毎週土曜日更新! The dancing girls are in full bloom at their best.
咲きほころぶ踊り子たちの肖像 舞姫爛漫 第5回「片瀬永遠」【1】
写真・文・インタビュー=インベカヲリ★
モデル=片瀬永遠
ストリップ劇場でのストリップショー。黄金時代は過ぎたといえ、根強いファンはいまも劇場に通っています。そして踊り子たちもまた踊り続けているのです。そんな彼女たちの姿を追う「舞姫爛漫」第5回は片瀬永遠さんが登場です!
将来のことについて悩むとかいうのは、なかったですね。
そういうセンシティブな部分があんまりなかったというか。
そういうセンシティブな部分があんまりなかったというか。
白いドレスに般若の面を被り、激しく体を上下させながらステージに現れた片瀬永遠の姿には鬼気迫るものがあった。女の怒りと悲しみを表現したその演目は、ストリップというより芝居のようで、観る者をゾっとさせるほど表現力に満ちていた。ストリップでここまでやるか……。そう思ってしまうほどに、個性が鋭く光っていた。
ステージを下りて外へ出てきた片瀬永遠は、髪をひとつにまとめ、白いコートを羽織り、颯爽と歩く姿がキャリアウーマンのようだった。外見からは、踊り子であるということを微塵も感じさせない。なぜこういうタイプの女性がストリップをしているのだろう? 単刀直入に聞いてみたかったが、サラリと答えてくれそうな雰囲気でもなかった。ピンと伸ばした背筋と、まっすぐ顔を向け微笑む姿には、隙がなかった。
「ごめんなさい、足を組んでしまって」
席につくと、片瀬永遠はそう言って足を組んだ。私はとっくに足を組んでいた。前職は、礼儀正しさが求められる仕事であったようだ。
「大学を卒業して、2年間シティホテルに勤務してました。受付ですね。すごくやりがいはあったし、仕事は楽しかったですよ。でも、ストリップをやることになって辞めたんです」
片瀬永遠は、英語と中国語が話せる。外国語の専攻がある高校に進学し、中国の大学を卒業した。学生時代は、ストリップというものの存在すら知らなかったという。
「ストリップを知ったのは、テレビですね。当時『トゥナイト』を観ていて、たまたまストリッパーが出ていたんです。へえ〜こういう職業があるんだ、綺麗だなと思いました」
踊り子たちに話を聞くと、デビューへの道のりはスカウトや、知人に踊り子がいて紹介されたなど、人からきっかけを与えられる場合が多い。しかし片瀬永遠は違った。テレビを観て「綺麗だな」と思い、そして一人で劇場に足を運んだ。
「実際に観て、ピンと来たというか、まさに雷に打たれたような気持ちになりましたね」
悩みに悩んで半年後、ホテルマンの仕事を退職し、踊り子デビューを果たした。180度違う世界への転職だった。
水泳・クラシックバレエ
片瀬永遠は子供の頃から活発だった。習い事は、クラシック・バレエ、水泳、英会話。無理にやらされていたというわけではなく、全て自主的なもの。
「2歳から水泳をやっていたんですよ。それはたぶん健康のためでしょうね。でも、どんどんのめりこんでいって、小学生の頃にはジュニア五輪の強化選手にまでなってました。クラシック・バレエを始めたのは6歳のときで、今でも定期的に通っていますよ。発表会のビデオを見ていて『こういうキラキラしたの着て踊りたい』って母親に頼んで通い始めたんです。あとは、英会話ですね。スクールが楽しかったから、語学が大好きになったんです。忙しいという意識はなかったですよ。水泳なんかは強化選手になると毎日練習がありましたけど、それでも小学校の友達、中学校の友達と普通に遊んでいましたから」
水泳では絶対にオリンピックに出ると決めていた。英語が好きだから、将来は英語の先生になりたいと思っていた。小学校や中学校で自分の特技を発見できるというのは幸せなことだ。さぞかし迷いのない思春期だったのだろう。
「将来のことについて悩むとかいうのは、なかったですね。そういうセンシティブな部分があんまりなかったというか」
とは言うものの、人生をたやすく生きてきたわけではない。両親の教育が厳しかった片瀬永遠は、小学校六年生のときに自分の意思や努力とは関係なく、挫折を余儀なくされている。
「急に受験が決まったんですよ。公立の中学があまり評判のよくない学校だったんです。世間体ですよね。親が私立に行かせたいと言い出して。もちろん私のためを想ってなんですが、中学受験のために水泳をやめて、塾に通わされたんですよ。それがすっごく嫌で。せっかく友達もいてみんな同じ中学へ行くのに、どうしてこんなことしなくちゃいけないの? 水泳の強化選手になって絶対にオリンピックに出るって言ってたのに」
娘が強化選手にまで選ばれれば、喜ぶ親が普通だと思う。しかし片瀬永遠の場合は違った。
「『バカ言ってんじゃない! 所詮、習い事だ』って反対されました。ショックでしたね。まさかここまで真剣にやっているとは、思っていなかったんでしょうね」
話し合いの場は当然のように設けられず、水泳をやめ、塾に通うことが義務付けられた。しかしそこで反抗する。
「行きたくないから塾には行きませんでしたね。当然、親に連絡がいってばれるじゃないですか。やめさせられて、今度は家庭教師を付けられたんです」
片瀬永遠は仕方なしに勉強するポーズを取りながら、試験当日は答案を白紙で提出する。
「三校受けて、全部白紙で出しました」
自分の希望通り、公立中学へ進学。しかし受験が決まった時点で、強化選手への道は降りていた。込み上げる悔しさを必死で押し殺していた。
「躾の厳しい家庭ではあったと思います。でもあの時はそういうふうには思えなかった」
強く縛りつけられることで芽生えたフラストレーションは、大人になっても完全には癒えなかった。
「アルバイトも駄目、PHSも駄目。でも全部、コソコソと隠れながらしていましたよ」
駄目と言われても、知恵を絞ってやり遂げた。それでも親の目を盗むという行為に、少しずつストレスは蓄積されていた。
(続く)
片瀬永遠
新宿TSミュージック所属。2003年4月21日所属先となる新宿TSミュージックにてデビュー。温和な眼差しと慈愛に満ちた微笑み、また多彩なステージ構成と巧みな身体表現で古くからのストリップファンをも惹きつける魅力を持つ。 撮影=インベカヲリ★
モデル=片瀬永遠
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インベカヲリ★ 東京生まれ。編集プロダクション、映像制作会社勤務を経てフリー。写真、文筆、映像など多方面で活動中。著書に「取り扱い注意な女たち」。趣味は裁判傍聴。ホームページでは写真作品を随時アップ中。 インベカヲリ★ http://www.inbekawori.com/ |
08.03.15更新 |
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