Interview with Real-mania
日本から生まれるアメリカン・レトロ・ボンデージ
〜マニアサイト『隷嬢寫眞館』設立12周年の偉業〜 【前篇】
文=井上文
拘束されて転がされた女体が柔らかくもがき、うめく――。
「ノン・ヌーディ」「ノン・セックス」で彩られたアメリカン・レトロ・ボンデージの伝統的美意識が1人の日本人が発揮するオリジナリティと融合して世界のボンデージ・マニアを魅了する新たなファンタジーに!
日本から生まれるアメリカン・レトロ・ボンデージ
〜マニアサイト『隷嬢寫眞館』設立12周年の偉業〜 【前篇】
文=井上文
「ノン・ヌーディ」「ノン・セックス」で彩られたアメリカン・レトロ・ボンデージの伝統的美意識が1人の日本人が発揮するオリジナリティと融合して世界のボンデージ・マニアを魅了する新たなファンタジーに!
ウェブサイト『隷嬢寫眞館』を主催するマニア男性、水村幻幽氏が追及し続けているテーマはアメリカン・レトロ・ボンデージ。一九五〇年代にアーヴィング・クロウらの手で確立されたアメリカン・レトロ・ボンデージは、いわゆる「SM」とはまったく異なる価値観のもとに、女体の美しさをかつてない角度から発見するための装置として働いていた。たとえばマリリンモンローとも比較される人気を誇ったべティ・ペイジは、アーヴィング・クロウが作ったピンナップ・ボンデージ・アイドルの代表格だ。そのファッショナブルな拘束姿は「鑑賞して愛でる」対象であり、ボンデージファンの間ではエロティックではあってもセックスや暴力とは別次元の芸術作品として位置づけられている(しかしべティ・ペイジの人気が最も高かった頃、アメリカではポルノ排斥運動の中で彼女のボンデージ写真も暴力表現の一つと誤解され、取り締まりの対象となった)。
学生時代にアメリカのボンデージ雑誌を見て以来、アメリカン・レトロ・ボンデージを愛し続けてきたという水村氏は、『隷嬢寫眞館』を拠点にしながら主に素人女性を使った独自のレトロ・ボンデージ映像の制作と販売を行なっている。内容は古き良きアメリカのコケティッシュなユーモアを感じさせるストーリーものから、(ボンデージの)ハウツーもの、特定のフェティッシュなアイテムをフィーチャーしたものなど様々だ。そのDVDタイトル数が昨年末で200を越えた(組み写真のタイトルは1000を突破)。水村氏が発信する“日本生まれのアメリカン・レトロ・ボンデージ”は、今や海外にも多くのファンを持つようになり、設立12周年にして早くもオリジナルな伝統を築きつつあるようにすら見える。その魅力とは何なのか。この機会をとらえて改めておさらいしてみたい。
●緊縛とボンデージの違いは「縛る目的」にある
普段の水村氏は会社社長であり、ボンデージとは無縁の仕事をしている。人柄はいたって温厚だ。氏が10年前に『隷嬢寫眞館』を立ち上げた時はあくまで趣味のつもりで、生活のメインはあくまで会社での仕事だったという。いわば多くの読者諸兄とほぼ変わらない立ち位置で自分の好きな世界とささやかに向き合っていたのだ。アメリカン・レトロ・ボンデージの歴史的な話は他でも勉強できるのでさて置き、ここでは水村氏の個人的活動に沿って話を聞きつつ、徐々に“日本生まれのアメリカン・レトロ・ボンデージ”というユニークな新ジャンルを浮き上がらせていくことにしよう。
――『隷嬢寫眞館』の作品とは何なのかということから始めたいと思います。まず、多くの人にはSMの「緊縛」と水村さんがしている「ボンデージ」の違いが分かりにくいんじゃないかと思うんです。どちらも拘束するわけですが、違いを改めて教えて下さい。
「日本のSM文化における縛りというのは主従を明確化する手段なんですよね。で、私が縛る目的というのは、自由を奪うため。その手段でしかないんです。だからシチュエーションの設定は、誘拐してきた人を縛るとか、泥棒が家の人を縛るとか、自由を奪う必然性さえあれば何でもいい。つまり相手に対して精神的な服従を求めることがないんです。日本のSMを見ていると最後はほどくことも少なくないんですけど、海外のものを見ていると自力で脱出しない限りいつまでも縛られているという設定が多いですよね。縛る目的の違いがシチュエーションにも表れているわけです」
↑男性キャラが登場することは原則としてない(男性が出る場合は黒子の衣装を着用し、イメージ的存在として扱われる)。出演者全員が鑑賞に耐えうる存在でなければならないというこだわりが窺える。
――その説明を誤解されないようにするのが難しいんですよね。精神的な繋がりを求めない=悪いことっぽいという。
「あくまでも、イマジネーションとかフィクションとか、そういう世界の一ジャンルの中から進化していると思うんですよ。ただもともとの、そのシチュエーションの起源をさかのぼれば魔女狩りとかね、そういう凶悪な世界に通じるところはあると思うんですけど」
――それはSMとの共通点とも言えますね。SMも暴力とは違うわけですが、嗜好の根を辿ればダークな部分に通じているだろうと考える人は少なくありません。でもその内省は理性的なもので、その理性があるからこそ“ごっこ”やプレイというものを楽しめるわけで。逃げたくないポイントですね。
「根底は繋がっていると思います。ダークな部分で言えば、日本の緊縛だと男尊女卑の文化の中で女性に対する仕置っていうものがあったり、その仕置が発展したものとして江戸刑罰みたいなものがある。ただその中にも、ボンデージチックなものがないわけじゃないんですよ。たとえば捕り縄とか」
――護送する時の縛りには装飾性がありますね。
「そう、あれは和のボンデージじゃないかと思う。私は緊縛に造詣があるわけではないんですけど、最終的に鑑賞することに動機がある拘束だと、私の中では緊縛じゃなくてボンデージになるという感じです」
――違いのポイントはそこですね。
「拘束した後、鑑賞することにピークがあるのか、他に目指すところがあるかでしょう」
――で、なぜ鑑賞するかということですが、萌えとかエロティックとか言い方はいろいろありそうですけど、アメリカン・レトロ・ボンデージが原点ですからまずは「美しいから」という表現しておいていいでしょうか。
「はい、結構です」
――そうすると、水村さんのボンデージの最終的な目的は「自由を奪われた女性の美しさを観賞する」ところにあって、フィクションを使ってそれを実現せしめるのが『隷嬢寫眞館』の作品だと言えそうですね。
「ボンデージや緊縛の定義については人それぞれあると思いますけど、私が『隷嬢寫眞館』でしているのは概ねそういうことになると思います」
●「もがき」と「うめき」を軸にして見つけ出す、一瞬の様式美
↑ボンデージにおいて脚は最も表情豊かなパーツの一つ。脚線美を強調するのに効果的なバックシームストッキングは特に人気のあるアイテム。
――続いて製作する上でのポイントを伺いたいと思います。まず、もう一つ素朴な興味として、大量のモデルさんをどう確保しているのかと。
「自分で応募してくるんです。ホームページを見てくるか、あとは人の紹介ですね。こっちのほうが多いです。出演したモデルさんの紹介ですね。私もどちらかと言えばそのほうが助かるんです。モデルさんが前もって説明しておいてくれるから」
――何人くらいいるんですか?
「単純に番号で言うと今は230番代までいますけど、私としては慣れてる人を何回も使いたい。こっちがカメラを向ければ、私の望むようにポーズをとってくれる人を」
――モデル探しより説明のほうが大変だと(笑)。
「やっぱりなかなか難しいですよ、こっちのツボに合わせて動いてもらうっていうのは。大半が素人の女性ですし、初対面だと特にね」
――できるわけがない(笑)。
「何度も撮影してれば勘のいい女性は分かってくれることもあるんですけどね。言葉だけで説明するのが大変なんです」
――そういえば2004年に出た『貴女もボンデージ・モデルになれる』という作品はモデルさんへの指導ビデオみたいな内容でしたね。「表情」「うめき方」「被虐のポーズ」「もがき方」「まとめ」と5部門に分かれていて、「表情」だけでも「驚き」「恐れ」「哀しみ」「焦り」「怒り」「諦め」「悦び」と使い分けをさせている。難しい……(笑)。
You can become a Bondage Model 「貴女もボンデージ・モデルになれる!」 出演:天城春花 監督:水村幻幽 品番:DASB-004 収録時間:75min 価格:5040円 メーカー:隷嬢寫眞館 |
「まず、多少は身動きができるけれども、逃げられないという状況が欲しいですね。状況が大事です。寄せられるメールによると中には全く動けない状態にして欲しいという要望もあるんですが、私の趣味としては多少動くほうがいい。その上で私がモデルさんに要求するのは、もがき方とうめき方。それに尽きます」
――確かに『隷嬢寫眞館』の作品は「もがき」と「うめき」の記録だと言ってもいい作り方です。いわゆるカラミもありませんし。具体的にはどういうもがき方とうめき方が合格なんでしょうか。
「それはやはり……私のツボに沿うようにとしか(笑)。だから指導がやっかいになるんですよね。もがきとうめきに付随してポーズとか表情も関係してくるんですけど、これは映像や画像で観てもらうしかないだろうと思っています。ざっくり言っても、抵抗してるようなケースと、従順な、要するに牝奴隷になってるようなケースとか、様々なパターンがありますけど、どのパターンにするかはその時の気分だったりもしますから(笑)」
「貴女もボンデージ・モデルになれる!」 サンプルムービー
FLV形式 6.66MB 2分31秒
作品を観ると、縛られて監禁されている設定のモデルがもがきの中でホグタイ(ボンデージにおける美しいポーズの定番)の姿勢をとったり、脚を曲げたり伸ばしたりする中に「キメ」のような一瞬を作っていることに気付く(長年のボンデージファンならすぐに分かるのかも知れないが、私は何度も観ているうちにようやく気付けるようになった)。漫然と観ているだけでは見過ごしてしまいそうな山場が、一見単調なもがきシーンの中にたっぷりと散りばめられているのだ。『隷嬢寫眞館』の作品に特有の長い放置は、観る人によっては不可解ですらあるかも知れない。が、まず自分というマニアを納得させるところに氏の作品のクオリティと真骨頂はあるのだ。“日本発のアメリカン・レトロ・ボンデージ”という矛盾したような存在が生まれる土壌も、氏が個人的な嗜好にこだわることによるオリジナリティが作っているのである。
(続く)
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隷嬢寫眞館
井上文 1971年生まれ。SM雑誌編集部に勤務後、フリー編集・ライターに。猥褻物を専門に、書籍・雑誌の裏方を務める。発明団体『BENRI編集室』顧問。 |
09.01.16更新 |
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