Special issue for Silver Week in 2009.
2009シルバーウィーク特別企画/
WEBスナイパー総力特集!
『ゼルダの伝説 4コママンガ劇場』著者=牧野博幸 出版社=エニックス 発売=1992年03月26日
特集『四コマ漫画とその周辺』
ドラクエ四コマから現在へ
いつしか一つの文化圏を築き上げた「萌え四コマ」、そして若年層に向けて発信されてきた「ゲームパロディ四コマ」。オタク文化圏の深部に存在するこの2ジャンルが作り出してきた、ユーザーをも抱きこんだ物語とその行方とは――。オタク文化のダイナミズムを垣間見る、「ドラクエ四コマ」マニアック・レポート!!
2009シルバーウィーク特別企画/
WEBスナイパー総力特集!
『ゼルダの伝説 4コママンガ劇場』著者=牧野博幸 出版社=エニックス 発売=1992年03月26日
特集『四コマ漫画とその周辺』
ドラクエ四コマから現在へ
いつしか一つの文化圏を築き上げた「萌え四コマ」、そして若年層に向けて発信されてきた「ゲームパロディ四コマ」。オタク文化圏の深部に存在するこの2ジャンルが作り出してきた、ユーザーをも抱きこんだ物語とその行方とは――。オタク文化のダイナミズムを垣間見る、「ドラクエ四コマ」マニアック・レポート!!
1999年に『電撃大王』で連載を開始され、2000年早々に単行本が発売されたあずまきよひこの『あずまんが大王』に出発し、2002年に芳文社から創刊された『まんがタイムきらら』やその姉妹誌で連載されている作品群、その周縁が「萌え四コマ」と呼ばれ、一つの文化圏を築き上げていることは、WEBスナイパーをごらんになるような紳士淑女の皆様には周知の事実と思われる。
SHAFTからアニメ化された蒼樹うめ『ひだまりスケッチ』は好評により第三期の制作が決定し、京都アニメーションによってアニメ化されたかきふらいの『けいおん!』のエンディング曲はオリコン一位を獲得、タワーレコード渋谷店では初音ミクのベストアルバムと共に平積みにされていたのが(筆者の)記憶に新しい。
この「萌え四コマ」というジャンル、「セカイ系」と同様に定義が曖昧で、萌える前に「萌えとはなんぞや」と立ち止まってしまうひとには理解のし難い漫画群ではないだろうか。おもしろさがわからない人も多いと思うがオタクの過半数もおもしろいと思っては読んでいないはずなので安心してほしい。ひょっとしてこれはつまらないのではないだろうか、と疑心暗鬼に駆られながら読んでいる。しかし消費とはいつだってそういうものだ。
そんなつかみ所のない萌え四コマではあるがかなり強引に括ってしまうのなら、物語を探求することによって世界を拡大していくのではなく、学園やクラブ活動など枠組みの固定された世界観、記号に寄り添うように繰り返されるお約束の掛け合いによって強化されていくキャラクターなどが挙げられる。特に後者の要素が重要で、キャラクターが出揃ってからの萌え四コマは掛け合いの繰り返しのみで物語を駆動しているとも言える。これは非常に二次創作的で、多くの萌え四コマ作家が同人市場から発掘されてくるのも納得がいく。
そして同様に二次創作的な四コマ、というか二次創作そのものだが、若年層に向けて発信されてきた四コマが存在する。もったいぶっておいてなんだがゲームパロディ四コマのことである。
『ドラゴンクエスト』のパロディに代表されるエニックスの『4コママンガ劇場』、双葉社の『4コマまんが王国』などが代表的だが、ものすごい量が存在するので今回はドラクエに絞って紹介することにする。コミックゲーメストの読者投稿がメインだったゲーパロ四コマグランプリなんかも存在し、本当に収拾がつかない。
■4コママンガ劇場
『4コママンガ劇場』の執筆陣はエニックス、現在はスクウェア・エニックスから刊行されている『ガンガン』、『ガンガンファンタジー』で連載を持っていた作家により始められ、読者投稿コーナーの設置以降は投稿から新人を抜擢、後にエニックス系の漫画雑誌で連載を持つケースが多く、現在のコミケとオタク系商業誌の関係を彷彿とさせる。
有名どころでは『南国少年パプワ君』とその二つの未来である『自由人HERO』と『未来冒険チャンネル5』(後者はアニメージュコミック、未完)、ファミ通の名物となった『ドギばぐ』のシバッタアーミンこと柴田亜美、『魔法陣グルグル』『Pico☆Pico』の衛藤ヒロユキ、『レヴァリアース』『幻想大陸』『刻の大地』など複数の作品を同一世界で展開させ愛読者に設定深読み癖を身につけさせた夜麻みゆき、『Z MAN』(桂正和ではない)、現在はヤングアニマルで『職業・殺し屋』を連載する西川秀明らも四コママンガ劇場出身である。
■ゲーパロ四コマの作った土壌
ドラクエにしてもゼルダにしてもスーパーマリオにしても、ゲームの主人公は感情移入のためか、個性はあるのに人格の描写が少なく、作家による自由度が高い。連載を続けるうちに作家の中でキャラが強化されていき、「衛藤ヒロユキのミネア」「タイジャンホクトのミネア」など、基本的には同一人物なのだが全く違う性格という、言葉の上では完全に矛盾している事象が起きる。しかしそれを読者が不自由に感じない、当たり前に読めたからこそドラクエ四コマは2006年、全22巻のロングランを続けられた。
惣流・アスカ・ラングレーと式波・アスカ・ラングレー、あるいはコミケで飛び交う同人誌で描かれる奇妙にズレながらも同一性を保つキャラクター、同人的なるものの台頭を導いたのは秋葉原に根ざした萌え文化だけではなかった。ドラゴン四コマで付加された「アリーナに片思いするクリフト」という本来なかった人格は、現在、リメイク版の『ドラクエ4』にて公式設定として取り入れられている。
■ゲームからゲーマーへ
現在、商業におけるゲームパロディはLeaf、Key、Type-Moonの諸作品や竜騎士07『ひぐらしのなく頃に』などを原作とするゲームアンソロジーが中心だ。執筆陣は同人作家が多い。ゲームパロディ四コマの持つ読者投稿による新人抜擢という特徴は、大きく広がったコミケというシステムに回収されたのだろう。
またゲームをテーマとした四コマのもうひとつの流れに『電撃PlayStation』(アスキー・メディアワークス)の付録である「電撃4コマ」がある。「電撃4コマ」は雑誌付録という特殊な形態であるため短命な作品や斬新な作品が多く、中でも『放課後プレイ』はやたらとフェティッシュかつ、四コマにあるまじき台詞が一切ないコマ運びを多用、単行本1巻は爆発的に売れた。
『放課後プレイ』はその名の通り、ゲーム好きの男子高校生と女子高生の放課後を描いた恋愛漫画だ。「電撃4コマ」の作品群はゲームのパロディや、ドラクエ四コマ出身の作家のようにゲーム的な世界観を舞台とした作品ではなく「ゲームを楽しむ私たち」を舞台としたものが多い。自分そのものを題材とした漫画は珍しいわけではなく日記漫画と呼ばれ、桜玉吉の漫玉日記シリーズや「いい電子」のみずしな孝之は有名だ。二次創作でもコミケ直後にサークル参加者のblogを開けばレポート漫画の形でたくさんの日記漫画がアップロードされている。しかし『放課後プレイ』や「電撃4コマ」の諸作品に描かれているのは決して作者自身ではない。
ネットゲームの流行によってゲーム世界に現実のコミュニケーションが持ち込まれ、ゲームは物語を追体験するものからコミュニケーションツールに変化した。だとすれば、かつてゲームに託されていた物語はどこへ行ったのか。そのひとつの答えが「電撃4コマ」に描かれているのかもしれない。
関連記事
WEB sniper holiday's special contents
2009年・夏!休特別企連画
ばるぼら × 四日市対談『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 : 破』
【前篇】>>>【後篇】
special issue for the summer vacation 2009
2009夏休み特別企画!
「ポケモンスタンプラリー2009」を 完全制覇するドMな冒険
【1】>>>【2】>>>【3】
四日市 エヴァンゲリオン研究家。三度の飯よりエヴァが好き。クラブイベントにウエダハジメ、有馬啓太郎、鶴巻和哉らを呼んでトークショーを開いたり、雑誌に文章を載せてもらったり。プロフィール画像は昔描いた三十路魔法少女漫画。
SHAFTからアニメ化された蒼樹うめ『ひだまりスケッチ』は好評により第三期の制作が決定し、京都アニメーションによってアニメ化されたかきふらいの『けいおん!』のエンディング曲はオリコン一位を獲得、タワーレコード渋谷店では初音ミクのベストアルバムと共に平積みにされていたのが(筆者の)記憶に新しい。
この「萌え四コマ」というジャンル、「セカイ系」と同様に定義が曖昧で、萌える前に「萌えとはなんぞや」と立ち止まってしまうひとには理解のし難い漫画群ではないだろうか。おもしろさがわからない人も多いと思うがオタクの過半数もおもしろいと思っては読んでいないはずなので安心してほしい。ひょっとしてこれはつまらないのではないだろうか、と疑心暗鬼に駆られながら読んでいる。しかし消費とはいつだってそういうものだ。
そんなつかみ所のない萌え四コマではあるがかなり強引に括ってしまうのなら、物語を探求することによって世界を拡大していくのではなく、学園やクラブ活動など枠組みの固定された世界観、記号に寄り添うように繰り返されるお約束の掛け合いによって強化されていくキャラクターなどが挙げられる。特に後者の要素が重要で、キャラクターが出揃ってからの萌え四コマは掛け合いの繰り返しのみで物語を駆動しているとも言える。これは非常に二次創作的で、多くの萌え四コマ作家が同人市場から発掘されてくるのも納得がいく。
そして同様に二次創作的な四コマ、というか二次創作そのものだが、若年層に向けて発信されてきた四コマが存在する。もったいぶっておいてなんだがゲームパロディ四コマのことである。
『ドラゴンクエスト』のパロディに代表されるエニックスの『4コママンガ劇場』、双葉社の『4コマまんが王国』などが代表的だが、ものすごい量が存在するので今回はドラクエに絞って紹介することにする。コミックゲーメストの読者投稿がメインだったゲーパロ四コマグランプリなんかも存在し、本当に収拾がつかない。
■4コママンガ劇場
『4コママンガ劇場』の執筆陣はエニックス、現在はスクウェア・エニックスから刊行されている『ガンガン』、『ガンガンファンタジー』で連載を持っていた作家により始められ、読者投稿コーナーの設置以降は投稿から新人を抜擢、後にエニックス系の漫画雑誌で連載を持つケースが多く、現在のコミケとオタク系商業誌の関係を彷彿とさせる。
有名どころでは『南国少年パプワ君』とその二つの未来である『自由人HERO』と『未来冒険チャンネル5』(後者はアニメージュコミック、未完)、ファミ通の名物となった『ドギばぐ』のシバッタアーミンこと柴田亜美、『魔法陣グルグル』『Pico☆Pico』の衛藤ヒロユキ、『レヴァリアース』『幻想大陸』『刻の大地』など複数の作品を同一世界で展開させ愛読者に設定深読み癖を身につけさせた夜麻みゆき、『Z MAN』(桂正和ではない)、現在はヤングアニマルで『職業・殺し屋』を連載する西川秀明らも四コママンガ劇場出身である。
引用作品:『ドラゴンクエスト 4コママンガ劇場(5)』 著者=柴田亜美 出版社=エニックス 発売日=1991年07月29日 引用箇所:P115/「めらっさ めらっさ」より |
▲画像はドラクエ4だが、初期のパプワ君の作画はドラクエ3の勇者そのまんま。ガンガン編1巻では後書きに相当する名物コーナー「楽屋裏」で履歴書を載せているのだが、8ビートギャグ時代のことは一言も言及されていない。
|
引用作品: 『ドラゴンクエスト 4コママンガ劇場(8) 』 著者=夜麻みゆき 出版社=エニックス 発売日=1993年07月25日 引用箇所:P34/「ひゅるり ひゅるり」より |
▲夜麻みゆきの主人公は常に脳天気。
|
引用作品: 『ドラゴンクエスト 4コママンガ劇場 ガンガン編(1)』 著者=押田JO 出版社=エニックス 発売日=1991年11月20日 引用箇所:P101より |
▲タッチに見覚えのある人はおそらく教科書の挿絵で見たのだと思う。今ならpixivで人気が出そうな作風。
|
引用作品: 『Pico☆Pico(1) 』 著者=衛藤ヒロユキ 出版社=エニックス 発売日=1997年08月17日 引用箇所:P86、87より |
|
引用作品:同上 引用箇所:P100より |
▲旧文明の遺産であるシブヤ遺跡から掘り返したレコード盤に魔法が封じ込められていたりスクラッチすることで魔法が強くなったりモンスターはサンプリングされていたり、自らもDJ NICK-Qとしてターンテーブルを回す作者の趣味が全開の漫画。RPGそのままの世界にロリコンとテクノ、今の秋葉原を予見していたかのような作品。どうでもいいことだが『鋼の錬金術師』の荒川弘は衛藤ヒロユキの元アシスタントである。
|
引用作品: 『レニフィルの冒険(1)』 著者=石田和明 出版社=エニックス 発売日=1995年08月12日 引用箇所:P124より |
▲ドラクエ四コマの良心だがギャグ王のオリジナル連載ではこの通り。『4コマ漫画劇場』、特にドラクエ四コマ出身の作家はRPG的な話作りから抜け出せない印象が強い。
|
引用作品: 『勇者カタストロフ(1)』 著者=牧野博幸 出版社=エニックス 発売日=1995年09月12日 引用箇所:P20より |
▲『ゼルダの伝説4コママンガ劇場』で常に表紙を描いてきたのでそちらの印象のほうが強いかもしれない牧野博幸のオリジナル単行本。魚屋とフグが魔王を倒すとか倒さないとか。大型スーパーの侵攻から地元商店を守ったり、地球環境のために人間を滅ぼそうとするエルフと戦ったり、社会派のようだが通して読んでみれば馬鹿漫画である。名作。
■ゲーパロ四コマの作った土壌
ドラクエにしてもゼルダにしてもスーパーマリオにしても、ゲームの主人公は感情移入のためか、個性はあるのに人格の描写が少なく、作家による自由度が高い。連載を続けるうちに作家の中でキャラが強化されていき、「衛藤ヒロユキのミネア」「タイジャンホクトのミネア」など、基本的には同一人物なのだが全く違う性格という、言葉の上では完全に矛盾している事象が起きる。しかしそれを読者が不自由に感じない、当たり前に読めたからこそドラクエ四コマは2006年、全22巻のロングランを続けられた。
惣流・アスカ・ラングレーと式波・アスカ・ラングレー、あるいはコミケで飛び交う同人誌で描かれる奇妙にズレながらも同一性を保つキャラクター、同人的なるものの台頭を導いたのは秋葉原に根ざした萌え文化だけではなかった。ドラゴン四コマで付加された「アリーナに片思いするクリフト」という本来なかった人格は、現在、リメイク版の『ドラクエ4』にて公式設定として取り入れられている。
■ゲームからゲーマーへ
現在、商業におけるゲームパロディはLeaf、Key、Type-Moonの諸作品や竜騎士07『ひぐらしのなく頃に』などを原作とするゲームアンソロジーが中心だ。執筆陣は同人作家が多い。ゲームパロディ四コマの持つ読者投稿による新人抜擢という特徴は、大きく広がったコミケというシステムに回収されたのだろう。
またゲームをテーマとした四コマのもうひとつの流れに『電撃PlayStation』(アスキー・メディアワークス)の付録である「電撃4コマ」がある。「電撃4コマ」は雑誌付録という特殊な形態であるため短命な作品や斬新な作品が多く、中でも『放課後プレイ』はやたらとフェティッシュかつ、四コマにあるまじき台詞が一切ないコマ運びを多用、単行本1巻は爆発的に売れた。
『放課後プレイ』はその名の通り、ゲーム好きの男子高校生と女子高生の放課後を描いた恋愛漫画だ。「電撃4コマ」の作品群はゲームのパロディや、ドラクエ四コマ出身の作家のようにゲーム的な世界観を舞台とした作品ではなく「ゲームを楽しむ私たち」を舞台としたものが多い。自分そのものを題材とした漫画は珍しいわけではなく日記漫画と呼ばれ、桜玉吉の漫玉日記シリーズや「いい電子」のみずしな孝之は有名だ。二次創作でもコミケ直後にサークル参加者のblogを開けばレポート漫画の形でたくさんの日記漫画がアップロードされている。しかし『放課後プレイ』や「電撃4コマ」の諸作品に描かれているのは決して作者自身ではない。
ネットゲームの流行によってゲーム世界に現実のコミュニケーションが持ち込まれ、ゲームは物語を追体験するものからコミュニケーションツールに変化した。だとすれば、かつてゲームに託されていた物語はどこへ行ったのか。そのひとつの答えが「電撃4コマ」に描かれているのかもしれない。
文=四日市
関連記事
WEB sniper holiday's special contents
2009年・夏!休特別企連画
ばるぼら × 四日市対談『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 : 破』
【前篇】>>>【後篇】
special issue for the summer vacation 2009
2009夏休み特別企画!
「ポケモンスタンプラリー2009」を 完全制覇するドMな冒険
【1】>>>【2】>>>【3】
四日市 エヴァンゲリオン研究家。三度の飯よりエヴァが好き。クラブイベントにウエダハジメ、有馬啓太郎、鶴巻和哉らを呼んでトークショーを開いたり、雑誌に文章を載せてもらったり。プロフィール画像は昔描いた三十路魔法少女漫画。