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咲きほころぶ踊り子たちの肖像 舞姫爛漫 第9回 「川中理紗子」 【1】
写真・文・インタビュー=インベカヲリ★
モデル=川中理紗子
ストリップ劇場でのストリップショー。黄金時代は過ぎたといえ、根強いファンはいまも劇場に通っています。そして踊り子たちもまた踊り続けているのです。そんな彼女たちの姿を追う「舞姫爛漫」第9回は、川中理紗子さんが登場です!
本当に面白い答えが言えないので。全然映画とか観ないし
最後に観た映画だって『もののけ姫』だし、それも人に誘われて行っただけだし
消し去りたい過去
最後に観た映画だって『もののけ姫』だし、それも人に誘われて行っただけだし
インタビュー中、ずっと作り笑いを浮かべていた。ときおり、ものすごく寂しそうな目をしたかと思うと、次の瞬間にはニコっと微笑む。返答に困ると手をスリスリし、長い沈黙が続いたかと思うと、やはり最後はウフフと笑う。
川中理紗子はわかりやすく二面性を持つ人だった。ステージに上がったときの彼女はすごい。「高嶺の花」という言葉がピッタリだ。凛とした表情で踊る姿は、ちょっとやそっとでは手を触れられない、敷居の高さを感じる。プライドが高くて冷たそう、そんなイメージさえ与える。しかし、踊っているとき以外の彼女は極端なほどに謙虚だった。自信なさげで弱々しく、自嘲的な言葉を連発する。その落差は、まるで意味不明だった。
「もう限界かなって思うんです……」
川中理紗子、25歳はそう言った。
「年齢と、能力的なものと……。なんか5年も踊り子やってるのにうだつが上がらないし」
川中理紗子はデビュー5年目。今までほとんど休みなくステージに上がっている。踊り子としては、充分に売れっ子だ。
「それはぁ、適度に安くて、文句を言わないから仕事が入るんですよ」
当然のように言った。
「せめてもっと若ければいんですけどね。昔は歳なんて気にしないわって思ってたけど、やっぱりなってみるとハァ〜って感じですね。もうノーメイクなんか見せられないし」
そう叫ぶと、一人で落ち込んでしまった。極度のマイナス思考は、インタビューの冒頭からぶっ通しで続いていた。
川中理紗子は北海道・札幌道頓堀劇場所属。現在劇場はすでになく、渋谷の劇場に所属となっているが、彼女の出身は北海道から遥か遠い関東圏内。デビューのきっかけは、ひょんなことだった。
「最初は、デッサンとかの美術モデルをしたくて、モデル事務所を探していたんです。なんですけど、面接に行ったら今はそういう仕事はないからって、劇場を紹介されたんですよね」
そう言ってから、激しく言葉を付け加える。
「でも、たとえ美術モデルであったとしても、モデルになりたいなんてすごい大それた……なんか厚顔無恥だわ私!! なんか、通っていた専門学校が美術系で、ヌードデッサンの授業があったんですよ」
美術系の専門学生ならば、美術モデルは結びつきやすい。どんな勉強をしていたのか尋ねてみると、なぜか急に押し黙ってしまった。
「やっぱり……そういうことも話したほうがいいですかね」
たじろいでいる。書いて欲しくないことは書かないことを伝えると、ものすごく躊躇しながら重い口を開いてくれた。
「正直に……申し上げると……なんかあの、美術っていうほどいいものじゃなくて……」
そう呟き、蚊の鳴くような声で、とある学科名を口にした。それはとても意外なものだった。
「あははははは!! でも、あの、そうなんです。マニアックな方々がたくさんいて、なんか嫌になっちゃって。もちろん自分もオタクなんですけど、なんかすごい嫌になっちゃって。無理です、みたいな」
それでもきちんと卒業している。しかし二年間、学校に通う過程ですっかり嫌気がさしてしまったらしい。一体何があったのか。
「あの、私は漫画を描くのが好きなだけで、観るのはてんで好きじゃないんですね。なのでアニメのことなんて全然知らないので……」
アニメ好きが集まったときのグルーヴ感は独特だ。共通項を持たないと、疎外感を味わうのは理解できる。川中理紗子は漫画をほとんど読んでいないらしい。
「好きな人の作品は、すごい好きなんですけどね」
ピンポイントでツボにはまる作家がいるということだろうか。それは是非とも聞いてみたい。
「えぇー、えぇー、えぇっとー、うう〜ん。……昔はやっぱり憧れてる方とかいたんですけど、まあ漫画家なんですけど。また、この人こんなの好きとか思われる……でもさすがに恥ずかしい。なんか作風がすごい好きな漫画家さんとかいたりして……ふあああー!!!!」
なんと声を上げて顔を伏せてしまった。
「本当に面白い答えが言えないので! 全然映画とか観ないし! 最後に観た映画だって『もののけ姫』だし、それも人に誘われて行っただけだし」
流れるように弁明を始めた。川中理紗子は、人とずれた感覚を持っていることを恥じているのだろうか。漫画を描くのが好きであれば、漫画を読むのは当たり前。ついでに映画も好きで当たり前。それにそぐわずに、変だと思われるのは嫌だ。傍から見れば不自然なほどに、妙な固定観念を身につけていた。
(続く)
川中理紗子
渋谷道頓堀劇場所属。2003年07月21日、札幌道頓堀劇場にてデビュー。小柄な身体で、可憐な舞姫を感じさせる演目はストリップの常連客ならずとも目を瞠る。先月に5周年を迎え、その際に披露された演目も大変好評。多忙なスケジュールのなかで精力的に興行をこなす踊り子の一人。
香盤情報
晃生ショー劇場
8月11日-20日
渋谷道頓堀劇場
8月21日-31日
TSミュージック
9月1日-10日
撮影=インベカヲリ★
モデル=川中理紗子
取材協力=渋谷道頓堀劇場、若松劇場
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詩田笑子 【1】>>>【2】>>>【3】>>>【4】>>>【5】
インベカヲリ★ 東京生まれ。編集プロダクション、映像制作会社勤務を経てフリー。写真、文筆、映像など多方面で活動中。著書に「取り扱い注意な女たち」。趣味は裁判傍聴。ホームページでは写真作品を随時アップ中。 インベカヲリ★ http://www.inbekawori.com/ |
08.08.16更新 |
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咲きほころぶ踊り子たちの肖像 舞姫爛漫