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法廷ドキュメント

ハングリー国家 日本の悲劇  第七回

文=法野巌
イラスト=笹沼傑嗣


強姦未遂事件を起こした少年には母親との不倫の関係があった
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スナイパーアーカイブ法廷ドキュメント、第六回をお届けいたします。
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少年の告白

「巨君、今までの君は、僕に対して本当のことを話してくれてはいない。いいかい、僕は本当の話以外は聞きたくない。これは自惚れかも知れないが、僕は君にとって本当のことを話してくれるに足る人間だと思っている。君が想像する以上に、経験の積み重ねは重要なことだ。僕は君からどんな話を聞かされても決して驚かないだけの経験がある。さあ、今夜は全てを話してくれたまえ」

調査官は普通の状態であれば、オーバーに過ぎて気恥ずかしくなるような言葉を投げかけた。
彼は真剣だった。
真剣さの故に、彼の言葉はそのままの重みを持って、巨の心の中に入り込んでいったようだった。
しばらくの沈黙があった。
やがて巨が口を開いた。
聞いていた調査官は次第に気分が重くなっていった。
それは、今までに彼の経験した中でも、最も後味の悪い陰うつな色合いの告白であった。

僕は今、母親と二人の生活です。
それは調査官も御存知のとおりのことです。
父は僕が中学一年の時に母と別れ、家を出て行きました。
父は名を出せば知る人ぞ知る、中堅どころの洋画家です。
母と別れた原因は父の女性関係です。
父は相当女性関係がはでだったようで、いつも母との口論が絶えませんでした。

母は僕から言うのも変な話ですが、平均以上の容姿の持ち主で、それだけプライドが高かったと思います。
父はその母のプライドの高さ、我の強さ、男まさりにも見えるその性格の重圧に耐え切れなかったがために、他にも女性をつくっていたのだと思います。
子供の目から見ても、父と母との関係が最悪の状態になり、そんな日が数日、数週間続いた或る日、父は外出したままそれきり戻っては来ませんでした。
それまでも時々外泊はしていましたが、到頭、母と僕とを捨てて出て行ってしまったのです。
これは母にとっては相当ショックの様でした。
人一倍プライドが高かっただけに、父が自分を捨てて他の女の所に行ってしまったという現実を認めることは出来なかったのでしょう。
二〜三週間は、何も言わず、一人で黙って坐っている毎日が続きました。
しかし、いつまでもこのままの状態を続けているわけには行かないと考えたのでしょう。
もともと気の強い性格ですから、あれこれと仕事を見つけるために動き出し、知人からの勧めで、今の商売を始めたのです。
水商売に向いていたのでしょうか、次第に固定客もつき、収入も増えて母はみちがえるほど生き生きとしてきました。
母と僕と二人きりの生活も何とか平穏無事に過ぎて行ったのです。

母は、一応生活の方が安定した頃から、僕の学校での成績を非常に気にするようになりました。
父が母を捨てて行ってしまった後、僕に対して期待する気持ちが毎日毎日脹らんでいったのだと思います。
その僕に期待する気持ちが僕の成績の上下に向けられてきたのでしょう。
僕の方も、その頃は、母から期待されている気持ちを感じることは決して不愉快なものではありませんでした。
女遊びが過ぎて母に愛想をつかされ、いたたまれずに家を出ていってしまった許すことの出来ない男という目で父を見ていました。
だから、母を安心させ、喜ばせることこそが、父に対する復讐であり、母を助けることだという気持ちでいっぱいだったのです。

僕は学校の先生からも聞いて知っていると思いますが、割と試験の成績は良かったのです。
今の高校は国立大学への合格者が多いことで有名な私立高校です。
合格した時、母はとても喜んでくれました。
合格のお祝いにと言って、母は僕をハワイ旅行に連れて行ってくれました。
その頃が僕の今までの中で一番楽しかったように思います。
ハワイには一週間ほど滞在していました。
母も僕と二人きりの旅などしたこともなかったのでとても楽しそうでした。
僕とどころか、母は父との結婚生活中もほとんど国内旅行もしていなかったと思います。
ハワイについた最初の晩、ベッドで寝ていましたら、何か体に触わる感じがしましたので、目を開けますと、母が僕の隣に体を横たえて僕の体を抱いていたのです。
それは丁度、母親が子供を抱きかかえるような感じでした。
僕が目を覚ますと、母はすぐ気がついたらしく、

「あら、起きちゃったの、ごめんなさい。母さん、巨の小さい頃を思い出していたの。さあ、目をつむって休みなさい」

そう言って僕の頭を胸のところに抱きかかえて、背中を撫でてくれたのです。
僕は母の柔らかな胸のふくらみに顔を伏せて、遠い遠い昔に嗅いだ懐しい臭いを思い出しながら母の乳房から伝わってくる温さを感じていたのです。
そんなことがあったのは最初の一晩だけでした。
母も最初の夜の行動に多少後ろめたさを感じたのでしょうか、二日目からは全くそのようなことをする気配すら見せませんでした。
日本に帰り、高校に通うようになって、又以前の母と二人の静かな生活が始まりました。
母は僕が高校生になった頃から、僕に対する要求が更に一段とアップしてきました。
僕の顔を見るたびに、

「巨は絶対T大に入るのよ。一生懸命勉強しなさい。外のことは何も考えなくて良いわ。お母さんが全部引き受けるから」

というようなことを言うのです。
僕も、母の気持ちは、先にも言いましたように痛いほどわかりますから、母のためにも頑張らなくてはと思っていたのですが、顔を会わせるたびに言われますと、いい加減うんざりしてしまいます。
最初の頃こそ、

「ああ」

とか、

「うん」

とか返事をしていましたが、次第にそれすらも面倒になり、母と顔を会わせることを避けるようになりました。
それでも母の期待を裏切るまいという気持ちは強く、学校での成績もまあまあといった所でした。
学校の方の勉強も一応は続けていたのですが、僕はその頃、自慰を覚えていたのです。
高校一年になって覚えるのは遅いと思われるかも知れませんが、父母の離婚を見たり母が水商売をしていたりということが、逆に僕の性に対する興味を抑えつけるといった方向に作用していたのだと思います。
それと父が去って以来、母を哀れに思い、母に喜ばれる子供でありたいという気持ちで毎日を送ってきたわけですから、性について関心を持つことは後ろめたいという心の動きがあったのだと思います。
でも、母とのハワイ旅行以来、僕の心の中で何か変化が生じたのです。
母が僕を抱いて寝てくれた時、僕の性器はエレクトしてしまったのです。
母はそれを感づいている様子でした。
その時は、それ以上のことはなかったのです。

(続く)

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07.07.24更新 | WEBスナイパー  >  スナイパーアーカイヴス