special issue for silver week 2011
2011シルバーウィーク特別企画/特集「女性向けAVの現在形」
アダルトレーベル「SILK LABO」プロデューサー・牧野江里 インタビューWEBスナイパーがお届けする2011年シルバーウィーク特別企画は女性向けアダルトビデオ特集! AVと言えば男性向けであることは自明でしたが、近年では女性の欲望の新たな受け皿として、女性に向けて作られたAVが登場しています。そして性に好奇心旺盛な女性ならば必ず手にした事があると思われる『an・an』のSEX特集号、その付録DVDを制作されているのが2009年に生まれた女性向けアダルトメーカー「SILK LABO(シルクラボ)」さんです。女性の視点から性を描き、もっと女性が気持ちよく、自信を持ったセックスライフを送るためのお手伝いをする、そんなコンセプトを持つ「SILK LABO」プロデューサー牧野江里さんへのインタビューを、AVライター・雨宮まみさんがお届けいたします。
シルクラボ作品に出演するイケメンAV男優は「エロメン」と呼ばれ、イベントやサイン会にはファンの女性が殺到。バレンタインや誕生日には多数のプレゼントが送られてくるという。男優にこんなにファンがつくことも、女性向けのAVがこれほど多くの女性に受け入れられることも、何もかもがAV業界では前代未聞の出来事である。女性向けAVの先駆者であるシルクラボのプロデューサー、牧野江里さんにお話をうかがってみた。
――牧野さんは、プロデューサーという肩書きですが、制作にはどのくらい関わってらっしゃるんでしょう?
牧野 もともとはソフト・オン・デマンドの系列会社SODクリエイトの宣伝部にいて、そのときにシルクラボを立ち上げたんです。最初は宣伝部と平行してシルクラボをやっていたので、何でもしました。制作、進行、脚本......。今もうちは人数が少ないので、ほとんど全てやってます。
――では、シルクラボ作品は実際に制作の指揮をとっておられる牧野さんのファンタジーをもとに作られている?
牧野 いや、それは違うんです。私のファンタジーは『ながえSTYLE』みたいな感じなので、ちょっと一般女性にはハードかもしれないと......。シルクラボでやっているのは周りの女性やお客さんにリサーチした結果、こういうものが求められているのでは?と感じているファンタジーですね。うちの社内の誰かの妄想、ということではないです。
――女性が女性向けのエロを作る場合「女の私が興奮するものは、他の女も興奮するに決まってる」と思い込んで失敗するケースもあるんじゃないかと思うんですが。
牧野 それは非常にあると思います。なので、自分の感覚が他の女性にも受け入れられる、というふうには考えず、お客さんの声を聞いて仮説・検証、仮説・検証、で進んできてる感じですね。
――「女性向けAV」という、ほぼ成功した前例がない状況でどういうところから内容を考えていかれたんですか?
牧野 SODクリエイトの宣伝部にいたときに、社内の女性たちで集まって、男向けのAVに対する不満をぶちまけてみたんですね。『ここがありえない!』『こんなの気持ちいいわけない!』といろんな意見が出たんですが、その中でもみんなが大きくうなずき合ったのは『どや顔でAVみたいな激しいハイパー手マンをしてくる男たち』がムカつく、いやムカつくっていうか困る、痛い、っていう話だったんです。
AVでは『コレがいいんだろっ!?』って、激しい手マンをしたり潮吹きをさせたりするのが当然のように収録されてますけど、女同士で話してみたら『手マン自体しなくていい』『指は痛い』っていう人も多かったんです。でも、それをAVを信じてる男性がすごく多い。悲しいのは、男性もそれって感じさせようという善意でやってるんですよね。なのに完全にすれ違ってるんです。それで『なんでこうなっちゃったんだろうね?』っていう話になって、最初は女性のオカズになるようなものっていうよりも、HOW TO SEXみたいな、正しいセックスを教えるようなコンセプトでいこうとしてました。
――最初はHOW TO作品とドラマ作品の同時リリースでしたよね。シルクラボの作品は、どれもかなり内容的にソフトですが、そうしようと決断した理由は何だったのでしょう。
牧野 難しかったのは、どういうのが一般女性の感覚なのか確信が持てないというところですね。私たちはAV会社に務めてるので、おそらく一般女性と比べてエロには慣れてるし、受け入れる幅が自然と広がってる。会社に入る前はチンコとかとてもじゃないと言えないような普通の女の子だったわけだし、普通の感覚もあると思うんですが、それが一般女性の感覚とまったく同じなのかは自信がなくて。
この世界の女同士で妄想のネタを話してると、レイプとか痴漢とか、イケメンに痴漢されるとかよくわかんないことばっかり出てくるんですよ(笑)。私は『ながえSTYLE』なわけだし、激しい濃厚なものが多い。でも『女性向けのAVです』っていきなり痴漢やレイプものを出したら『こんなの買えない』っていう拒否反応が強くて、長いスパンで考えると先に広がっていかないんじゃないかと思えて。欲しがる女性はいるかもしれないですけど、買うとなると『やっぱり恥ずかしい......』って手を引っ込めちゃうよなぁ、と。手に取ること、買うこと自体に抵抗のある商品なわけですから、まずは敷居を低くして買いやすいものにしようと思いました。とにかく抵抗感を薄くすることを重視して『女の人向けのエロって、あってもいいんだ』って思わせられるようなものにできればいいなと。
――かなり思い切ってソフトにされましたよね。女性向けの男女のエロというと、前例としてはレディースコミックがありますが、レディースコミックはそれこそかなり激しい内容ですし。もの足りないと言われる不安はありませんでしたか?
牧野 将来的には濃厚な作品ももちろんいずれは出したいという気持ちはあるんですけど、いきなりそれを出しても女性向けのエロという文化が育たないのであれば、今は地道に土を耕すことに専念しよう、と。うちのAVのコンセプトとして『直ではオカズにならない』というのがあるんです。ソフトだなっていう自覚はあるんですよ。でも、観た何週間か後にふとした瞬間にうちのAVで観たシチュエーションを思い出して、頭の中で自分にもっと都合のいい妄想に変換して、応用してくれればいいなと。抵抗感のないドラマやHOW TOの中に、+αでちょっとエッチなシーンを入れて、徐々に女性のお客さんのエロへの感覚を育てていくような、そういう作り方をしてます。それでだんだんAVを観ることに慣れていってくれれば、そのうち女性が接合部バッチリのAV観ながらオナニーをする時代が来るかもしれないんじゃないかと思いますね。
――反応はどうですか?
牧野 最近また『an・an』さんの付録DVDの制作をさせていただいたんですが、それの感想をネットで追いかけてるとすごく面白くて『私もこんなふうに優しくされてみたいと思っちゃいました』とかいう反応もあれば『私は表紙の○○くんが目当てで買ったのに、こんなものがついてて迷惑です!』みたいな人もいるし『接合部が見えてないなんてあり得ない!』っていう人もいる。『an・an』は一般誌なのでそんな激しいのは入れられないんですけどね(笑)。『AVなんて、女で観る人いるのかしら?』みたいなことを書いてる人がいると、逆に怪しいと思っちゃいますね。それをTwitterでわざわざ書くっていうことは『私はそういうものを観る女ではありません!』っていうアピールだと思うんです。やっぱり男性からエロい女だと思われたくないとか、女がエロに興味を持つことに対する強い抵抗感があるんじゃないかと。そういう人ほど、実はうちのお客さんになる可能性が高いんじゃないかなって期待しちゃいますね。
難しいと思うんですよ、ここまで女の人が普通にチンチンだ、オナニーだって言えない世の中でエロに触れたりするのは。だけど、言いたくても言えなくて自分の欲望を否定してるっていう人も多いと思うから、そういう人を抱きしめてあげるようなメーカーになれれば、ブワッて泣きながら欲望を解放してくれるんじゃないかと期待もしてるんですよね(笑)。
――シルクラボの作品は、普通の男性向けのAVとはかなり違いますよね。具体的にどういう基準で作ってらっしゃるのか教えていただけますか?
牧野 まず、普通のAVだと女優さんの裸とかオッパイとかを中心に見せるんですけど、そういう撮り方をするとどうしてもセックス中の男女の身体が離れていくんです。確かに女優さんの身体はよく見えるんですけど、セックスとしては不自然で間抜けに見える。なので、常に身体を密着させてもらって、自然なラブラブ感を出すようにしてもらってます。そこで身体を離しちゃうと、うちのAVとしては成立しないんです。男の人から見たら『男優が女優の身体に覆いかぶさって女優の身体が見えないなんてあり得ない! 許せない!』っていう感じだと思うんですけど、うちは男のリアクションも女のリアクションも両方見せたいし、2人の関係性っていうのを大事に見せたいと思ってます。
――そこで「女性向けだから、男の裸を中心に見せる」という発想にはなりませんでしたか?
牧野 男性向けのAVのジャンルで『主観モノ』という、女優さんとセックスしている男の主観目線で撮影して、女優さんがカメラを見つめて、まるで自分に話しかけているかのように話しかけたりいろいろしてくれたりするものがあるんですけど、それを男優さんでやったことがあるんですよ。でも、けっこう女は『この人、撮影現場でカメラに向かってこんなこと囁いてたわけ?』とか冷静に考えて冷めちゃうんじゃないかと思えてきて、男中心にではなくシチュエーション全体を見せる自然な撮影を心がけました。
――コンドームを装着するシーンがあったのもかなり衝撃でした。
牧野 AVって普通ゴムつけるところをカットするんですよ。実際はつけてるんですけど、最後はスポンって抜いて顔に発射したりする。それはAVだからやってることなのに、これもまた普通の男性が真似して普段のセックスでスポンってゴム取って発射!とかやってるって聞くんですよね。だからうちのAVでは『汁は散らかさない』というのを鉄則に、ゴム中発射にしてます。プライベートだったらそれが普通ですよね。
最初はそういうAVっぽいセックスじゃなく、もっと普通でいいじゃないっていう気持ちや、『避妊はちゃんとしましょうね』という啓蒙として入れてたんですけど、それが『女のコのことちゃんと考えてくれてて優しい!』と、思わぬ萌えポイントとして受け入れられてしまって(笑)。人気のシーンなんです。
――撮影現場を見ていて驚いたのは、男優さんに女優さんのお尻の穴を触らないようにとおっしゃってたことでした。
牧野 それは、触って気持ちいい人もいるとは思うんですけど、肛門をバッチリ映したくないんです。アナルってモザイクをかけなくてもいいことになっていて、モロに見えてしまう。かけてもいいかなとは思うんですけど、ルックス的にあまり女性が見たくないものじゃないかと。やっぱり見えるとギョッとしますよね? だから、アナルのことには触れずになかったことにしておきたいっていうのがあるんですよね(笑)。
――内容的にはトレンディドラマ風の作品が多いように感じますが、どう考えてそういう方向性にされたんでしょう?
牧野 ドラマっぽく普通に観てる流れで『あ、エッチもちゃんとしてるんだ』みたいな感じのほうが入りやすいかなと思ったんです。いきなり鉄格子の中で激しい水着の女の人がオイルまみれの身体をくねらせてるようなAVだと、なんか観る女の人はヘンなふうに面白くなっちゃうと思うんですよね。『あり得ないだろ!』っていう感じで。
――確かに「男向けのAVを観ると、ありえない展開ばかりで笑っちゃう」という意見もよく聞きます。
牧野 でもたぶんうちのAVも笑われてると思うんです。『ギャー! 何言ってんの!? キザすぎる!』『こんな都合のいいことあるわけないじゃん!』って。
――(笑)私もシルクラボ作品は笑ってしまうんですけど「でも、悪くない......」と思ってしまいます。
牧野 女の人って、少女マンガを読んで大きくなってるじゃないですか。少女マンガ的な世界を『こんなもんあるわけねーだろ!』って笑いながらも、どこかでそれが刷り込まれてると思うんです。最初は男向けのAVに『こんなの全部ファンタジーばっか!』って言ってたのに、作ってて感じたのは『結局、女もめちゃめちゃファンタジスタじゃないか!』っていうことで(笑)。ファンタジーに関しては男女ともにセックス両成敗なんじゃないかと思えてきました。
――女性って、エロにお金を使う習慣がない人が多いので、その中で市場を作って成立させるというのは大変だったと思うんですが。
牧野 大変です。金出してハズレたときの悔しさってハンパないと思うんですよ。でも作り手としては、お客さん全員の言うことを聞いてるとブレてしまうし、全員の要望に応えるわけにはいかない。だから信念を持って作品を作りつつ、徐々に枝葉を拡げていきたいんですが、今、丸二年やってきて、シルクラボでエロに慣れてきたお客さんたちが熟練度を上げて、AVを観るのに抵抗がなくなって楽しめるようになってきてるんです。そういうお客さんが『もっと〜、もっとぉ〜!』って心で叫んでくれてるのが聞こえるんですよね(笑)。『もっとエロいのを!』『ドラマはなくてもいい』という意見を見るたびに『わかる、わかるよ! もうちょっと待っててね!』と思ってます。そういう要求にも応えていきたいですね。
――今後はどういう作品を出す予定ですか?
牧野 来年以降になると思いますが、熟練度を上げたお客さんたちに満足してもらえるような、今までより少しハードめの作品も出せたらなと思ってます。
ただ、うちは今までソフトな作品を作ってきているので、いきなりあんまりハードな作品を出してしまうと、初心者の人は引いちゃうでしょうし、メーカーのカラーも『一体何なの?』っていうことになってしまう。なので、そういう作品をレーベルを分けて出せたらいいなと考えてます。作品のダウンロード販売も始めたので、ハードなものは配信のほうでやろうかとも考えてますね。
あと、逆に今のシルクラボでも『モザイクがあるような作品っていうだけでダメ』っていう、もっとソフトなものを求めてる人もいるんです。まだセックスシーンには出られないような男性でそういうソフトな作品を作って、新しいイケメン育成の場にしていけたらと思ってます。それをなんとか18禁マークを外してやれないかと今検討している状態です。
――それが実現したら、本当に「実写エッチ系少女マンガ」に近い状態になりますね。
牧野 そうなんです。シルクラボは本も出しているので、そういう形でDVD付きの本という形で出すのもいいんじゃないかとか、いろんな可能性を考えてます。
――今、シルクラボはセールス的にはどうなんですか?
牧野 好調は好調です。ただ、男向けのAVだと発売から三カ月までが勝負で、そこで成績が出るんですが、シルクラボは発売からかなり過ぎても息が長く売れ続ける感じで、リリースからだいぶ経ったものでも売れていくという、異例の売れ方をしてます。
――販売についてなんですが、シルク作品はどこで入手できるんですか?
牧野 基本的にはネット通販で、amazonやシルクラボの公式サイトで販売しています。通販じゃないとなかなか買いづらいと思うので、amazonみたいな何を買ったかわからないようなところでの流通にしたりしています。
――二年間やってこられて「これだ!」と手応えを感じた瞬間はありますか?
牧野 ずっとドラマ作品を作ってるんですが、お客さんの反応を見てると、キスが始まってからがセックスじゃないんですよ。ドラマ部分が前戯になってる。セックスに至るまでの過程が前戯なんです。女の人が胸キュンする=濡れに通じる、ということなんだなと感じたのは大きかったですね。ただしっかりしたドラマならいいっていうもんじゃなくて、そういう萌えポイントをどれだけ入れられるかが重要だと思ってます。
ファンの方のリクエストを見てると、女の妄想力は本当にすごいんですよ。何気なくネクタイを外すシーンを入れたら『エロいことしてる中でもスマートさを見せる男に、テクニックを感じてグッとくる』、時計を荒々しく外すシーンを入れたら『早くセックスしたい! とガツガツしてる感じがいい』とか、めちゃくちゃ深入りしてるんです(笑)。それがあるからセックスも良く見えてくるので、そういう起爆剤をいろんなところに入れていかないとなと思ってます。そういう萌えポイントについては常日頃考えてますね〜。
――お聞きしていると、シルクラボはファンの方がアツいですね。
牧野 本当にそれは感じます。男性向けのAVよりも、出せばいろんな意見が返ってくる。一人一人のお客さんの温度がすごくアツいんですよね。AV作ってて感謝されることってあんまりないんですけど、シルクラボは『作品観て、仕事がんばれました! ありがとうございました!』とか言われたりして、こちらもグッと来るんです。観る人にそういう日々の潤いを感じさせられるようなAVを作りたいですね。
文=雨宮まみ
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SILK LABO
雨宮まみ エロ本を中心に活躍中のエロ・AVライター。1976年生まれ。2000年ワイレア出版入社、投稿系エロ雑誌の編集に携わる。2002年フリーライターとして独立。主にAV誌を中心に取材やレビューなどの執筆活動を続けている。また、弟に向けてAVを紹介するという形式のAVレビュー系ブログ「弟よ!」も話題に。 |