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●米「Harmony社」の存在と数々のオマージュ作品
水村氏がアメリカのボンデージ雑誌に出会ったのは大学生時代。中でもHarmony社の『Bondage Life』はアート性の高さと独特のユーモアセンスで水村氏を深く魅了したという。Harmony社の魅力については他の記事やホームページで深く語られているのでそちらを読んで欲しいが、他にも江戸川乱歩や少年時代に芽生えたフェティシズムなど、氏の作品に色を添えている要素は一つではない。かいつまんで見ていこう。
――Harmony社の作風が『隷嬢寫眞館』全体の下地になっていることはもう十分なアピールがされていると思うのですが、実はHarmony社が全てというわけではないですよね。
↑『HOGTIE』(House of milan.corp/1972)
「そうですね、私が過去に衝撃を受けたいろんなものを作品に取り込んでいます。中には完全なオマージュ作品もありますし」
――たとえばどんな作品ですか?
「結構ありますよ。『幻想緊縛物語6 緊縛実験』は高校生時代に古本屋で買った『KAPTIVE BEAUTIES』(Pinnacle Publishers/1963)という雑誌の中のワンポーズが忘れられなくて撮ったものです。実際の写真はもっとハードで両足首が首の後ろにしっかり入ってるんですけど、可能な限り近づけました。頑張ったのはモデルさんですけど(笑)。『緊縛と猿轡14 縛られた調査員』は私が学生の頃に見ていた『HOGTIE』(House of milan.corp/1972)という雑誌へのオマージュですね。ベッドの上で大の字緊縛をされている写真に当時ドキドキしまして、約30年ごしに再現したという(笑)。最近撮ってるマミフィケーションのシリーズでも、シーツを使ったミイラに関しては明確に原型と呼べる写真があります。『BUSTY&BOUND』(1976)で見た一連の写真です。下着まで同じようなデザインのものにしてありますけど、私にしか分からないでしょうね(笑)」
――分かる人がいたら凄い(笑)。
Fantastic Bondage Story 6 - The Experimental Tying 「幻想緊縛物語6〜緊縛実験」 出演:長谷蒼夜 監督:水村幻幽 品番:DAFB-006 収録時間:60min 価格:5040円 メーカー:隷嬢寫眞館 |
「幻想緊縛物語6〜緊縛実験」 サンプルムービー
FLV形式 5.87MB 2分09秒
「あと、比較的多いのが江戸川乱歩の小説の挿絵。私は小学生の時から縛りの挿絵のある小説ばかり集める癖がありまして、江戸川乱歩はそういうシーンの宝庫でしたから。うちの作品で言うと『トランクの秘密』は江戸川乱歩の『緑衣の鬼』のワンシーンですよね。ヒロインがトランク詰めにされて攫われるという。クロロホルムを使うシリーズは『魔人ゴング』の挿絵から来ていますし、あとは猿轡をする時に詰め物をするのも私の場合は江戸川乱歩の小説の影響です」
少年探偵 江戸川乱歩全集(34) 「緑衣の鬼」 江戸川 乱歩/著 初版発行:1970年08月 ISBN:978-4-591-00143-1 定価:714円(本体:680円) 発行:ポプラ社 (c) 2008 POPLAR Publishing Co., Ltd. |
↑「緑衣の鬼」扉絵。
Secret of the Trunk 「トランクの秘密」 出演:相田ななこ、芳川留美 監督:水村幻幽 品番:DASL-003 収録時間:75min 価格:5040円 メーカー:隷嬢寫眞館 |
「トランクの秘密」 サンプルムービー
FLV形式 7.51MB 2分49秒
――『トランクの秘密』辺りは日本人なら雰囲気でピンとくる人もいるかも知れませんね。海外の人は別の何かを思い浮かべるんでしょうけど。
「他には子供の頃に観たテレビドラマなんかの影響があったりもします。監禁された女性が後ろ手に縛られたまま一生懸命ご飯を食べるシーンがあってドキドキしたことがあるんですけど、それは『監禁されたミニスカ娘』で再現していますし。まあ、国籍を問わず結びつける人はいないでしょうけど(笑)」
少年探偵 江戸川乱歩全集(20) 「魔人ゴング」 江戸川 乱歩/著 初版発行:1970年08月 ISBN:978-4-591-00129-5 定価:714円(本体:680円) 発行:ポプラ社 (c) 2008 POPLAR Publishing Co., Ltd. |
↑「魔人ゴング」挿絵。
●日本人男性40代〜50代のローカルなフェティシズム
――アメリカン・レトロ・ボンデージの伝統にはないものが水村さんの作品にはあるということだと思うんですよね。その流れで、実は気になる作品があるんです。『パンスト・ブルマー・ボンデージ』というシリーズなんですけど。
「それは完全に私の個人的なフェチですね(笑)。ブルマにパンストっていう世代なんで」
――あ、水村さんのフェチだろうとは思っていましたが、独自に組み合わせたのじゃなくて、ブルマにパンストっていう世代があるんですね。
「もう完全に死滅した文化だと思うんですけど、私が小学校の頃って、学校行ったらみんな体操着に着替えさせられたんですよ。その時の女子の体育着ってブルマだったんですけど、冬はみんなその下に、タイツなのかストッキングなのか覚えていないですけど、つまりそういう格好になるんです」
――水村さんはそこに萌えながら育ったんですね。
「そう。日本人でこれを手にとって下さる方は、私と前後した世代でしょう。若い人からはあちこちのサイトで批判されてるんです。ブルマにパンストはないだろうって(笑)」
――確かにピンとこない世代はあると思うんですけど、アメリカン・レトロ・ボンデージにのっける要素としては凄い発想だと思うんです。
「私のわがままですけどね(笑)。『セーラー服でボンデージ』なんかも同じラインです。この作品でこだわってるのは単にセーラー服へのノスタルジーではなくて、セーラー服に黒ストッキング、プラス白ソックスという組み合わせなんです(笑)」
――グローバルスタンダードではないですよね(笑)。
「日本の片隅で生まれて、失われた文化です(笑)。私の世代の中1の頃まではそういうファッションがあったんですよ。高校に入ってからは見ていないので、もう絶滅寸前だったんじゃないかな」
――オマージュ作品にしてもそうですけど、タイトルにもパッケージにも全く書かれてない(笑)。
「敢えて書かない。自信がなかったという場合もある(笑)」
――いや、海外の人はどう観るのか分からないですけど、伝統や様式美の部分で納得させつつ、水村さんの個人的な嗜好を深く入り込ませているところが『隷嬢寫眞館』の一番面白いところじゃないかと。
Damsel in Pantyhose and Bloomers 3 「パンスト・ブルマー・ボンデージ3」 出演:結城香澄、花椿薫、斎藤ゆり 監督:水村幻幽 品番:DAPB-003 収録時間:70min 価格:5040円 メーカー:隷嬢寫眞館 |
「パンスト・ブルマー・ボンデージ3」 サンプルムービー
FLV形式 6.651MB 2分30秒
「ありがとうございます。あとはホットパンツにナチュラルストッキングとか、『どうなんだ』って物議を醸してる作品もありますけど、そう言っていただけると嬉しいです(笑)。若い頃に受けた衝撃からはなかなか逃れられないんですよね。瞼の裏に焼き付いてきたものがたくさんあって、そういうものが何らかの形で私の作品に影響しているのは事実だと思います」
(続く)
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隷嬢寫眞館
井上文 1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。 |
09.01.17更新 |
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