の間隔が長くなり、流れる景色も緑が増えて地方都市めいてくるのだが、ここに至り、もはや我々の口数は少ない。だいたいポケモンにも鉄道にも興味のない二人がポケモンスタンプラリーに参戦したところで魅力を見出すことなどできるわけがない。最果ての地、寝過ごしたら取り返しのつかない場所という認識しかなかった大宮へ自らの意思で訪れることがあるなんて夢にも思わなかったし、ここからさらなる最果て、熊谷へ行かなければならない。同行した荒川も人生の無情を感じ入りもはや目のハイライトは消えている。長閑な風景を長めながら人はなぜ生まれ、生き、死んでいくのか、生命とはなんなのか、ぽつりぽつりと話し出す荒川。どうやら脳が腐敗したらしい。
午後三時三十分、熊谷。
こんな場所にでもポケモンスタンプラリーの参加者らしい人々がちらほらと見受けられる。大人や中高生が多い。スタンプを押すだけの簡単なお仕事を終えて、もう一駅くらい押せるだろうかと思ったが大宮まで最短でも三十分かかることが発覚し、試合終了。
↑熊谷駅。
↑熊谷駅、防犯ポスターに採用された朝倉南さん。
↑記憶にない駅。普通に駅を利用している普通の日常に戻りたい。
↑熊谷駅、都内では絶滅してしまった喫煙所が生き延びている。レアポケモンと呼べる。
↑誰も居ない熊谷駅。ポケモンスタンプラリー参加者しかいない駅。
↑全く知らないポケモンだが、きっと強敵なんだろう。強敵であってほしい。最強ポケモンに認定する。
余談だがこの長大な道程で精神が破綻、熊谷の美しい自然を守らなければならない、日本国家を防衛しなければならない、とうわ言のように繰り返すだけの壊れた人形に成り果てた荒川は航空自衛隊に入隊した。
↑熊谷の大自然に感動して航空自衛隊に入隊してしまった荒川。
関連記事
WEB sniper holiday's special contents
2009年・夏!連休特別企画
ばるぼら × 四日市対談『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 : 破』
【前篇】>>>【後篇】
四日市 エヴァンゲリオン研究家。三度の飯よりエヴァが好き。クラブイベントにウエダハジメ、有馬啓太郎、鶴巻和哉らを呼んでトークショーを開いたり、雑誌に文章を載せてもらったり。プロフィール画像は昔描いた三十路魔法少女漫画。 |
09.08.12更新 |
特集記事
|
|