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『S&Mスナイパー』1983年8月号 
編集者突撃モニター
「重役秘書の密かな愉しみ」
文=N.本村

プレイ志願の素人女性を読者の中から募集し、編集部員が実地にプレイを行なって現場の模様をレポートする人気企画「編集者突撃モニター」。何が起こるか分からない、筋書きのないドラマが見せてくれるSMのエロティシズムとは……。『S&Mスナイパー』1983年8月号に掲載された同コーナー「重役秘書の密かな愉しみ」を再編集の上、全5回に分けて再掲載いたします。
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プレイ志願者紹介〜マミ&菅原〜
マミ=♀・21歳。某大手企業勤務のOL。19歳の時から付合ってきた彼との間でSMプレイの経験がある。ハードなプレイは苦手だが縛られるのは好き。「マゾっぽい気分が好き」という“ムード派”M女である。ただし現在はその彼とは絶縁中。菅原=♂・27歳。スナック経営。マミとその彼の共通の友人。SM歴6年のサディスト。マミとは今回のプレイのほんの少し前まで、ただの友達だった。

【1】蒲田行進曲

ある日、本誌の愛読者だという若い男か編集部を話ねてきた。

1年ほど前のことだ。応待した編集音か用件を訊ねると、一度編集部というところを覗いてみたかった、というようなことをその男は言う。そういう客は珍しい。編集者のほうが面喰らってひとまずコーヒーなどいれて応待していると、彼は当の編集者を相手にSM談義を始めた。

それか延々と続く。しかも編集者が仕事で席を立ってもいっこうにかまう様子はない。それはかりか今度は他の編集者に親しく話しかけてまた、愉しそうにSM談義を始める。

不思議なことに、だが、それが少しも図々しいとか小うるさいとか思えないのだ。むしろそのうち編集部全員が、“おもしろい男だ”という印象を持った。

こういうのを持って生まれた人徳、と言えば持ち上げすぎのきらいがあるが、この男の特異性かもしれない。

そうして彼はその日3時間余りも編集部に居つづけて帰っていったのだが、それが縁でそれからも時おり編集部に顔を見せるようになり、われわれ編集部も彼の店に飲みに行ったりして、その後、親しみをこめて言うところの“腐れ縁”がつづいている。

その男か、実は今回の「編集者突撃モニター」の仕掛人、菅原なのである。

彼が編集部に持ち込んできたのは、こういう話だった。

自分とプレイするところを撮彩されてもいいという女性がいる。その女性にはSMマニアの恋人かいるのだが、現在、彼のほうは他の女性に夢中になっていて、2人の仲は冷えきっている。

そのためだろう、先日、彼女のほうから自分を誘ってきた。ところが自分は彼のほうもよく知っていて2人とも友達なのだ。おいそれと誘いに乗るわけにはいかない。が、本当のことをいえば自分は以前から内心彼女に好意を抱いていた。 悩んだすえ、彼女には内緒で彼に、彼女に誘われているけれど誘いに乗ってもいいのかと、きいてみた。すると彼は、かまわないという。

それで彼女とプレイした。そしてその後、本誌のこの企画のことを彼女に話してみた。

彼女はあっさりOKした。恋人へのあてつけの気持もあったのかもしれない。もっとも彼女は根暗なタイプではなく、どちらかといえば好奇心旺盛な、跳んでるタイプの女性で、興味から撮影をOKしたのかもしれない。

菅原はそう言った。

その話をきいていてふと私の頭に浮かんだのは、あの、つかこうへいの『蒲田行進曲』だ。これでいこうと思った。

それなら場所も蒲田にすべきだとその思いつきに固執し、プレイルームのあるラブホテル「W」に決めた。

そうして菅原のいう彼女、マミに会ったのは、2日後のことだった。

待合わせの喫茶店、蒲田駅前の「M」に、菅原と一緒に現われたマミは薄手のセーターに白いパンツというラフなスタイルだった。

どうせ菅原の連れてくる女性だから……と高をくくっていたのだが、意外や意外、丸顔で顔立ちの整ったマミは、眼もとの涼しげなキュートな美人であった。

菅原の紹介で初対面の挨拶をかわした後、ひとまず昼食を取ってからホテル「W」に向かうことにした。

食事中、マミは多くを喋らなかった。といって気遅れとか緊張している様子もなかった。訊けば、ふだんから必要以外のことは余り喋らない、無口なタイプなのだという。

それでも、「お酒を飲むと、とたんにお喋りになるの」と言い、「ね」と菅原に相槌を求める。

「もう一つあるんじゃないか?」

と、菅原。

「え? 何が?」
「オトコ、出てこい」

菅原は某ビール会社のCMコピーをもじって言い、「オトコが欲しくなる」とからかう。

うん、もう、と言うように菅原を笑って睨むと、マミはぶつ真似をする。なんのことはない二人でジャレあっているのだ。

そんな二人を妬ましく思いながら小生、彼らを促してレストランを出た。

小生の後から恋人然としてついてくる二人――蒲田の街を歩きながら小生は思ったものだ。マミと恋人の彼と菅原の関係もそうだが、今の小生と二人の間も、まさに『蒲田行進曲』の世界じゃないか、と。

(続く)

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