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It's a problem of great urgency!
都条例改正問題徹底レポート!!
18歳未満に見えればアニメやマンガのキャラクターでさえも「非実在青少年」として性的表現の規制対象とする、東京都の青少年育成条例。3月19日、東京都総務委員会は都知事が提出していた青少年条例改正案の「継続審議」を決定した――。今後の展開ついて、また現在入手できる情報について、永山薫さんに分かりやすく整理してレポートもらいます。
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■4月はパブコメ開示に注目!

3月19日、東京都総務委員会は都知事が提出していた青少年条例改正案の「継続審議」を決定した(同月30日の都議会定例会採決で確定)。廃案ではなく、あくまでも継続審議であり、可否は6月開催(その次の9月)の都議会に再提出されることになる。ちなみに知事提出の条例案が継続審議となったのは初めてのことらしい。
今後の展開としては、まず、4月中に予定されているパブリックコメント(以下・パブコメ)の開示に注目すべきだろう。

これらの団体は答申素案の意見募集期間中にパブリックコメントを提出したが、答申素案が承認された東京都青少年問題協議会第2回総会では特に触れられなかった。パブリックコメントが答申案にどの程度反映されているのか。あるいはされていないのかは明らかにされていない。

CNET Japan
「ネット事業者らが一斉反対--東京都「青少年健全育成条例」改正は何をもたらすか」
(編集部・鳴海淳義・3/16)
より。

同記事にいう「これらの団体」とは、一般社団法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)、一般社団法人インターネットコンテンツ審査監視機構(I-ROI)、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)を指す。もちろんパブコメは他の団体・個人からも多数提出されている。青少年問題協議会がこれら「都民の声」をどこまで考慮したのか不明なのも問題だが、協議会答申に基づいて都知事が提出した青少年条例改正案の審議に当たる民主党都議が都条例改正案審議に必要として開示請求を行なったにもかかわらず、東京都議会定例会会期中の開示が行なわれなかったのは二重に問題だろう。これでは「都民の声を隠蔽した情報操作」「審議に対するサボタージュ」と非難されても仕方あるまい。「都がどんな形で開示するのか?」を含め、しっかりと確認しておく必要があるだろう。


■大阪にも波及する規制の波

東京都条例の問題は、都だけに止まらない。情報と流通が高度に集約される首都だから当然の話だが、それだけではなく都の行政が他の道府県のモデルケースとなるという意味での波及効果は大きい。
今回の青少年条例改正案と関連する動きは、すでに大阪、京都、神奈川でも起きている。
まず、大阪府の動きから見ていこう。

大阪府は、漫画やアニメなどで18歳未満の子どもを性的対象として扱う児童ポルノなどの図書類の実態調査を4月から始める。府が25日、発表した。東京都の条例改正の動きに呼応し、橋下徹知事がトップダウンで指示した。今秋にも報告をまとめ、条例による規制の必要性を判断する。

毎日jp「大阪府:児童ポルノなど実態調査--来月から」
(福田隆・3/26)
より。

同記事によれば、3月19日に橋下知事は
「表現の自由は大切だが、絶対的なものではない。透明なプロセスを確保し、子どもたちを守れるようにしていきたい」
と述べていたそうだ。

この調査について、大阪府は報道資料として下記の文書を公開している。

\x87@図書類等の実態把握
・児童ポルノ(インターネット上の流通実態等)
・青少年を性的対象として扱う図書類等
・青少年性的視覚描写物
→18 歳未満を対象としたこれらの図書類等の流通、区分陳列の状況等を把握
→有害図書類指定制度でどの程度規制できているか
→青少年がこれらの図書類等に接する機会がどの程度あるのか
\x87A青少年育成関係者の課題認識の把握
PTA、学校、教育学、児童福祉関係者、少年非行防止関係者、性教育関係者、
思春期精神医療関係者 等
→青少年に対して与える影響等
\x87B実態調査等を検証、分析した上で、規制の必要性等を検討するための基礎資料を
作成(審議会を活用)

大阪府青少年・地域安全室少年課
「青少年を性的対象として扱う図書類の実態把握・分析について」
(3/25)
より。

東京都青少年の健全な育成に関する条例改正のポイントと大阪府の考え方

現時点では調査方法や基準は不明である。大阪府は有害図書指定について審議会審議を経た個別指定の他に、審議会を経ずに、書籍中の性的な表現をページ数や動画等の分数に自動的に指定できる包括指定制度を設けており、すでに東京都の現行条例よりも厳しく、また、上記の報道発表には「女性向けコミック誌の規制、ボーイズラブの規制検討」と明記されており、すでに女性からも反発と懸念の声が上がっている。また、大阪府が公開している「府民の声」には3月27日~4月2日の間に212件の意見が寄せられ、「主な意見」として掲載された5件はいずれも反対ないしは慎重な立場からのもの。中には「表現の自由を軽視する発言は人権問題なので控えて下さい」と3月19日の府知事発言への批判も含まれている。

大阪府「最近1週間の府民の声:平成22年3月27日(土曜日)から4月2日(金曜日)まで」
大阪府「最近1週間の府民の声:平成22年4月3日(土曜日)から4月9日(金曜日)まで」

大阪府では過去に堺市立図書館におけるBL図書撤去騒動が起きており、府の調査、規制強化によっては、この問題が再燃することも予想できる。また4月3日付けの産経ニュース「橋下発言に抗議メール400件わいせつ漫画規制で」は、反発の大きさを物語っている。同記事によれば、大阪府は4月中にも調査を開始するが、「事前の反響ぶりに『規制すると決まったわけではない』と説明している」と述べているそうだ。


■京都府知事が世界一厳しい児童ポルノ規制をマニフェストに明記

4月12日投票の京都府知事選挙に立候補し、三選を狙う山田啓二現知事が3月19日に公開したマニフェスト「みんなの未来設計図・しあわせ実感・希望の京都をつくる」には、「児童ポルノ規制条例の制定日本で一番厳しい「児童ポルノ規制条例」をつくります」と明記されている。
公開日が東京都青少年条例改正案の継続審議決定と、橋本大阪府知事の「実態調査」発言と同日というのがなにやら気になるところではある。しかも、山田候補のマニフェストは、現状認識についても施策についても一切触れていない。
これでは不安視するなというほうが無理というもの。
この不安に応えるかのように、投稿ニュースサイト、スラッシュドット・ジャパンに日記を掲載するt_mrc-ctは、実際に山田陣営に電話取材を行なっていた。

事務所の人が「『候補者本人の思い』を聞いた内容のメモ」の内容を伝えてくれました。
・インターネット上に氾濫している児童ポルノをなくすために、フィルタリングを強化したい。
・子どもたちが性犯罪に巻き込まれない様にするのが目的なので、アニメやマンガに対する規制は考えていない。
・単純所持を処罰対象にするか等、細かい部分については府議会での議論を通じて詰めていきたい。
という感じのようです。電話口で聞いた内容を走り書きしただけなのであまり正確じゃないかも。

t_mrc-ct の日記
「PM 07:58 京都府知事選 山田候補の『日本一厳しい』児童ポルノ規制は二次元含まず」
(3/29)
より。

これを読んで一安心と言いたいところだが、あくまでも問い合わせに対する「事務所の人」の「代読」であって、山田候補の直接の発言ではない。マニフェストに追記もされていないし、山田候補のブログ「やまだ通信」も、公職選挙法の制限によって更新が停止しているので、確認がとれない。しかも、山田候補は以前にこういう発言を行なっている。

子どもを性行為の対象とするコミックの有害指定等についてでございます。私も担当課が持ってきたものをちらっと眺めたのですけれども、よくこんな漫画があるなというくらいひどいものが今はんらんをしております。皆さんもご存じでしょうけれど、13歳未満の子どもとの性行為というのはそもそも犯罪です。こういった犯罪行為を描くというのは、社会現象としてやはり不快を通り越している。そういう状況に今こういう漫画は来ているのではないかと私は思います。

京都府知事会見
「子どもを性行為の対象とするコミックの有害指定について」
(2007/6/7)
より。

ちなみに同会見で、山田知事は「13冊一挙に指定をしていく。おそらく全国でも初めて」と自賛している。つまり、青少年条例と児童ポルノ規制条例は別ということなのだろう。
では対立候補の門ゆうすけ氏はどうだろうか? 門候補の公式サイト「いのちの平等『暮らしの再生』へ」には、山田候補のマニフェストに対する質問が数多く寄せられたという。門候補は告示直前の日記でこう述べている。

私は、3月21日付け「東京都青少年保護条例改正案について」でも書きましたが、この案については、「拡大解釈による恣意的な運用が可能」「表現の自由の侵害」であり、反対です。

日本で一番厳しい「児童ポルノ規制条例」という文言しか出てきませんので、コメントしにくいのですが、言論の自由に関わる問題で慎重に議論すべきです。

リハビリコラム
「日本で一番厳しい『児童ポルノ規制条例』」
(3/24)
より。

文中の「3月21日付け『東京都青少年保護条例改正案について』」では都条例改正案の問題を指摘し「私は、明確に反対します」と締めくくっている。
京都には京都精華大学、京都国際マンガミュージアムがある。漫画研究者のメッカでもあるし、後者は研究者のみならず漫画愛好者やレイヤーの交流の場でもある。当地での漫画規制がこうした成果に悪影響を与えなければいいのだが。
この原稿を書いている途中で山田候補の三選が決まった。選挙期間中にマニフェストへの問い合わせが多かったと思うし、少しでも表現者、漫画読者の懸念が伝わっていればいいのだが。少なくとも「ちらっと眺めただけ」で「はんらんしている」と断言する愚は繰り返して欲しくないし、知事を支援した(規制に慎重なはずの)民主・社民両党も山田知事の言動には注意して欲しいものだ。
と書いてる端から、山田知事がフィルタリング義務化を検討と明言したとの報道が……。

中日新聞「京都、フィルタリング義務化検討府知事3選の山田氏」(共同・4/12)


■神奈川はネット規制強化?
神奈川県は09年12月に「県では、最近の青少年を取り巻く社会環境の変化などを踏まえ、この条例の見直し作業を進めています」として「神奈川県青少年保護育成条例の見直しの考え方」を公表し、パブリックコメントを募集した(募集期間:12月3日~1月11日)。同「考え方」には現行条例の主な規制内容として、以下の5項目が紹介されている。

・深夜外出(23時~4時)の防止
保護者は、特別な事情もなく青少年を深夜に外出させてはいけません。
誰でも、青少年をその保護者の承諾なく深夜に連れ出してはいけません。
・有害な環境からの保護
有害図書類(成人向けの雑誌・ビデオなど)を青少年に販売してはいけません。
有害がん具類(大人のおもちゃなど)を青少年に販売してはいけません。
・有害な行為の禁止
出会い喫茶(一時的な交際を仲介する営業)は、青少年を立ち入らせてはいけません。
青少年にみだらな性行為やわいせつな行為をしてはいけません。
・条例の実効性を高めるための規定
県は、条例の規制対象となっている店舗に立入調査を行い、指導などを行います。
この条例には罰則もあるので、警察が取締りを行っています。

深夜外出禁止条項ひとつを見ても、治安対策的な色彩が強い条例である。また「条例の見直しの考え方」では「現在の社会環境に対応した規定の整備」として、次の3点を掲げている。

・青少年の深夜外出の増加への対応
青少年を深夜に連れ出す保護者への対応について検討します。
青少年の深夜外出を誘発する深夜営業の増加への対応について検討します。
・インターネット対策の推進
青少年に普及している携帯電話への対応を中心に、青少年を有害情報から守るための対策などについて検討します。
・有害な営業への対応
青少年の健全育成を阻害するおそれのある新たな営業などへの対応について検討します。

参考:神奈川県青少年保護育成条例(全文)

表現規制と直接かかわる項目としては「インターネット対策」ということになるだろうし、これに対しては、社団法人電気通信事業者協会がパブリックコメント「『青少年保護育成条例の見直しの考え方』について」を公開している他、慎重な論議を求める声が上がっている。
また、パブリックコメント募集に対する反応は以下で確認できる。

「青少年保護育成条例の見直しの考え方」に関する意見募集の結果について

神奈川県青少年保護育成条例の見直しの考え方に関する意見募集結果(アンケート)

県民意見整理台帳:神奈川県青少年保護育成条例の見直しの考え方に対する提出意見及び県の考え方

神奈川県は2005年に、全国に先駆けてゲームソフトに対する有害指定を行なっている。今回の条例案見直しは、ネット規制(フィルタリング義務化など)が中心になると予測できるが、今後提出されるであろう県青少年条例改正案を精査する必要がある。


■論戦が始まる?
6月都議会を前に、様々な動きが起こっている。規制強化反対または慎重な立場を取る団体や個人がそれぞれ声明を発表している。
ニコニコ生放送では3月27日に「MIAU Presents ネットの羅針盤『大激論! 都条例改正案に賛成?  反対?』」と題して津田大介(MIAU代表理事)、東浩紀(東京工業大学世界文明センター特任教授)、藤本由香里(明治大学国際日本学部准教授)、白田秀彰(法政大学社会学部准教授)、おがわさとし(漫画家)、田中秀臣(経済学者、上武大学ビジネス情報学部教授)が出演。「賛成? 反対?」と題されているもの、賛成派は出演せず。
賛成派と反対派が激突したのは3月29日のBSフジ「プライムニュース『都の条例改正案の是非新たな規制は必要か』」だった。猪瀬直樹(東京都副知事)、渡辺真由子(慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所非常勤講師)、里中満智子(漫画家)、藤本由香里が出演。猪瀬副知事は手慣れたディベート術を駆使し、優勢と見る向きもあるが、担当部局から副知事の元にあまりデータが上がっていない印象を受けた。


↑BSフジ「プライムニュース『都の条例改正案の是非 新たな規制は必要か』」(3/29)


副知事の「表現規制ではなくあくまでも棚区分の問題」「現行条例ではエロは規制できるがロリは規制できない」といった意味の発言はかなり強弁に近い。ただ、これは筆者の私見なので、実際の録画を参照して頂くほうが間違いないだろう。

ダイジェスト版:http://www.bsfuji.tv/primenews/movie/index.html
完全版 1:http://www.youtube.com/watch?v=iMRQ2i11v4g
完全版 2:http://www.youtube.com/watch?v=n3P4g9cO0WQ
完全版 3:http://www.youtube.com/watch?v=a8NCF9tbTtk
完全版 4:http://www.youtube.com/watch?v=Wi6LSk4ayIc
完全版 5:http://www.youtube.com/watch?v=_3zefy0vGWM
完全版 6:http://www.youtube.com/watch?v=q5qTIdj-HY8
完全版 7:http://www.youtube.com/watch?v=Mz_JRBcxCg0

規制強化推進または賛成の立場の人々の発言は例によって体感で裏付けのない一定のフォーマットに従ったものが多く、発言自体も少ない。では、「推進・賛成」派と目される人々が大人しいのかというとそうではない。
たとえば内閣府男女共同参画局の「女性に対する暴力に関する専門調査会」が3月18日に公開した報告書「『女性に対するあらゆる暴力の根絶』について」では「子どもに対する性暴力の根絶に向けた対策の推進」の具体策として、表現規制の検討まで踏み込んでいる。

(5) 広報啓発活動を始めとする国民運動の実施、インターネット上の児童ポルノ画像の流通・閲覧防止対策等、児童ポルノの根絶に向けた総合的な対策を検討・推進するとともに、併せて児童ポルノ法の見直し(単純所持罪の新設、写真・映像と同程度に写実的な漫画・コンピュータグラフィックスによるものの規制等)について検討する。

この「写真・映像と同程度に写実的な漫画」というフレーズは東京青少年問題協議会答申の中の「写真やビデオと同程度にリアルに描写した漫画」(P48)とほぼ同じである。もちろん、これは偶然ではない。委員名簿を見れば、そこには東京都青少年問題協議会の部会長・前田雅英教授(首都大学東京法科大学院)、委員の後藤啓二弁護士(ECPAT/ストップ子ども買春の会顧問)の名前を見つけることができるからだ。
後藤啓二弁護士は元警察官僚で一貫して児童ポルノ・児童買春問題にコミットしており、3月26日、外務省で開催された「児童の権利条約に関するシンポジウム~今後の課題~」(日本ユニセフ東京事務所・財団法人日本ユニセフ協会協賛)に出席し、外務省、ユニセフ関係者、外国人警察関係を前に興味深いスピーチを行なっている。その内容に関しては「ボーイ0」がブログ「LOVE&PEACE」で録音から書き起こして紹介しているので参照して欲しい。

ちなみに男女共同参画局の担当は社民党の福島瑞穂大臣。専門調査会の人選が前政権の置き土産だとしても、新政権なのだから偏向がないかチェックすべきだろう。
さて、東京都庁の動きも気になるところだが、山口貴士弁護士のブログによれば、火消しにやっきになっているようだ。山口弁護士は都の言い分「青少年の性を取り上げた作品一般が規制の対象になるわけではない」を批判し、次のように述べている。

規制を不健全図書指定という観点から見た場合には、東京都の言い分は嘘とまでは言えません。

しかしながら、東京都の意図が説明通りのものだとすれば、第8条第1項第2号を追加する旨の条例案を提出すれば、済む筈です。

今回の改正案のポイントは、規制推進派に表現狩りを正当化するための法的な根拠を与え、東京都は、規制推進派による「市民運動」の背後に隠れて、責任逃れを図ることを可能にする点にあります。

弁護士山口貴士大いに語る
「【欺瞞情報に】東京都の欺瞞的な宣伝工作【惑わされない】

前回も触れたように都は条例改正案への批判の高まりに対し「誤解されている」を繰り返しているのだが、ほとんど説得力がないばかりか、かえって矛盾を追及される始末だ。条例案の文言自体を見直して、誤解のない改正案を再提出したほうが早いのではないか?
筆者は、青少年条例自体の存在に疑問を持っている。ただ、包括指定がないこと、都の運用の実態が他の地方自治体に比較すれば穏当であること、業界との協同によって一定の秩序を保ってきたことを否定するものではない。しかし、この「ある種の均衡」はすでに崩壊したと考えるべきなのかもしれない。逆にいえば青少年条例自体の意味を、「健全」という概念の扱い方を、再考すべき、いい機会だと思う。

●参考
東京都青少年問題協議会:メディア社会が拡がる中での青少年の健全育成について答申(平成22年1月14日)

東京都青少年問題協議会名簿

女性に対する暴力に関する専門調査会委員名簿


■ネットの加速度とマスコミの危機と
都条例改正案問題に始まる表現規制論議では、強引とも思える手法でムチャな改正案を通そうとした都庁に対する批判が高まっている。しかし、それと同じくらい不信の目を向けられているのがマスコミではないか?
まず、報道が完全に後手に回ったことが大きい。マスコミは何をやってたんだ!?と責めることもできるが、これはまだ同情の余地がある。筆者は青少年問題協議会を取材し、答申の中身についても知っていた。前にも書いたようにこの答申自体に問題はあるものの、協議会の議事録の暴走ぶりから見れば抑制的だった。「非実在青少年」なんて概念はなかったし、漫画・アニメの規制についても、フォトリアルな表現について限定していた。この答申をベースに改正案を作ったとして、これより酷くはなるまいと思い込んでいたのだ。実際、規制強化を訴える委員の一人も筆者の質問に「誰もポンチ絵を取り締まれとは言ってませんよ。なのに勘違いして騒ぐ」と答えたほどだ。甘いと言われても仕方がないが、協議会答申と実際の都条例改正案の間には予想できないほどのギャップがある。これが報道関係者の出足が遅れた原因の一つだろう。まあ、筆者の言い訳でもあるのだが。
ネット上で、この問題を最初に採り上げたのが、2月27日付け「無名の一知財政策ウォッチャーの独言」ブログだ。同日「痛いニュース」が「東京都「顔や声が18歳以上に見えない二次元キャラを『非実在青少年』と定義して規制する」」と採り上げた。翌28日には漫画家の高河ゆんがTwitterで言及するなど、じわじわと情報が広がり始める。しかし、この時点では、まだ、一部の人しか気づいていない。3月6日には「東京都青少年健全育成条例改正問題のまとめサイト」が立ち上がり、7日にはコンテンツ文化研究会が緊急集会を開催。
同じ頃、藤本由香里がML、DMを使って積極的に情報発信を開始。このあたりからmixi、Twitter、ブログを中心に情報が野火のように広がっていく。
それでもまだ大手マスコミは気づいていなかった。ネットニュースの大手、ITmedia Newsが「漫画・アニメの『非実在青少年』も対象に東京都の青少年育成条例改正案」と報道したのが3月9日。
既存の通信社の最初の配信はさらに三日後の47NEWS「野放しの漫画児童ポルノを規制へ都条例改正案、反対論も」(12日付け協同通信社配信)だったわけだが、見出しだけを見てもわかるように、ネットを中心に情報を追ってきた人間から見れば、何も理解していない上に、形だけバランスをとった偏向報道にすぎなかった。
大手新聞では、朝日新聞が16日に「アニメ・漫画・ゲームの児童ポルノ規制都が条例改正案」と報道。内容は穏当とはいえ、これも見出しが、あたかも「アニメ・漫画・ゲーム」がすでに「児童ポルノ」であるとの前提で書かれている。
筆者は一部を除き、マスコミと記者の「善意」を疑うつもりはないが、あきらかな不勉強、無神経ぶりを露呈するケースが多かった。情報収集能力、リテラシー能力でネットユーザーのほうが大手マスコミに勝ってしまうようでは、マスコミの存在価値自体が問われることになる。
あと報道で気にかかるのは、偏向報道という批判を恐れるあまり、独自取材による分析ではなく、それぞれの代表的論客(里中真知子、竹宮惠子、藤本由香里、アグネス・チャン、猪瀬直樹)に語らせる両論併記形式を採っていることが多いということだ。マスコミはいつから報道ではなくディベートの場になったのだろうか? 釈迦に説法かもしれないが、ジャーナリズムとは対立した言説をただ併置するだけではなく、双方の言い分を調査し、分析し、自分の責任で報道することではないのか?
無数のネットユーザーが情報収集と発信の手段を手に入れた今、従来型の報道はビジネスとして危機的な状況にあるという認識を持つべきだと思う。筆者は基幹マスコミがやるべきことは多いと考えているし、信頼できるニュースソースとして踏ん張って頂きたいと思う。


『週刊SPA!』2010年03月23日発売号 (0330号)


定価:390円
発売:2010年3月23日
出版社:扶桑社

↑新聞、テレビに対して週刊誌は雑誌としての姿勢を出しやすい。「週刊SPA!」(3/30・扶桑社)は昼間たかし取材の「[マンガ&アニメ]弾圧条例の狂気」という特集記事を掲載。同時に勝谷誠彦の巻頭コラム「ニュースバカ一代」でもこの問題を採り上げ、さらには鈴木大介がチャイルドポルノの実態を取材した「娘の裸を売る母親たち」を掲載。


■結び
最後になるが、筆者は今回の「騒動」は様々な事柄を考え直し、問い直すいい機会だと捉えている。都条例改正問題の結末がどうなるかは判らない。
いくらでも推測は可能だろうが、この時点では意味がない。
ただ、どんな結末を迎えても、それで終わりではないとだけは言っておこう。
とりあえず、筆者はアンテナを立てつつ、熟考し、やるべきことを粛々と進めることにする。(文中敬称略)

文=永山薫

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【重要】都条例「非実在青少年」の規制について - [mixi]藤本由香里の日記

2010-03-08 - 9月11日に生まれて(上記を転載した永山薫のブログ)

【表現規制反対!】東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案【問題多すぎ!】ver 3(シンプル・イズ・ベスト版) - 弁護士山口貴士大いに語る

「東京都青少年健全育成条例」の改定案について - 全国同人誌即売会連絡会

都条例「非実在青少年」規制問題について - たけくまメモ

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永山薫 1954年大阪生まれ。近畿大学卒。80年代初期からライター、評論家、作家、編集者として活動。エロ系出版とのかかわりは、ビニ本のコピーや自販機雑誌の怪しい記事を書いたのが始まり。主な著書に長編評論『エロマンガスタディーズ』(イーストプレス)、昼間たかしとの共編著『マンガ論争勃発』『マンガ論争勃発2』(マイクロマガジン社)がある。
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10.04.18更新 | 特集記事  >  特集
文=永山薫 |