DJ Harukichi shouts at the crossing of music and Eros. 毎週木曜日更新! DJハル吉の脳内性感ミックスアップ! 音楽とエロスの交差点【7】 『Brand upon the brain!』 Directors:Guy Maddin 文=DJハル吉 |
2006年に海外公開されたカナダのカルト監督ガイ・マディンの映画『Brand upon the brain!』。CGやHDビデオなどのデジタル全盛時代にスーパー8で撮影されたこのサイレント映画は、弁士、オーケストラ、音響効果が劇場で音を加えるという斬新なものでした。その作品が監督監修の下、ナレーション、音響、演奏を加えたバージョンとしてDVD化されました!
<< 前回の記事を読む
ぶらぶらとネット散策していて偶然見つけたこのモノクロ作品。トレーラーを観たらますます欲しくなって、注文しちゃいました。現在のところ国内発売の予定はなさそうですが、サイレントと多少のナレーションなので普通の海外映画よりは分かりやすいと思います。ストーリー重視というよりは映像でみせる監督でもありますし。
『Brand Upon The Brain!』映画トレーラー
『Brand upon the brain!』DVD
[ストーリー]
ペンキ屋ガイ・マディンに母から「(30年前に住んでいた)灯台に戻ってペンキを塗り直して」と手紙が届き、ガイはボートに乗って灯台のあるブラックノッチ島へ向う、子供の頃を思い出しながら。厳格な母、地下室で四六時中実験をしていた科学者の父、不良の姉のもとで育ったガイ。母は灯台で孤児院を経営しながら屋上から望遠鏡で子供達を監視する毎日。一方、孤児を引き取った養父母たちは子供の後頭部に焼印のような穴が開いてるのを不思議に思い、少女探偵ウェンディ・ヘイルに調査を依頼。島に着いたウェンディの調査が進むに連れ、徐々にガイ家の秘密が明らかになっていく……。
という感じなんですが、いかんせん輸入盤なんで誤解があるかもしれません。過去を思い出す話なので、断片的なストーリーや映像が次々とカットアップされ、目がチカチカします(笑)。また光量の少ない画面が記憶のあやふやさを表出してもいます。父親発明の無線機エアロホンを使って、母親が灯台屋上から野外にいるガイ姉弟を呼び寄せるシーンが頻繁に出てきますが、このエアロホンの形がアンティークのスピーカー付きカバンっぽくてかわいいんです。出てくる女性の髪形が20〜30年代っぽいところとか、探偵が少女だったり、ボート、灯台、孤児院と世界観はまるで第二次世界大戦前かチャップリン映画なんですけど、GL(百合?)系の軽いレズがあったり、暗く陰鬱とした映像、そしてメロディはありながらもキツイ和音や不協和音を取り入れたオーケストラBGMがやはり現代の作品であることを主張しています。デビッド・リンチ『イレイザーヘッド』をまともにした感じといいましょうか。ダーレン・アロノフスキー『π』が好きな人にもお薦めです。
先ほども少し触れましたが、この映画、もともとは完全なサイレントで、弁士、オーケストラ、音響技師がライブで音を加えるという斬新なものでした。したがって出演者が劇場によって違ったわけです。アメリカ・ニューヨーク公開時は前回紹介したミュージシャンのルー・リードが弁士を務めたり、ベルリン公開時は女優のイザベラ・ロッセリーニがナレーションを務めました。もちろんオーケストラも現地のオケを使っています。2007年には音とイザベラのナレーションを加えたバージョンが公開され日本でも『脳に烙印を!』のタイトルで第8回東京フィルメックスにて日本語字幕付きが上演されたようです。あぁ観たかった。そして今年、イザベラ・ロッセリーニの他にガイ監督本人、パフォーマーのローリー・アンダーソンのナレーションと音響効果、そして音楽全てを付けた完全版がDVD化されたのでした。
さてこのDVDには特典映像として未発表短編『It's my Mother's Birthday Today』と『Footsteps』が入ってます。特に『Footsteps』は『Brand upon〜』の映像を使いながら音響技師がどのように足音や波の音を映画に付けているか見せる作品で、『Brand upon〜』をライブで観たいと思わせてくれる内容です。さらに特典としてガイ・マディン監督への約50分のインタビューも収録。
一部はこちら
ガイ監督は今作を含め10の長編、短編になると20を越える映画を撮っているのですが、日本では初期2作品『ギムリ・ホスピタル』『アーク・エンジェル』がアップリンクからビデオ発売されたのみです。ぜひこの機会に他の過去作品も発売してもらいたいものです。少なくとも『Brand upon the brain!』はインタビューも入ってるので、日本語字幕付きでお願いします(って誰に?)。
(続く)
DJハル吉:今日の一枚
『THE UGLY ONE WITH THE JEWELS』(CD) LAURIE ANDERSON (1995年 WARNER)
『Brand upon the brain!』でナレーションを担当したローリー・アンダーソン。大掛かりのマルチメディア的ステージパフォーマンスを多くやってきた彼女がほぼ一人で行なった最もシンプルな欧米ツアー、イギリスでのライブ録音からの抜粋。回顧録本「THE NERVE BIBLE」の朗読。アンビエントのCDをかけっぱなしにして淡々としゃべってる感じ。トレードマークのヴォイス変調(エフェクターをかけた低い男声)も出番が少ない。終わりの方では十分弱しゃべり続け、観客の笑いが頻発する。うーん、やはり言葉の限界……。そうそう、以前紹介したルー・リードと今年結婚しましたね。お幸せに!
Laurie Andersonはこんな人です。
文=DJハル吉
関連リンク
映画『Brand upon the brain!』 公式サイト
『Brand upon the brain!』 DVDサイト
DJハル吉 7"インチ専門DJ。得意なジャンル:童謡とノイズ。その他インディーズ翻訳家兼作曲家。曲を演奏してくれるオーケストラ募集中。鳥の唐揚げが大好き、あとラム肉。座右の銘「猫は野良に限る」。 DJハル吉サイト=「峠の地蔵」毎週月曜更新 |
08.10.23更新 |
WEBスナイパー
>
音楽とエロスの交差点